片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
376 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode357

しおりを挟む
 真顔で言うルーファスに、メルヴィンの冷ややかな視線が投げかけられる。

「リッキーさんに、そんなふしだらな透視は、絶対にしないでくださいよ」

 声まで冷ややかなメルヴィンに、ルーファスは慌てて手を振る。

「ンなことしないって! キューリちゃんは確かに麗しい美少女だけど、透視したくなるほどの豊満さに欠けるから…おっぱいちっさいし」

「…………」

 起きていたらフェンリルかフローズヴィトニルの尻尾を掴んで、バシッと殴られそうなことを言ってのけ、ルーファスは真剣に頷いた。

 メルヴィンは小さくため息をつくと、腕の中でスヤスヤと眠るキュッリッキの顔を覗き込んだ。

 年齢のわりには匂い立つ色気に欠ける部分もあるが、出会った当初に比べると、この頃は女性らしい柔らかな空気を感じることはある。生憎女性についてそれほど詳しくもないが、時折見せるキュッリッキの仕草に、ドキリとすることはあるのだ。

 ナルバ山の遺跡で怪我をしたキュッリッキのそばに長く居るようになってから、彼女に対する見方が変わったのだろうか。出会った当初は、気にも留めていなかった。

 過保護にしすぎるベルトルドとアルカネットの、キュッリッキに対する過剰な愛情の接し方を目にすると、心中は穏やかではなかった。

 この小さく華奢な身体を、我が物のように抱き寄せ、触れているのを見るのが辛い。滑らかで柔らかな肌にキスをしているのも嫌だった。同じベッドで寝起きしていることも不愉快に感じる。さも当然のように独占しているのも腹立たしかった。

 いつからそんな風に思うようになったのか、メルヴィンははっきりと自分の心を掴めないでいた。それに、まさかキュッリッキが自分に恋心を向けてきているなど、気づいてもいないし想像もしていなかった。

 顔を赤くして恥ずかしそうにしているのは、男性と共に行動することに、女性として抵抗感があるのだろう。年頃なのだからしょうがないと、そう思っている。そして恥ずかしそうにするキュッリッキを、いじらしく、愛らしいと思っていた。

 そうした経緯(いきさつ)もあり、今ではキュッリッキを大事に守らなければという使命感が、強く心を支配している。

 身じろぎもせず眠るキュッリッキを、ほんのわずか胸に抱き寄せるようにして、腕に力をこめた。



 破壊された線路の上を優雅に滑走すること数分、ようやく敵の攻撃が再開された。

 あまりにも凄い光景を目の当たりにして、逆臣軍は度肝を抜かれていたようだったが、さすがに立ち直り、本来の目的を思い出して――勘違いしているが――攻撃を再開したのだ。

「おーお、攻撃再開してきたよ。懲りない連中だねえ」

「全て防がれてるとはいえ、万が一のことがあったら、彼らはどうするんでしょう。目的は、リッキーさんの誘拐ですよね?」

「タブンね。生きて連れてこい、って命令なんだろうケド。誘拐の仕方がまるでなってないな」

「まずは車両に取り付いて、侵入を試みる。それを援護するために、攻撃を仕掛けるなら理解できますが…」

「完全に命令系統がアヤフヤになってる感じだネ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

処理中です...