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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode372
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プラットホームもない田舎駅に到着した汽車は、無事役目を終えて安堵しているようにルーファスには見えた。
ボルクンド王国のほぼ中央に位置する、エレギア地方にある小さな町フェルト。目立った産業は何もなく、牧場と麦畑を有する土地が周辺にあるだけの辺鄙な町だった。
フェルトから数十キロ離れたところにあるそこそこ大きな街へは、乗合馬車を使って行く。こんな上等で立派な汽車が乗り入れることなどまずなかった。
都会のステーションに比べると、どこの更地だろうと思えるほどお粗末なステーションには、ハワドウレ皇国軍特殊部隊ダエヴァの軍人たちが、所狭しと詰めている。
世界中にその力を轟かせた召喚士の少女キュッリッキ、ハワドウレ皇国副宰相兼軍総帥ベルトルド、魔法部隊長官アルカネット、この3人が到着したことで、町の中は一気に厳戒態勢になった。
すでに陽は沈み、ステーションは真っ暗で、魔法使い達による魔法の光が柔らかく辺りを照らしていた。
「足元に気をつけてください」
先に降り立ったメルヴィンが、両腕を伸ばしてキュッリッキが降りるのを手伝う。
手伝ってもらうのは嬉しいのだが、恥ずかしくてまともにメルヴィンの顔も見られないキュッリッキは、メルヴィンの手を掴んで、危なっかしくすとんと降り立った。
「ありがとう」
俯きながら、恥ずかしそうに礼を言う。
「どういたしまして」
そんなキュッリッキに、メルヴィンは優しく微笑んだ。
「皆様、長旅お疲れ様でした」
四角い積み木のような顔をした男が、敬礼と共にベルトルドたちの前に立った。
「おう、町はどんな感じだ? アルヴァー大佐」
「はっ。町民は全て役場にまとめ軟禁してあります。一人も漏れ出ないよう、役場の敷地には結界を張っておきました。町の随所にはダエヴァが全て配置されております。閣下や皆様の宿泊される宿も抑え、安全はチェック済みです」
「判った、ご苦労」
アルヴァー大佐は折り目正しく敬礼した。
それを見やって、ベルトルドは小さく首をかしげる。
「アルヴァー」
「はい」
「お前、ますます顔が四角くなったな」
「は、はあ……」
余計なお世話なことを真顔で言われて、アルヴァー大佐は困ったように目を瞬かせた。
「こんなところで部下虐めをしないで下さい、困っているじゃないですか。早く宿に案内してもらいましょう、いつまでリッキーさんを立たせておくつもりです」
背後からため息混じりに叱られて、ベルトルドはいたずらっ子のように首をすくめた。
「案内しろ」
突っ慳貪にベルトルドに言われ、アルヴァー大佐は困った顔のまま、手振りで道を示した。
先ほどアルヴァー大佐が説明したように、町民は全て役場に集められて留守にしているため、店も民家も灯りは点いていない。ほとんど街灯も設置されていないので、町内は真っ暗だった。
配置されているダエヴァたちは、明かりを一切つけていない。そのためベルトルドやキュッリッキが歩きやすいように、アルカネットが魔法の光で路上を照らしながらの移動になった。
駅から歩くこと10分ほどで、一行は宿に到着した。
町の規模からして不釣り合いな、貴族の館のような外観の、立派な二階建ての宿だ。
ベルトルドは意外そうに見上げると、「ふーん」と若干感心したように口をちょっと尖らせた。その横に立って、アルカネットも宿を見上げる。
「エルアーラに一番近い町なので、ケレヴィルの関係者もよくこの宿を利用していたそうです」
「ほほう、ウチの連中が世話になっていたのか。………それはさぞ、はずんでいったんだろうな。あいつら、高給取りだから」
高給、の部分を強調して言うベルトルドに、アルヴァー大佐は僅かに首をすくめた。
「給料ばかり吸い上げて、肝心の遺跡を乗っ取られるんじゃ減給モンだな」
「そうですねえ。給料の見直し案を提出しておきましょうか」
アルカネットも涼しい顔で、さらりと無慈悲なことを言ってのけ、さらにアルヴァー大佐は身を縮こませた。顔は四角くても、心はデリケートなようだ。
「皆様中へ……」
