片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode362

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 クラエスは尻餅をついて、事の次第を凝視していた。

 若い頃に傭兵崩れたちがステーションで喧嘩沙汰を起こし、その時斬られた傭兵を見たことがあるが、そのときとは比べ物にならない。

 人間の身体が真っ二つになった場面なぞ見たことがない。しかも刀で斬ったようには見えないのに、いきなり真っ二つになったのだ。

 やったのはあの刀を構える、整った顔立ちの青年なんだろうか。クラエスはゆるゆると首を振ると、一つため息をついてから失神した。

「ん?」

 倒れた音がするクラエスの方へ、ほんのわずか意識を向けた。しかしクラエスのことが判らず、首を軽く傾げただけで、ルーファスは敵の気配を探る方へ集中した。

「改札を出て、正面大通りをまっすぐ行けば、乗り換えのステーションに着きます」

「判りました」

 少佐から道を示され、メルヴィンは死体を跨いで歩き出した。



 改札を出てステーション前の広場に出てくると、そこは酷い有様になっていた。

 赤茶色の煉瓦を敷き詰めた地面は無残に砕かれ、ところどころに大小のクレーターがあいてしまっている。

 手入れが行き届いてたと思わしき花壇は踏みつけられて、色とりどりの花は土と同化していた。

 破壊されたベンチや物売りのワゴンなどは転がっていたが、幸い人間の死体はあまり見られなかった。

「魔法による攻撃跡ですね……。ダエヴァのみなさんが応戦したんでしょうか」

「そのようです」

 周囲を見渡しながら少佐が呟く。

「うおっ、なにすんの!?」

 突如メルヴィンが振り向きざまルーファスに向かって、刃を下から斜め上に振り上げた。そのいきなりの行動に、ルーファスは慌てて後ろに背中を反らしてかわそうとする。

「ぐあああっ」

 何もない宙に真っ赤な血の軌跡が走り、潰れたような男の絶叫が轟いて、いきなり姿を現して絶命した。

「うひゃっ」

 倒れ込んでくる男の死体を海老反りに避けて、キュッリッキに男の血がかからないよう背を向けて庇う。

 ソレル王国の軍服を着た痩せぎすの男は、背中から右肩にかけて、斜めに深く斬られていた。

「先ほどのアサシンですね…。我々の能力では、気配すら察知出来ませんでした」

 目を剥いて絶命している男を冷ややかに見下ろしながら、少佐は困ったような声をもらす。

 魔法やサイ《超能力》などの、超常的な能力に対抗するために、各国では対抗策や対抗できる技術を開発し、研究していた。

 アサシンと呼び表される技術を持つ人々は、魔法やサイ《超能力》による索敵に絶対にかかることなく、忍び寄り任務を遂行することができる。これはスキル〈才能〉ではなく、訓練によって習得が可能だ。

 魔法やサイ《超能力》で感知できないものは、通常の人間には当然不可能であり、戦闘スキル〈才能〉を持つ者たちでも、それはほぼ無理だ。

 メルヴィンはアサシンを見破る方法を持っている。それが爪竜刀だ。

 アルケラに住む匠の小人スヴァルトアールヴルが、ドラゴンの爪を用いて鍛えたという爪竜刀。固有の形を持たず、持ち主の要望に応じて形態を変化させ、人外の力を発揮してあらゆるものを斬り裂く。

 刀に与えられている能力は様々で、その一つが、何者をも見透かす能力だった。

「すんなり行かせてくれそうもありませんね」

 苦笑しながら、メルヴィンは前方に向きを変えて爪竜刀を構えた。

「アサシンの気配はありませんので、皆さんは少しここで待っていてください」

 ルーファスと少佐が頷くのを目の端で捉え、メルヴィンは八相の構えのまま地面を蹴って前に飛び出した。

 殺したアサシンの仲間たちだろう。軍服をまとった傭兵たちが一個小隊ほど集まっている。

 そこは傭兵たち、突っ込んでくるメルヴィンに気づいて即戦闘の構えをとった。
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