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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode359
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メルヴィンはキュッリッキをそっとルーファスに預け、軍服の中にしまいこんでいたペンダントを取り出した。
何かの鋭い爪か牙のようなペンダントヘッドを首紐から外すと、それを軽く宙に放り投げる。
「形状変化」
そっと一言呟くと、ペンダントヘッドは宙でぐにゃりと歪み、一瞬にして細い刀へと形と大きさを変えた。
片刃で鍔から切っ先まで同じ幅をしている。刃は厚みもあり、うっすらと柔らかな光を帯びていた。柄は黄金細工の、不可思議な生き物を模した作りになっている。メルヴィンの出身国では、神竜というらしい。
宙に留まる直刀の剣の柄を握り、刃を下に向けた。
「爪竜刀ってそんな形にもなるんだ?」
「ええ。色々と形を変えられます。両手剣はちょっと大きすぎるので、このサイズのほうが振りやすいんです」
剣術の師から受け継いだ、魔剣に類する爪竜刀。ひとふりで岩山をも斬り裂くなどと伝承がついているのだが、メルヴィンは成功したためしがない。大袈裟な伝承付きではあるが、刀自体に凄まじい威力が込められているのは確かで、誰もが扱えるわけではなかった。ギャリーの持つ魔剣シラーと同系のものだ。
「皇国軍で五指に数えられていたほどの剣技、拝見できるのを楽しみにしています」
感動したような面持ちで赤毛の中尉が言うと、メルヴィンは苦笑で応じた。
「サイ《超能力》や魔法使いたちの戦いのあとでは、見てても地味でつまらないと思いますよ」
「そんなことありません。スキル〈才能〉の種が違いますから、わたしは憧れますよ」
「ありがとうございます」
照れくさそうに言うと、メルヴィンは他にも持ち歩いていた、いくつかの武器を丹念に点検する。
「最後までラクな旅が出来るかと思ったけど、そうもいかないね」
キュッリッキを腕に抱いたまま、ルーファスは身をかがめて車窓の外を見る。
緩やかにカーブしながら滑走する汽車の先頭の向こうには、街の姿がはっきりと現れ見えていた。
ボルクンド王国との国境に隣接する街オーバリーは、ソレル王国と連合を組んだボルクンド王国の不穏な動きを察知して、あらかじめ住民たちの避難を行っていた。
ある程度の子女たちは疎開して街を離れているが、街にはまだまだ多くの人々が残っている。
もう老人と呼んでも差し支えのないクラエスも、その中の一人だ。
クラエスは駅員になって40年、公休以外は毎日休まずステーションをしっかり見守ってきた。
波乱のない穏やかな人生、ステーションには様々なドラマがあり、それを乗客たちと共有しながら定年を明日に控えている。勤めを最後までしっかり果たそうと、臨時で入ると連絡のあった汽車の到着を待ちわびていた。
すると突如街の奥の方で、大爆発が起きた。爆風の余波がステーションにまで届くほどの規模に、クラエスは度肝を抜かれて寿命が縮まった。
それから1時間が過ぎると、今度はステーションの近くでも盛大な爆音が轟いた。それも1回ではなく複数回あり、振動がステーションの建物を震わせ埃が舞った。
ステーションにはあまり多くの人はいなかったが、ベンチで伸びていたアル中の男が驚いてベンチからずり落ちたり、数羽のハトが慌てて空へ飛び出していったりと、やや騒然な賑わいを見せている。
「いよいよこのオーバリーも、戦場のひとつとなったのか」
何かの鋭い爪か牙のようなペンダントヘッドを首紐から外すと、それを軽く宙に放り投げる。
「形状変化」
そっと一言呟くと、ペンダントヘッドは宙でぐにゃりと歪み、一瞬にして細い刀へと形と大きさを変えた。
片刃で鍔から切っ先まで同じ幅をしている。刃は厚みもあり、うっすらと柔らかな光を帯びていた。柄は黄金細工の、不可思議な生き物を模した作りになっている。メルヴィンの出身国では、神竜というらしい。
宙に留まる直刀の剣の柄を握り、刃を下に向けた。
「爪竜刀ってそんな形にもなるんだ?」
「ええ。色々と形を変えられます。両手剣はちょっと大きすぎるので、このサイズのほうが振りやすいんです」
剣術の師から受け継いだ、魔剣に類する爪竜刀。ひとふりで岩山をも斬り裂くなどと伝承がついているのだが、メルヴィンは成功したためしがない。大袈裟な伝承付きではあるが、刀自体に凄まじい威力が込められているのは確かで、誰もが扱えるわけではなかった。ギャリーの持つ魔剣シラーと同系のものだ。
「皇国軍で五指に数えられていたほどの剣技、拝見できるのを楽しみにしています」
感動したような面持ちで赤毛の中尉が言うと、メルヴィンは苦笑で応じた。
「サイ《超能力》や魔法使いたちの戦いのあとでは、見てても地味でつまらないと思いますよ」
「そんなことありません。スキル〈才能〉の種が違いますから、わたしは憧れますよ」
「ありがとうございます」
照れくさそうに言うと、メルヴィンは他にも持ち歩いていた、いくつかの武器を丹念に点検する。
「最後までラクな旅が出来るかと思ったけど、そうもいかないね」
キュッリッキを腕に抱いたまま、ルーファスは身をかがめて車窓の外を見る。
緩やかにカーブしながら滑走する汽車の先頭の向こうには、街の姿がはっきりと現れ見えていた。
ボルクンド王国との国境に隣接する街オーバリーは、ソレル王国と連合を組んだボルクンド王国の不穏な動きを察知して、あらかじめ住民たちの避難を行っていた。
ある程度の子女たちは疎開して街を離れているが、街にはまだまだ多くの人々が残っている。
もう老人と呼んでも差し支えのないクラエスも、その中の一人だ。
クラエスは駅員になって40年、公休以外は毎日休まずステーションをしっかり見守ってきた。
波乱のない穏やかな人生、ステーションには様々なドラマがあり、それを乗客たちと共有しながら定年を明日に控えている。勤めを最後までしっかり果たそうと、臨時で入ると連絡のあった汽車の到着を待ちわびていた。
すると突如街の奥の方で、大爆発が起きた。爆風の余波がステーションにまで届くほどの規模に、クラエスは度肝を抜かれて寿命が縮まった。
それから1時間が過ぎると、今度はステーションの近くでも盛大な爆音が轟いた。それも1回ではなく複数回あり、振動がステーションの建物を震わせ埃が舞った。
ステーションにはあまり多くの人はいなかったが、ベンチで伸びていたアル中の男が驚いてベンチからずり落ちたり、数羽のハトが慌てて空へ飛び出していったりと、やや騒然な賑わいを見せている。
「いよいよこのオーバリーも、戦場のひとつとなったのか」
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