390 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode371
しおりを挟む
「………」
特別室の中では、なんとも言い難い沈黙が漂っていた。
「こんなところで大技(とっておき)を出すとは……」
「久しぶりに拝みましたね、サンダースパーク……」
「オレあんな技、大規模で発動できねえよ……」
三者三様ゲッソリとしたため息が、深々と吐き出された。
魔力によってあらゆる元素の力を作り出せる魔法使いと違い、サイ《超能力》使いの能力では元素の力を生み出すことはできない。しかし、自然界に漂っている力を収束して、形状を変化させて扱うことはできる。
微量単位の電気を集めて、そのエネルギー体を武器として使いこなす。それを瞬時に行える能力者は限られ、大規模に扱うことが出来るのはベルトルド級くらいなものだ。
ベルトルドは目を開き、フンッと鼻息を吹き出した。
「あれじゃ物足りん!!」
「お疲れ様です。いいじゃないですか、大人げない大技を繰り出したんですから」
「お前が言うなお前が! イラアルータ・トニトルスで派手に街をぶっ壊しておきながら」
「効率のいい魔法を選んで使っただけですよ」
アルカネットはしれっと言ってそっぽを向く。
「じゃあ俺だって効率化をはかったまでだ!」
忌々しげにアルカネットを睨みながら、ベルトルドは不機嫌そうに頬をひきつらせた。
「うん……」
そこへキュッリッキが小さく声を上げて目を覚ました。
メルヴィンの膝に頭を預けたままのキュッリッキの目に、アルカネット、ルーファス、ベルトルドが心配そうにこちらを見ている姿が入ってきた。
そこにメルヴィンがいないことに気づいて、そして自分が誰かの膝枕で寝ていることにも気づく。
(…えと、それってもしかして…)
途端にキュッリッキは全身を硬直させて、瞬時に顔を真っ赤にした。
(もしかしてもしかしてもしかしてっ!)
キュッリッキは跳ね起きるようにして膝から離れると、座席の上に四つん這いになって顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込むメルヴィンと目が合い、キュッリッキはさらに顔を真っ赤にさせて全身に大汗をかいた。
キュッリッキの頭の中では、高速で記憶が巻き返されている。
アルカネットの腕から逃れたあと、メルヴィンに助け起こされて、そのあと自分がとった行動は――!
メルヴィンの胸に飛び込んで、大泣きした。
頬や手にはっきりと残るメルヴィンの逞しい胸の感触、優しく頭を撫でられた大きな手の感触。それらを思い起こして、頭の中が真っ白になって失神寸前になる。
嬉しいはずなのに、それを上回るほどの恥ずかしさ。
「本当に大丈夫ですか? 顔が真っ赤だけど、熱でもあるのかなあ」
硬直したまま動こうともしないキュッリッキを怪訝そうに見ながら、メルヴィンはキュッリッキの額に掌をあてる。
「うーん…熱いけど、病気の熱とは違うのかな? オレ医者じゃないから判らないですが」
2人の様子を遠巻きに見つめながら、アルカネット、ルーファス、ベルトルドは、
(いい加減気づけ……)
と、酷く疲れたように内心でツッコミまくっていた。
メルヴィンの恋愛方面の鈍さは前々から知っていたが、ここまで鈍いとどうしようもない。というか、キュッリッキが憐れでならないルーファスだった。
可哀想なキュッリッキに助け舟を出したいと思っていても、このタイミングでどう出せばいいのかきっかけを掴めず、ヤキモキしていたベルトルドとアルカネットは、フェルト到着を知らせる車内アナウンスに、どこかホッとしたように肩の力を抜いた。
特別室の中では、なんとも言い難い沈黙が漂っていた。
「こんなところで大技(とっておき)を出すとは……」
「久しぶりに拝みましたね、サンダースパーク……」
「オレあんな技、大規模で発動できねえよ……」
三者三様ゲッソリとしたため息が、深々と吐き出された。
魔力によってあらゆる元素の力を作り出せる魔法使いと違い、サイ《超能力》使いの能力では元素の力を生み出すことはできない。しかし、自然界に漂っている力を収束して、形状を変化させて扱うことはできる。
微量単位の電気を集めて、そのエネルギー体を武器として使いこなす。それを瞬時に行える能力者は限られ、大規模に扱うことが出来るのはベルトルド級くらいなものだ。
ベルトルドは目を開き、フンッと鼻息を吹き出した。
「あれじゃ物足りん!!」
「お疲れ様です。いいじゃないですか、大人げない大技を繰り出したんですから」
「お前が言うなお前が! イラアルータ・トニトルスで派手に街をぶっ壊しておきながら」
「効率のいい魔法を選んで使っただけですよ」
アルカネットはしれっと言ってそっぽを向く。
「じゃあ俺だって効率化をはかったまでだ!」
忌々しげにアルカネットを睨みながら、ベルトルドは不機嫌そうに頬をひきつらせた。
「うん……」
そこへキュッリッキが小さく声を上げて目を覚ました。
メルヴィンの膝に頭を預けたままのキュッリッキの目に、アルカネット、ルーファス、ベルトルドが心配そうにこちらを見ている姿が入ってきた。
そこにメルヴィンがいないことに気づいて、そして自分が誰かの膝枕で寝ていることにも気づく。
(…えと、それってもしかして…)
途端にキュッリッキは全身を硬直させて、瞬時に顔を真っ赤にした。
(もしかしてもしかしてもしかしてっ!)
キュッリッキは跳ね起きるようにして膝から離れると、座席の上に四つん這いになって顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込むメルヴィンと目が合い、キュッリッキはさらに顔を真っ赤にさせて全身に大汗をかいた。
キュッリッキの頭の中では、高速で記憶が巻き返されている。
アルカネットの腕から逃れたあと、メルヴィンに助け起こされて、そのあと自分がとった行動は――!
メルヴィンの胸に飛び込んで、大泣きした。
頬や手にはっきりと残るメルヴィンの逞しい胸の感触、優しく頭を撫でられた大きな手の感触。それらを思い起こして、頭の中が真っ白になって失神寸前になる。
嬉しいはずなのに、それを上回るほどの恥ずかしさ。
「本当に大丈夫ですか? 顔が真っ赤だけど、熱でもあるのかなあ」
硬直したまま動こうともしないキュッリッキを怪訝そうに見ながら、メルヴィンはキュッリッキの額に掌をあてる。
「うーん…熱いけど、病気の熱とは違うのかな? オレ医者じゃないから判らないですが」
2人の様子を遠巻きに見つめながら、アルカネット、ルーファス、ベルトルドは、
(いい加減気づけ……)
と、酷く疲れたように内心でツッコミまくっていた。
メルヴィンの恋愛方面の鈍さは前々から知っていたが、ここまで鈍いとどうしようもない。というか、キュッリッキが憐れでならないルーファスだった。
可哀想なキュッリッキに助け舟を出したいと思っていても、このタイミングでどう出せばいいのかきっかけを掴めず、ヤキモキしていたベルトルドとアルカネットは、フェルト到着を知らせる車内アナウンスに、どこかホッとしたように肩の力を抜いた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる