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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode356
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走り続ける汽車の外では、賑やかな魔法攻撃がひっきりなしに続いていたが、防御を突破できるような一撃は向かってこなかった。
「少佐、そろそろ線路が」
少佐のそばにいた中尉が、敬礼と共に報告をする。それに小さく頷いて、少佐は2人に告げた。
「これからこの汽車を、爆破された線路の”上”を走らせます。多少強い衝撃が突き上げてくると思いますので、お嬢様をしっかりと抱いていてください」
メルヴィンは無言で頷くと、キュッリッキを抱き上げる手に若干力をこめて、椅子に踏ん張るようにして身構えた。
ルーファスは2人になるべく衝撃が及ばないように、衝撃を吸収する防御を張り巡らせる。サイ《超能力》使い以外には目にすることのできない、薄い膜のようなものが、丸く2人を包み込んだ。
それを確認すると、少佐はその場で身体を浮かせて、するりと車両の天井をすり抜けて車外に出た。
少佐は汽車の周囲を同じ速度で飛びながら、必死に攻撃を仕掛けてくる魔法使いとサイ《超能力》使いたちを、侮蔑を顕に一瞥して片膝をつくと、車両に両手をついた。
すると先頭車両から順に、ガタンと激しく車体を揺らして、線路から離れて浮いていく。
6両編成の汽車は全車両が線路から浮いて、しかし速度はそのまま維持され宙を滑走していった。
その汽車の様子に、逆臣軍の魔法使いやサイ《超能力》使いたちは、ぎょっと驚いて狼狽した。今まで休むことなく続けていた攻撃の手が止まる。
少佐は立ち上がると、優雅に腕を組んだ。亜麻色の若干長めの髪の毛が、強風にあおられ踊る。
「ベルトルド様なら、これに加速をつけて移動させてしまうのでしょうが……。わたくしにはそこまでは無理のようです」
誰にともなく呟いて、自嘲するような笑みを、薄い唇に滲ませた。
車窓から頭を出して地面を見ると、十分な高さをもって線路の上に汽車は浮いていた。しかも線路を走っていた時と同じように、宙を滑走している。
頭を引っ込め、両手を腰についたポーズで、ルーファスは薄く笑ってげっそりとため息をついた。
「実に面白いものが見れるヨ……外」
「なんとなく、想像はつきます」
ルーファスの表情から察して、メルヴィンは苦笑した。
走る車輪の振動を全く感じず、穏やかに汽車は全速していた。車窓に映る風景もまた、流れるように変わっていく。
「サイ《超能力》使いは凄いですね。こんなことは、造作もないんでしょう?」
「んー、人それぞれだと思うけどね~。――少佐は念動力特化タイプとみた」
ルーファスはそばに控えるように立っている赤毛の中尉を、ちらりと見る。
まだ20代前半に見える若い赤毛の中尉は、ルーファスの視線を受けて、微笑みながら小さく肯定した。
「サイ《超能力》使いも魔法使いと一緒で、一応は一通りの力を使うことはできるのよ。それでも個性があって、得意な能力と不得意な能力があるから、オレ達みたいに傭兵とか軍人やる場合は、得意な能力を徹底的に磨いたほうが役に立つってわけ。少佐は念動力――物体を浮かせたり操作する能力を、徹底的に磨いて強化したようだね。色々ある能力の中でも、空間転移だけはベルトルド様限定のようだけど」
「普段ルーファスさんはなんでも使いこなすので、得意不得意があるとは思いませんでした」
感心したようにメルヴィンは言う。それに対し、ルーファスは苦笑した。
「オレは透視が得意なんだけどネ。あくまで女性限定でっ」
「少佐、そろそろ線路が」
少佐のそばにいた中尉が、敬礼と共に報告をする。それに小さく頷いて、少佐は2人に告げた。
「これからこの汽車を、爆破された線路の”上”を走らせます。多少強い衝撃が突き上げてくると思いますので、お嬢様をしっかりと抱いていてください」
メルヴィンは無言で頷くと、キュッリッキを抱き上げる手に若干力をこめて、椅子に踏ん張るようにして身構えた。
ルーファスは2人になるべく衝撃が及ばないように、衝撃を吸収する防御を張り巡らせる。サイ《超能力》使い以外には目にすることのできない、薄い膜のようなものが、丸く2人を包み込んだ。
それを確認すると、少佐はその場で身体を浮かせて、するりと車両の天井をすり抜けて車外に出た。
少佐は汽車の周囲を同じ速度で飛びながら、必死に攻撃を仕掛けてくる魔法使いとサイ《超能力》使いたちを、侮蔑を顕に一瞥して片膝をつくと、車両に両手をついた。
すると先頭車両から順に、ガタンと激しく車体を揺らして、線路から離れて浮いていく。
6両編成の汽車は全車両が線路から浮いて、しかし速度はそのまま維持され宙を滑走していった。
その汽車の様子に、逆臣軍の魔法使いやサイ《超能力》使いたちは、ぎょっと驚いて狼狽した。今まで休むことなく続けていた攻撃の手が止まる。
少佐は立ち上がると、優雅に腕を組んだ。亜麻色の若干長めの髪の毛が、強風にあおられ踊る。
「ベルトルド様なら、これに加速をつけて移動させてしまうのでしょうが……。わたくしにはそこまでは無理のようです」
誰にともなく呟いて、自嘲するような笑みを、薄い唇に滲ませた。
車窓から頭を出して地面を見ると、十分な高さをもって線路の上に汽車は浮いていた。しかも線路を走っていた時と同じように、宙を滑走している。
頭を引っ込め、両手を腰についたポーズで、ルーファスは薄く笑ってげっそりとため息をついた。
「実に面白いものが見れるヨ……外」
「なんとなく、想像はつきます」
ルーファスの表情から察して、メルヴィンは苦笑した。
走る車輪の振動を全く感じず、穏やかに汽車は全速していた。車窓に映る風景もまた、流れるように変わっていく。
「サイ《超能力》使いは凄いですね。こんなことは、造作もないんでしょう?」
「んー、人それぞれだと思うけどね~。――少佐は念動力特化タイプとみた」
ルーファスはそばに控えるように立っている赤毛の中尉を、ちらりと見る。
まだ20代前半に見える若い赤毛の中尉は、ルーファスの視線を受けて、微笑みながら小さく肯定した。
「サイ《超能力》使いも魔法使いと一緒で、一応は一通りの力を使うことはできるのよ。それでも個性があって、得意な能力と不得意な能力があるから、オレ達みたいに傭兵とか軍人やる場合は、得意な能力を徹底的に磨いたほうが役に立つってわけ。少佐は念動力――物体を浮かせたり操作する能力を、徹底的に磨いて強化したようだね。色々ある能力の中でも、空間転移だけはベルトルド様限定のようだけど」
「普段ルーファスさんはなんでも使いこなすので、得意不得意があるとは思いませんでした」
感心したようにメルヴィンは言う。それに対し、ルーファスは苦笑した。
「オレは透視が得意なんだけどネ。あくまで女性限定でっ」
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