片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode363

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 メルヴィンは正面にいた図体のでかい男の大剣との競り合いを避け、上段に構えて一気に刃を振り下ろした。

 男はてっきり打ち合うものとばかり思い込んで構えていたため、左腕ごと肩から深くバッサリと斬り落とされて、反動で後ろに倒れ込んだ。

 血飛沫の舞う中それを避けようともせず、すぐさま左にいた男を袈裟斬りにして、身体を素早く回転させ、右側の男を逆袈裟斬りにする。

 そのあまりの動きの早さに、傭兵たちは鼻白んで後退った。実力の差は、見ているだけで判るほどのレベルだ。

 メルヴィンは意図的に打ち合いを避けた。時間の無駄だし、体力の消耗も激しくなる。そしてなにより、急所を的確に狙ったほうが早い。

 攻撃体勢をとるその一瞬の隙を、メルヴィンは見逃さずに急所を突いていった。

 規律を重んじた軍隊と違って、自由度の高い傭兵たちは、野性的な勘と機敏な動きを得意としている。不測の事態でも奇襲攻撃があっても、臨機応変に立ち回る。しかしそれを上回るメルヴィンの動きに、傭兵たちは対応できなかった。

 時間にすればほんの2、3分。20人ほどの小隊は、あっさりと血の海に沈んだ。

「鮮やかですね。噂以上に凄い!」

 無常の行幸にでも巡りあったような感極まった顔で、赤毛の中尉は嬉しそうに感想をもらした。メルヴィンの戦う姿を見ることができて、よほど嬉しかったのだろう。少佐も同意するように笑顔で頷いた。

 確かに戦う姿は素晴らしいものだったが、辺は目を背けたくなるような惨憺たる光景が広がっていた。

 キュッリッキが眠っていて、本当によかったとルーファスは思った。

 以前ナルバ山では、こんな光景にも全く動じていなかったことはブルニタルから聞いている。それでもやはり、血の海に転がる死体の光景なぞ見せたくはなかった。女の子にこんな場面を、平気で眺めて欲しくなどない。

 メルヴィンはサッと露を払うと、ルーファスたちに手振りで大通りを示した。

 すぐにでも乗り換え用の汽車に着きたかったが、あちこちから敵が飛び出してきて行く手を阻む。それを素早く斬り伏せながら、メルヴィンは内心ため息をついた。

 魔法使いやサイ《超能力》使いばかりのダエヴァたちに、ササッと掃除して欲しかったが、アサシンが紛れ込んでいるためそれが難しい。

 無闇矢鱈に力を振り巻けばそのうち当たって死ぬだろうが、そんな幼稚な攻撃などしていると街が壊滅してしまう。なによりアサシンたちは索敵にかからず忍び寄り、確実に息の根を止める殺人術も心得ているので、防御に意識を集中してもらったほうが良い。

 キュッリッキがいるのだから尚更だ。

(彼女を絶対に、守らなければならない)

 それは命令だからではなく、守りたいと自身が望んでいるから。かすり傷一つ負わせない、まして触れることなど絶対に許さない。

 キュッリッキを抱きかかえるルーファスの周囲にとくに意識をこらしながら大通りを進む。

 前方にようやくステーションの姿を捉えたとき、同時に中隊規模の敵が待ち構えていることも視認できた。皆一旦足を止める。

 メルヴィンは上目遣いで天を仰いでため息をつき、ルーファスは「アレはないでしょー」と嘆いた。

 少佐たちダエヴァも、アサシンの存在で力が発揮できずに渋面を作っていた。

 目的地は目の前。

「突破するしか…、ありませんね?」

 メルヴィンはやれやれと頭(かぶり)を振って爪竜刀を構える。

「それしかナイよねえ」

 苦笑いしながらルーファスが同意した。

 その時――

 晴天から突如紫を帯びた光が無数に敵の上に降り注ぎ、その周辺の建物をも飲み込んで盛大な爆発を起こした。

「うわっ!?」

 爆風に乗って小石が飛んできたのを防ぐため、ルーファスは防御の範囲を全員の周囲へ張り巡らせた。

 光の眩しさに顔を腕でかばっていたが、やがてその光の中に颯爽と現れた人影を確認して、メルヴィンは大きく目を見開いた。

 ひるがえる漆黒のマントの裏地は深紅、その名が示すとおりの紫色の頭髪。柔和な面差しはそのままに、目だけが鋭い光を放っている。

「アルカネットさん」
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