片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
385 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode366

しおりを挟む
 それに気づいたアルカネットとベルトルドが勢い込んで覗き込むと、睫毛を僅かに震わせながらキュッリッキが目を覚ました。

 目を覚まして暫くは、何度か目を瞬かせて辺りをキョロキョロと見ていた。状況がうまく判断できないようで、やがてアルカネットに気づいて首を傾げた。

「アルカネットさん?」

「はい。おはようございます」

 霞がかかったようにぼんやりとする頭で、キュッリッキはふとメルヴィンが視界にいないことに気づいて、不安そうにアルカネットを見上げた。アルカネットの正面に座っているが、腕に抱かれている態勢では死角になって見えていなかった。

(なんだろう…ぼんやりするの…。それにココ、どこだろう)

 オーバリーに向かう汽車に乗っていた。アルカネットもその時にはいなかったはずなのに、何故アルカネットがいるのだろうか。それに、どうしてこんなに意識がぼんやりとしているだろう。

 ゆっくりと記憶を辿り、やがて食後に酷く眠気に襲われたことを思い出した。

「アタシご飯食べたあと、すごく眠くなったの。ずっと大丈夫だったのにどうしてなんだろう、なんでこんな寝ちゃったのかな」

 わけが判らないといったように、多少パニック気味にキュッリッキは声をあげた。

 まだ怪我で臥せっていた頃、いきなり眠気に襲われることがよくあった。そのときは体調がよくないためだと思っていたので、気にしたことはない。しかし今は旅ができるほど元気になった。自分の体調は、自分がよく判っているハズなのに。

「アルカネットの奴が、眠り薬を盛ったんだ」

 横目でアルカネットを睨みながら、先を越された仕返しとばかりに、ベルトルドが嫌味たっぷりに含んで言う。

「え? いつ?」

「汽車の中でキューリちゃんが食べてた、サンドやケーキに入ってたみたい」

 おそらくはと肩をすくめながら、遠慮がちにルーファスが告げた。

 キュッリッキは暫く無言でアルカネットの胸元のスカーフを見つめていたが、ふいに悲しげにアルカネットを見上げた。

「どうして? アタシ、なんで寝なくちゃいけなかったの?」

 あまりにも悲壮漂う目で問われ、アルカネットは一瞬言葉に詰まった。

「怪我は治ったし、ちゃんとお仕事できるようにリハビリ頑張ったし、ヴィヒトリ先生も大丈夫だって太鼓判押してくれたんだよ? アタシもう大丈夫なのに――」

「すみません、でもまだあたなの身体は万全とは言えません。エルアーラに着けば、休むことは出来ないのです。休める今のうちに、身体を休めておかないと」

 労わるように言われたが、キュッリッキはイヤイヤをするように激しく頭(かぶり)をふった。

「アタシ大丈夫だもん! 今までだって、ずっと一人で頑張ってきたんだから、このくらいもうどうってことないよ!!」

「リッキーさん」

「おろしてっ!」

 暴れるように身をもがき、キュッリッキはアルカネットの腕からスルリと床に転げ落ちてしまった。

 床に激しく身体を打ち付けると、キュッリッキは一瞬息が詰まって、小さな呻き声をあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

《書籍化》転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
《アルファポリス・レジーナブックスより書籍化されました》 ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...