アルヴァー大佐に恐る恐る宿に入ることをすすめられ、ベルトルドは「んっ」と返事をして宿に入っていった。そのあとにアルカネット、ルーファス、メルヴィンと、メルヴィンに手をひかれたキュッリッキが続いた。
ボルクンド王国のほぼ中央に位置する、エレギア地方にある小さな町フェルト。目立った産業は何もなく、牧場と麦畑を有する土地が周辺にあるだけの辺鄙な町だった。
フェルトから数十キロ離れたところにあるそこそこ大きな街へは、乗合馬車を使って行く。こんな上等で立派な汽車が乗り入れることなどまずなかった。
都会のステーションに比べると、どこの更地だろうと思えるほどお粗末なステーションには、ハワドウレ皇国軍特殊部隊ダエヴァの軍人たちが、所狭しと詰めている。
世界中にその力を轟かせた召喚士の少女キュッリッキ、ハワドウレ皇国副宰相兼軍総帥ベルトルド、魔法部隊長官アルカネット、この3人が到着したことで、町の中は一気に厳戒態勢になった。
すでに陽は沈み、ステーションは真っ暗で、魔法使い達による魔法の光が柔らかく辺りを照らしていた。
「足元に気をつけてください」
先に降り立ったメルヴィンが、両腕を伸ばしてキュッリッキが降りるのを手伝う。
手伝ってもらうのは嬉しいのだが、恥ずかしくてまともにメルヴィンの顔も見られないキュッリッキは、メルヴィンの手を掴んで、危なっかしくすとんと降り立った。
「ありがとう」
俯きながら、恥ずかしそうに礼を言う。
「どういたしまして」
そんなキュッリッキに、メルヴィンは優しく微笑んだ。
「皆様、長旅お疲れ様でした」
四角い積み木のような顔をした男が、敬礼と共にベルトルドたちの前に立った。
「おう、町はどんな感じだ? アルヴァー大佐」
「はっ。町民は全て役場にまとめ軟禁してあります。一人も漏れ出ないよう、役場の敷地には結界を張っておきました。町の随所にはダエヴァが全て配置されております。閣下や皆様の宿泊される宿も抑え、安全はチェック済みです」
「判った、ご苦労」
アルヴァー大佐は折り目正しく敬礼した。
それを見やって、ベルトルドは小さく首をかしげる。
「アルヴァー」
「はい」
「お前、ますます顔が四角くなったな」
「は、はあ……」
余計なお世話なことを真顔で言われて、アルヴァー大佐は困ったように目を瞬かせた。
「こんなところで部下虐めをしないで下さい、困っているじゃないですか。早く宿に案内してもらいましょう、いつまでリッキーさんを立たせておくつもりです」
背後からため息混じりに叱られて、ベルトルドはいたずらっ子のように首をすくめた。
「案内しろ」
突っ慳貪にベルトルドに言われ、アルヴァー大佐は困った顔のまま、手振りで道を示した。
先ほどアルヴァー大佐が説明したように、町民は全て役場に集められて留守にしているため、店も民家も灯りは点いていない。ほとんど街灯も設置されていないので、町内は真っ暗だった。
配置されているダエヴァたちは、明かりを一切つけていない。そのためベルトルドやキュッリッキが歩きやすいように、アルカネットが魔法の光で路上を照らしながらの移動になった。
駅から歩くこと10分ほどで、一行は宿に到着した。
町の規模からして不釣り合いな、貴族の館のような外観の、立派な二階建ての宿だ。
ベルトルドは意外そうに見上げると、「ふーん」と若干感心したように口をちょっと尖らせた。その横に立って、アルカネットも宿を見上げる。
「エルアーラに一番近い町なので、ケレヴィルの関係者もよくこの宿を利用していたそうです」
「ほほう、ウチの連中が世話になっていたのか。………それはさぞ、はずんでいったんだろうな。あいつら、高給取りだから」
高給、の部分を強調して言うベルトルドに、アルヴァー大佐は僅かに首をすくめた。
「給料ばかり吸い上げて、肝心の遺跡を乗っ取られるんじゃ減給モンだな」
「そうですねえ。給料の見直し案を提出しておきましょうか」
アルカネットも涼しい顔で、さらりと無慈悲なことを言ってのけ、さらにアルヴァー大佐は身を縮こませた。顔は四角くても、心はデリケートなようだ。
「皆様中へ……」
アルヴァー大佐に恐る恐る宿に入ることをすすめられ、ベルトルドは「んっ」と返事をして宿に入っていった。そのあとにアルカネット、ルーファス、メルヴィンと、メルヴィンに手をひかれたキュッリッキが続いた。
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