片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
389 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode370

しおりを挟む
 腕を組んでドンッと座したまま、ベルトルドは目をつむって若干顔を俯かせている。

 ベルトルドの脳裏には、汽車の外を飛ぶ奇襲部隊の光景が、鮮明に映し出されていた。

「どう叩き落とすおつもりです?」

「空間転移でどっかに捨ててしまうのが早いが、それだと俺が暫く鈍るからな。――そうだなあ………こうするか」

 そういって眉間に力を込める。

 室内のベルトルドにはとくに変化は見られなかったが、汽車の外では奇襲部隊たちが騒然とどよめいていた。

 宙を飛ぶ自分たちの周囲に、突如青白い光の玉が出現したのだ。

 それはかなりの数で、奇襲部隊の傭兵たちを包囲するように光っている。そして光は僅かに電気を帯びていた。

(あれってもしかして……)

 ルーファスも外の様子を透視しながら、アルカネットとメルヴィンにも映像を送っていた。

 ちらりとベルトルドを見ると、相変わらずむすっとした表情のまま意識を集中している。よっぽどストレス溜まっているんだな、と判るくらいの露骨っぷりだ。

 今回のフェルトまでの汽車旅で、ベルトルドにはちょっとした自分だけのプランがあった。

 わざわざこんな上等な汽車を手配させたのも、全てはキュッリッキを喜ばせたいためであり、短い旅の間キュッリッキとイチャイチャしたい願望がむき出しである。

 しかしキュッリッキはアルカネットによって薬で眠らされ、起きたらそのことで怒って泣いてしまい、挙句慰める役はメルヴィンに持って行かれてしまった。そして泣きつかれてまた寝てしまっている。

 イチャイチャどころか会話すらできない。ハグも全く出来ていない。

 ベルトルドの怒りとストスレは、すでに頂点を突き抜けかけている。

 そんな時に逆臣軍から差し向けられた奇襲部隊。彼らは不運としか言い様がない。

「サイ《超能力》の攻撃が地味とか言ってるやつ!!」

 誰も言っていないが、ベルトルドは怒りを顕にした声でいきなり怒鳴る。

「こういう派手な攻撃もできると思い知れ!!」

 それを合図にしたように、奇襲部隊の傭兵たちを包囲するように漂っていた光の玉が、帯びた電気を放出し始め、周囲を稲妻の光で強く照らし始めた。

 傭兵たちは狼狽し、このあとどうなるか瞬時に想像して、攻撃することも忘れて守りに入ろうとした。

「遅いわっ!!」

 その瞬間、光の玉が大きく膨れ上がって奇襲部隊の傭兵たちを飲み込んだ。

 落雷にも似た轟音が鳴り響き、夕闇に染まる空間に強烈に発光した。車窓が一瞬、真っ白な強い光を照らし込む。

 光の玉が大爆発を引き起こしたのだ。

 ゆっくりと光が収束すると、宙にいたはずの傭兵たちは跡形もなく消え去っており、流れる風に、ほのかな肉の焼ける焦げた臭いが混じっていた。

 汽車は何事もなかったように速度を緩めず、奇襲部隊の襲撃を一切受けることなく突き進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...