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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode366
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それに気づいたアルカネットとベルトルドが勢い込んで覗き込むと、睫毛を僅かに震わせながらキュッリッキが目を覚ました。
目を覚まして暫くは、何度か目を瞬かせて辺りをキョロキョロと見ていた。状況がうまく判断できないようで、やがてアルカネットに気づいて首を傾げた。
「アルカネットさん?」
「はい。おはようございます」
霞がかかったようにぼんやりとする頭で、キュッリッキはふとメルヴィンが視界にいないことに気づいて、不安そうにアルカネットを見上げた。アルカネットの正面に座っているが、腕に抱かれている態勢では死角になって見えていなかった。
(なんだろう…ぼんやりするの…。それにココ、どこだろう)
オーバリーに向かう汽車に乗っていた。アルカネットもその時にはいなかったはずなのに、何故アルカネットがいるのだろうか。それに、どうしてこんなに意識がぼんやりとしているだろう。
ゆっくりと記憶を辿り、やがて食後に酷く眠気に襲われたことを思い出した。
「アタシご飯食べたあと、すごく眠くなったの。ずっと大丈夫だったのにどうしてなんだろう、なんでこんな寝ちゃったのかな」
わけが判らないといったように、多少パニック気味にキュッリッキは声をあげた。
まだ怪我で臥せっていた頃、いきなり眠気に襲われることがよくあった。そのときは体調がよくないためだと思っていたので、気にしたことはない。しかし今は旅ができるほど元気になった。自分の体調は、自分がよく判っているハズなのに。
「アルカネットの奴が、眠り薬を盛ったんだ」
横目でアルカネットを睨みながら、先を越された仕返しとばかりに、ベルトルドが嫌味たっぷりに含んで言う。
「え? いつ?」
「汽車の中でキューリちゃんが食べてた、サンドやケーキに入ってたみたい」
おそらくはと肩をすくめながら、遠慮がちにルーファスが告げた。
キュッリッキは暫く無言でアルカネットの胸元のスカーフを見つめていたが、ふいに悲しげにアルカネットを見上げた。
「どうして? アタシ、なんで寝なくちゃいけなかったの?」
あまりにも悲壮漂う目で問われ、アルカネットは一瞬言葉に詰まった。
「怪我は治ったし、ちゃんとお仕事できるようにリハビリ頑張ったし、ヴィヒトリ先生も大丈夫だって太鼓判押してくれたんだよ? アタシもう大丈夫なのに――」
「すみません、でもまだあたなの身体は万全とは言えません。エルアーラに着けば、休むことは出来ないのです。休める今のうちに、身体を休めておかないと」
労わるように言われたが、キュッリッキはイヤイヤをするように激しく頭(かぶり)をふった。
「アタシ大丈夫だもん! 今までだって、ずっと一人で頑張ってきたんだから、このくらいもうどうってことないよ!!」
「リッキーさん」
「おろしてっ!」
暴れるように身をもがき、キュッリッキはアルカネットの腕からスルリと床に転げ落ちてしまった。
床に激しく身体を打ち付けると、キュッリッキは一瞬息が詰まって、小さな呻き声をあげた。
目を覚まして暫くは、何度か目を瞬かせて辺りをキョロキョロと見ていた。状況がうまく判断できないようで、やがてアルカネットに気づいて首を傾げた。
「アルカネットさん?」
「はい。おはようございます」
霞がかかったようにぼんやりとする頭で、キュッリッキはふとメルヴィンが視界にいないことに気づいて、不安そうにアルカネットを見上げた。アルカネットの正面に座っているが、腕に抱かれている態勢では死角になって見えていなかった。
(なんだろう…ぼんやりするの…。それにココ、どこだろう)
オーバリーに向かう汽車に乗っていた。アルカネットもその時にはいなかったはずなのに、何故アルカネットがいるのだろうか。それに、どうしてこんなに意識がぼんやりとしているだろう。
ゆっくりと記憶を辿り、やがて食後に酷く眠気に襲われたことを思い出した。
「アタシご飯食べたあと、すごく眠くなったの。ずっと大丈夫だったのにどうしてなんだろう、なんでこんな寝ちゃったのかな」
わけが判らないといったように、多少パニック気味にキュッリッキは声をあげた。
まだ怪我で臥せっていた頃、いきなり眠気に襲われることがよくあった。そのときは体調がよくないためだと思っていたので、気にしたことはない。しかし今は旅ができるほど元気になった。自分の体調は、自分がよく判っているハズなのに。
「アルカネットの奴が、眠り薬を盛ったんだ」
横目でアルカネットを睨みながら、先を越された仕返しとばかりに、ベルトルドが嫌味たっぷりに含んで言う。
「え? いつ?」
「汽車の中でキューリちゃんが食べてた、サンドやケーキに入ってたみたい」
おそらくはと肩をすくめながら、遠慮がちにルーファスが告げた。
キュッリッキは暫く無言でアルカネットの胸元のスカーフを見つめていたが、ふいに悲しげにアルカネットを見上げた。
「どうして? アタシ、なんで寝なくちゃいけなかったの?」
あまりにも悲壮漂う目で問われ、アルカネットは一瞬言葉に詰まった。
「怪我は治ったし、ちゃんとお仕事できるようにリハビリ頑張ったし、ヴィヒトリ先生も大丈夫だって太鼓判押してくれたんだよ? アタシもう大丈夫なのに――」
「すみません、でもまだあたなの身体は万全とは言えません。エルアーラに着けば、休むことは出来ないのです。休める今のうちに、身体を休めておかないと」
労わるように言われたが、キュッリッキはイヤイヤをするように激しく頭(かぶり)をふった。
「アタシ大丈夫だもん! 今までだって、ずっと一人で頑張ってきたんだから、このくらいもうどうってことないよ!!」
「リッキーさん」
「おろしてっ!」
暴れるように身をもがき、キュッリッキはアルカネットの腕からスルリと床に転げ落ちてしまった。
床に激しく身体を打ち付けると、キュッリッキは一瞬息が詰まって、小さな呻き声をあげた。
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