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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode364
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およそ200人近い敵を、イラアルータ・トニトルスの雷撃で瞬殺したアルカネットは、真っ黒な焼死体の溢れる中を、頓着せずにまっすぐ歩いてきた。辺は酷く焦げた臭いに満ち溢れている。
攻撃魔法の中では、雷属性がもっとも威力があり、扱いが難しいとされている。あれだけの雷撃を扱えるのは、世界広しといえどアルカネットだけだ。それでも破壊の規模からして、力を抑えているのは明らかだった。
ダエヴァたちはすぐさま姿勢を正して敬礼した。ベルトルドの私兵にも近い存在である彼らにとって、アルカネットも上官のようなものだった。
メルヴィンとルーファスは面食らったようにアルカネットを見ていたが、慌てて姿勢を正す。
そんな彼らには目もくれず、まっすぐルーファスに近づくと、何も言わず奪い取るようにしてキュッリッキを自らの腕に抱き上げた。
愛しい少女の身体のぬくもりを、手袋越しに温かく感じながら、ぐっすりと眠っている顔を見つめそっと頬ずりした。
「建物まで壊すな馬鹿者!」
アルカネットに気を取られていた一同は、轟くような怒号にハッと顔を向けた。
真っ白なマントをひるがえさせながら、ベルトルドがむすっとした表情(かお)で大股に歩いてくる。敵のいた周囲のステーション以外の建物は、イラアルータ・トニトルスの雷撃で木っ端微塵に吹き飛んで、瓦礫からは煙がたなびいていた。
「私に関係のあるものではありませんから、どうでもいいのですよ」
キュッリッキを優しく見つめながら、素っ気なく言い放つ。
「あとでリューにどやされるのは俺なんだぞ、全く」
ベルトルドは一同の前に立つと、両手を腰に当ててフンッと鼻息を吐き出した。
「ご苦労だったな貴様たち。アサシンどもがだいぶ徘徊してるようだが、感知し次第、遠慮なく殺ってしまえメルヴィン」
「あ、はい」
「その他雑魚どもはだいたい始末はついただろう。汽車へ奇襲を仕掛けてきていた連中の掃除も終わったようだ」
業務連絡的に口早に言うと、アルカネットの腕の中で眠り続けているキュッリッキに目を向け、眉をしかめた。
「また薬で眠らせているのか?」
「私の特別調合による魔法薬で」
アルカネットの答えに、ベルトルドは深々とため息をついた。
「あれほど薬で眠らせるなと、言ってあるだろう」
「彼女はまだ万全の体力ではありません。無理をさせれば身体に障ります」
「無理な旅にならないように、こうして護衛も付けてある。この程度は問題ないんだ」
「万全ではないと、言ったはずですよ。無理をさせて身体を壊したあとでは遅いのです。もう苦しい思いはさせたくありません」
まるで取り付く島もないアルカネットに、ベルトルドは困った顔でため息をついた。なおも言い募ろうと口を開きかけ、唐突にベルトルドは口を閉じる。あまり部下たちの前でする問答ではないと気づいたからだ。
肩でひと呼吸置くと、くるりと踵を返す。
「汽車に乗るぞ」
一言だけ言って歩き出したベルトルドに、皆頷き従った。
攻撃魔法の中では、雷属性がもっとも威力があり、扱いが難しいとされている。あれだけの雷撃を扱えるのは、世界広しといえどアルカネットだけだ。それでも破壊の規模からして、力を抑えているのは明らかだった。
ダエヴァたちはすぐさま姿勢を正して敬礼した。ベルトルドの私兵にも近い存在である彼らにとって、アルカネットも上官のようなものだった。
メルヴィンとルーファスは面食らったようにアルカネットを見ていたが、慌てて姿勢を正す。
そんな彼らには目もくれず、まっすぐルーファスに近づくと、何も言わず奪い取るようにしてキュッリッキを自らの腕に抱き上げた。
愛しい少女の身体のぬくもりを、手袋越しに温かく感じながら、ぐっすりと眠っている顔を見つめそっと頬ずりした。
「建物まで壊すな馬鹿者!」
アルカネットに気を取られていた一同は、轟くような怒号にハッと顔を向けた。
真っ白なマントをひるがえさせながら、ベルトルドがむすっとした表情(かお)で大股に歩いてくる。敵のいた周囲のステーション以外の建物は、イラアルータ・トニトルスの雷撃で木っ端微塵に吹き飛んで、瓦礫からは煙がたなびいていた。
「私に関係のあるものではありませんから、どうでもいいのですよ」
キュッリッキを優しく見つめながら、素っ気なく言い放つ。
「あとでリューにどやされるのは俺なんだぞ、全く」
ベルトルドは一同の前に立つと、両手を腰に当ててフンッと鼻息を吐き出した。
「ご苦労だったな貴様たち。アサシンどもがだいぶ徘徊してるようだが、感知し次第、遠慮なく殺ってしまえメルヴィン」
「あ、はい」
「その他雑魚どもはだいたい始末はついただろう。汽車へ奇襲を仕掛けてきていた連中の掃除も終わったようだ」
業務連絡的に口早に言うと、アルカネットの腕の中で眠り続けているキュッリッキに目を向け、眉をしかめた。
「また薬で眠らせているのか?」
「私の特別調合による魔法薬で」
アルカネットの答えに、ベルトルドは深々とため息をついた。
「あれほど薬で眠らせるなと、言ってあるだろう」
「彼女はまだ万全の体力ではありません。無理をさせれば身体に障ります」
「無理な旅にならないように、こうして護衛も付けてある。この程度は問題ないんだ」
「万全ではないと、言ったはずですよ。無理をさせて身体を壊したあとでは遅いのです。もう苦しい思いはさせたくありません」
まるで取り付く島もないアルカネットに、ベルトルドは困った顔でため息をついた。なおも言い募ろうと口を開きかけ、唐突にベルトルドは口を閉じる。あまり部下たちの前でする問答ではないと気づいたからだ。
肩でひと呼吸置くと、くるりと踵を返す。
「汽車に乗るぞ」
一言だけ言って歩き出したベルトルドに、皆頷き従った。
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