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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode355
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ルーファス自身もけして能力は引けを取らず、文句なしの高レベルである。本気でぶつかり合えば、負ける気は全くない。しかしいくら高レベルでも、いざ戦場で精神を強く保てなければ、低レベルのサイ《超能力》使いにだって負けてしまう。
凄腕のダエヴァの上に立つ、ベルトルドの計り知れない精神力のタフさは、人間離れしすぎている。神か悪魔と言われても不思議じゃない、そうルーファスは常々思っていた。
「汽車はオーバリーに入れそう?」
少佐をちらりと見ると、少佐は表情を動かすことなく静かに頷いた。
「この先の線路が破壊されているようですが、問題なく汽車は駅に到着しますよ」
「もしかして、この汽車に配属されてる連中、ほとんどサイ《超能力》使い?」
「ええ。他のスキル〈才能〉の者もいますが、この車両にいる者たちは全てサイ《超能力》使いです」
少佐の淡々とした答えに、ルーファスはゲッソリと息を吐き出す。
この車両だけでも5人のサイ《超能力》使いがいる。Sランク以上だろう。その彼らを相手に幼稚な攻撃力では、突破するなど不可能だ。それを思うと、つい逆臣軍が可哀想に思えた。
ルーファスの様子に気づいた少佐が、フッと表情を和ませる。
「この程度出来なければ、ダエヴァはつとまらないのです」
よほど強い薬を盛られたのか、キュッリッキとフローズヴィトニルの眠りは深かった。汽車自体はびくともせず穏やかなものだったが、防御壁に弾かれたエルプティオ・ヘリオスの、火の玉の着弾音やらが騒々しく、火炎による閃光も賑やかだった。
メルヴィンは膝の上で寝るフローズヴィトニルをキュッリッキの膝に移し、キュッリッキを自らの膝の上に抱き上げた。フェンリルは目を覚ましているようで、キュッリッキの膝の上でじっとしている。
「薬の効果時間は、長いんですか?」
少佐を見上げながら問うと、少佐は「ええ」と短く返事をした。
「お嬢様は回復されてまだ間もありません。いくらリハビリをされていたとはいっても、体力の全回復はまだまだでしょう。そのことをアルカネット様は、いたく心配なさっていました。――あなた方の合流地点であるフェルトに到着する前に、ベルトルド様とアルカネット様がお迎えに参じるそうです。その時までお嬢様は、眠ったままです」
「あの2人が迎えにくるのは、初めて聞きました」
メルヴィンが怪訝そうに首をかしげる。
「わたくしも詳しいことは知らされておりませんが、ご予定が変わったとか」
「そうですか……」
そのことについては、それ以上興味はなかった。
メルヴィンが一番心配なのは、睡眠薬を飲ませ、事あるごとにキュッリッキを眠らせてしまうことだ。
身体に害のあるものを、あの2人がキュッリッキに服用させることは絶対にないだろう。それでもこうして何かある度に薬で眠らせ、知らないうちに全てが片付いているというのは、納得できなかった。
遺跡での事件からこれまで、臥せっていた時間が長かった。以前のような体力を回復するために、毎日何時間もリハビリを頑張っていた。そしてみんなと一緒に仕事が出来ることを喜び、うんと張り切っていたのだ。
今回の短い旅も、どこか挙動不審な面は見られたが、自力で頑張ろうとしていた。それなのに薬で眠らされ、全てが終わったあとで目覚めさせられては、心底ガッカリするだろうに。
どうにもベルトルドとアルカネットのやっていることは、キュッリッキを過保護にしすぎて、彼女の気持ちを蔑ろにしているように、メルヴィンには思われてならなかった。
凄腕のダエヴァの上に立つ、ベルトルドの計り知れない精神力のタフさは、人間離れしすぎている。神か悪魔と言われても不思議じゃない、そうルーファスは常々思っていた。
「汽車はオーバリーに入れそう?」
少佐をちらりと見ると、少佐は表情を動かすことなく静かに頷いた。
「この先の線路が破壊されているようですが、問題なく汽車は駅に到着しますよ」
「もしかして、この汽車に配属されてる連中、ほとんどサイ《超能力》使い?」
「ええ。他のスキル〈才能〉の者もいますが、この車両にいる者たちは全てサイ《超能力》使いです」
少佐の淡々とした答えに、ルーファスはゲッソリと息を吐き出す。
この車両だけでも5人のサイ《超能力》使いがいる。Sランク以上だろう。その彼らを相手に幼稚な攻撃力では、突破するなど不可能だ。それを思うと、つい逆臣軍が可哀想に思えた。
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「この程度出来なければ、ダエヴァはつとまらないのです」
よほど強い薬を盛られたのか、キュッリッキとフローズヴィトニルの眠りは深かった。汽車自体はびくともせず穏やかなものだったが、防御壁に弾かれたエルプティオ・ヘリオスの、火の玉の着弾音やらが騒々しく、火炎による閃光も賑やかだった。
メルヴィンは膝の上で寝るフローズヴィトニルをキュッリッキの膝に移し、キュッリッキを自らの膝の上に抱き上げた。フェンリルは目を覚ましているようで、キュッリッキの膝の上でじっとしている。
「薬の効果時間は、長いんですか?」
少佐を見上げながら問うと、少佐は「ええ」と短く返事をした。
「お嬢様は回復されてまだ間もありません。いくらリハビリをされていたとはいっても、体力の全回復はまだまだでしょう。そのことをアルカネット様は、いたく心配なさっていました。――あなた方の合流地点であるフェルトに到着する前に、ベルトルド様とアルカネット様がお迎えに参じるそうです。その時までお嬢様は、眠ったままです」
「あの2人が迎えにくるのは、初めて聞きました」
メルヴィンが怪訝そうに首をかしげる。
「わたくしも詳しいことは知らされておりませんが、ご予定が変わったとか」
「そうですか……」
そのことについては、それ以上興味はなかった。
メルヴィンが一番心配なのは、睡眠薬を飲ませ、事あるごとにキュッリッキを眠らせてしまうことだ。
身体に害のあるものを、あの2人がキュッリッキに服用させることは絶対にないだろう。それでもこうして何かある度に薬で眠らせ、知らないうちに全てが片付いているというのは、納得できなかった。
遺跡での事件からこれまで、臥せっていた時間が長かった。以前のような体力を回復するために、毎日何時間もリハビリを頑張っていた。そしてみんなと一緒に仕事が出来ることを喜び、うんと張り切っていたのだ。
今回の短い旅も、どこか挙動不審な面は見られたが、自力で頑張ろうとしていた。それなのに薬で眠らされ、全てが終わったあとで目覚めさせられては、心底ガッカリするだろうに。
どうにもベルトルドとアルカネットのやっていることは、キュッリッキを過保護にしすぎて、彼女の気持ちを蔑ろにしているように、メルヴィンには思われてならなかった。
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