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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode358
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生死は問わずなら、これでも問題はなさそうだが。死体になったキュッリッキを連れ戻ったところで、首をはねられるだけだろうに。
現在の世界は、平和、と呼べるほど、あまり大きな戦争はない。
ヴィプネン族のお膝元である惑星ヒイシだけでなく、アイオン族の治める惑星ペッコでも、トゥーリ族の治める惑星タピオでも、傭兵たちが諸手を挙げて張り切るほどの戦場は見当たらなかった。
今回の大規模な戦争では、世界中でくすぶり続ける傭兵たちにとっては、千載一遇のチャンスであり、稼ぎ時である。とくにハワドウレ皇国並みの戦力を保有していない逆臣軍サイドにとって、傭兵たちは貴重な戦力となっていた。
逆臣軍は多くの傭兵を雇用しているが、それだけに正規の軍人たちと違って統率が取りづらく、命令内容も正確に伝達されていないことも多々発生していた。
少佐が見抜いたように、奇襲をかけてきているこの兵士たちは、全て傭兵によって構成されているようだ。軍服をまとっていても軍人ではない。
彼らも稼がなくてはならない、それは理解出来るし共感もできるとルーファスは思っている。しかしだからといって、やられてやる必要は全くないのだ。
「ハエは早めに落としてしまいましょう」
天井からはっきりとした少佐の声が、車内に伝わってきた。
「エーリス少尉、アンテロ少尉、ヘイッキ軍曹の3人で、汽車にまとわりつくハエを全て落としてしまってください。彼らは所詮傭兵のようですから、遠慮はしなくて結構ですよ」
近くに控えていた赤毛の中尉が、不思議そうにするルーファスとメルヴィンに、「3人は魔法スキル〈才能〉持ちです」と教えてくれた。
軍人ならば捕虜にして聞き出せることも色々ありそうだが、傭兵たちならそれは無駄な行為である。最低限の情報しか与えられていない、それが捨て駒にされる傭兵たちだ。
汽車に向け放たれる火炎攻撃に、やがて稲妻が混じるようになってきた。
ダエヴァの魔法使いたちによる攻撃が始まったのだ。
「オーバリーに着く前に、すぐ終わるでしょう」
赤毛の中尉は、さも当然といった口調で言った。
哀れだが、そうだろうなとルーファスも思った。
サイ《超能力》や魔法スキル〈才能〉を持つ者たちが見れば、外にいる逆臣軍の傭兵たちの実力は明らかだった。それを大きく上回るダエヴァの能力者達が、負ける要素は何もない。
ルーファスは椅子に座りなおすと、蛇のように蠢く稲妻のムチで叩き落とされる傭兵たちに、同情的な視線を向け肩をすくめた。
大した時間もかからず、20人ほどの奇襲部隊は呆気なく始末されてしまい、汽車には穏やかな静けさが戻った。
「そろそろオーバリーのステーションに到着します」
赤毛の中尉が業務連絡的に告げる。
「さすが、ラクに着いたな」
「そうですね。ダエヴァの皆さんに守られていましたし」
ルーファスとメルヴィンが胸をなでおろしていると、
「ステーションに着く前に、お2人共戦闘準備をしていてください。オーバリーにかなりの数の逆臣軍が入り込んでいるそうです」
車外にいる少佐から声がかかる。
「乗り継ぎの汽車を出す前に、少々戦いが発生しそうです」
「……やっぱ、さっきの奇襲だけじゃなかったか」
「ルーファスさん、リッキーさんをお願いします」
「おっけぃ」
現在の世界は、平和、と呼べるほど、あまり大きな戦争はない。
ヴィプネン族のお膝元である惑星ヒイシだけでなく、アイオン族の治める惑星ペッコでも、トゥーリ族の治める惑星タピオでも、傭兵たちが諸手を挙げて張り切るほどの戦場は見当たらなかった。
今回の大規模な戦争では、世界中でくすぶり続ける傭兵たちにとっては、千載一遇のチャンスであり、稼ぎ時である。とくにハワドウレ皇国並みの戦力を保有していない逆臣軍サイドにとって、傭兵たちは貴重な戦力となっていた。
逆臣軍は多くの傭兵を雇用しているが、それだけに正規の軍人たちと違って統率が取りづらく、命令内容も正確に伝達されていないことも多々発生していた。
少佐が見抜いたように、奇襲をかけてきているこの兵士たちは、全て傭兵によって構成されているようだ。軍服をまとっていても軍人ではない。
彼らも稼がなくてはならない、それは理解出来るし共感もできるとルーファスは思っている。しかしだからといって、やられてやる必要は全くないのだ。
「ハエは早めに落としてしまいましょう」
天井からはっきりとした少佐の声が、車内に伝わってきた。
「エーリス少尉、アンテロ少尉、ヘイッキ軍曹の3人で、汽車にまとわりつくハエを全て落としてしまってください。彼らは所詮傭兵のようですから、遠慮はしなくて結構ですよ」
近くに控えていた赤毛の中尉が、不思議そうにするルーファスとメルヴィンに、「3人は魔法スキル〈才能〉持ちです」と教えてくれた。
軍人ならば捕虜にして聞き出せることも色々ありそうだが、傭兵たちならそれは無駄な行為である。最低限の情報しか与えられていない、それが捨て駒にされる傭兵たちだ。
汽車に向け放たれる火炎攻撃に、やがて稲妻が混じるようになってきた。
ダエヴァの魔法使いたちによる攻撃が始まったのだ。
「オーバリーに着く前に、すぐ終わるでしょう」
赤毛の中尉は、さも当然といった口調で言った。
哀れだが、そうだろうなとルーファスも思った。
サイ《超能力》や魔法スキル〈才能〉を持つ者たちが見れば、外にいる逆臣軍の傭兵たちの実力は明らかだった。それを大きく上回るダエヴァの能力者達が、負ける要素は何もない。
ルーファスは椅子に座りなおすと、蛇のように蠢く稲妻のムチで叩き落とされる傭兵たちに、同情的な視線を向け肩をすくめた。
大した時間もかからず、20人ほどの奇襲部隊は呆気なく始末されてしまい、汽車には穏やかな静けさが戻った。
「そろそろオーバリーのステーションに到着します」
赤毛の中尉が業務連絡的に告げる。
「さすが、ラクに着いたな」
「そうですね。ダエヴァの皆さんに守られていましたし」
ルーファスとメルヴィンが胸をなでおろしていると、
「ステーションに着く前に、お2人共戦闘準備をしていてください。オーバリーにかなりの数の逆臣軍が入り込んでいるそうです」
車外にいる少佐から声がかかる。
「乗り継ぎの汽車を出す前に、少々戦いが発生しそうです」
「……やっぱ、さっきの奇襲だけじゃなかったか」
「ルーファスさん、リッキーさんをお願いします」
「おっけぃ」
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