372 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode353
しおりを挟む
給仕のような口調で言って、差し出したプレートには、一口サイズのサンドウィッチと温かな紅茶が乗っていた。
「わーい、ありがとう」
一旦メルヴィンの手から解放されると、キュッリッキは両手でプレートを受け取る。
「甘いお菓子などもございますので、遠慮なくお申し付けくださいませ」
「うん」
ご機嫌で笑顔を返すと、少佐もにこりと微笑み返した。
「お二方もご一緒に、休憩なさいませんか?」
「いんや、オレは遠慮しておくよ」
「オレもいいです。ありがとうございます」
「左様ですか」
少佐はしつこくすすめることもなく、2人の固辞を受け取って、静かに側に控えた。
「美味しいの」
満足そうに微笑むキュッリッキに反応し、フェンリルと共に車窓の窓枠にぶら下がるようにしていたフローズヴィトニルが、軽く尻尾を振っておねだりしだした。
「食べる?」
キュッリッキがサンドウィッチのひと切れを差し出すと、フローズヴィトニルはぱくりと口に入れ、もそもそと噛んで飲み込んだ。それで何度かアイスブルーの瞳を瞬かせると、車窓から離れてメルヴィンの膝に飛び乗り、キュッリッキのほうへ顔を突き出した。
「気に入ったんだね。もっと食べていいよ」
キュッリッキが食べられる分だけを皿に盛り付けていたので、少量だったサンドウィッチは、フローズヴィトニルが全て平らげてしまった。
それを面白そうに見ていた少佐が、新しい皿をキュッリッキに差し出した。
「こちらのお菓子もお召し上がりください」
見た目にも可愛らしい、色とりどりのフルーツを飾り付けたプチケーキが、いくつも並んでいた。
「可愛くて美味しそう! ありがとう」
「フローズヴィトニル様がお気に召されたのなら、おかわりをご用意致しましょうか?」
「だいじょうぶ。今度はこっちのお菓子に興味が沸いたみたいだから」
クスッとキュッリッキが笑うと、フェンリルが「やれやれ」といった表情で鼻を鳴らした。
「フェンリルはなにも食べないんだけど、フローズヴィトニルはこっちの世界へ来たの初めてだから、今はなんでも興味津々なんだよね」
キュッリッキの掌の上のオレンジタルトを、ぱくりと一口で食べてしまうと、それも気に入ったようで、何度も催促するように顔を突き出した。
キュッリッキとフローズヴィトニルの様子を見て、ルーファスとメルヴィンは苦笑した。式典で世界中に驚異を与えた巨狼の姿とは、とても重ならない。ものをねだる小さな黒い仔犬、そのままだ。
やがて満腹になり満足したのか、フローズヴィトニルはそのままメルヴィンの膝の上で丸くなって寝てしまった。
フェンリルも車窓から離れると、キュッリッキの膝の上にのり、身体を丸めて目を閉じた。
白銀色の柔らかな毛並みを優しく撫でながら、キュッリッキもうとうとと瞼が落ちかかっていた。その様子に気づいたルーファスが身を乗り出す。
「少し寝るといいよ、キューリちゃん」
「うん……」
「オーバリーに着いたら、起こしてあげるから」
「……そうする。なんだか眠くなっちゃった」
キュッリッキはそのままメルヴィンにもたれかかるようにして眠ってしまった。
屈めていた上体を起こすと、ルーファスは眉を寄せて少佐を見上げた。
「薬を入れたな?」
ルーファスの言葉に、メルヴィンがハッとなる。
少佐は口元を僅かにほころばせて頷いた。
「アルカネット様からのご指示です。合流するまで絶対に、お嬢様に戦闘をさせずにお連れせよと」
ルーファスとメルヴィンの表情に緊張が走った。それを見て少佐は頷く。
「あと10分で敵と接触します。お2人はお嬢様のお側を、絶対に離れないでください。我々への援護は一切不要、お嬢様の安全が第一です」
「判った」
「了解です」
ルーファスとメルヴィンの返事に満足し、少佐は小さく微笑んだあと、表情から一切の感情を消し去った。
「わーい、ありがとう」
一旦メルヴィンの手から解放されると、キュッリッキは両手でプレートを受け取る。
「甘いお菓子などもございますので、遠慮なくお申し付けくださいませ」
「うん」
ご機嫌で笑顔を返すと、少佐もにこりと微笑み返した。
「お二方もご一緒に、休憩なさいませんか?」
「いんや、オレは遠慮しておくよ」
「オレもいいです。ありがとうございます」
「左様ですか」
少佐はしつこくすすめることもなく、2人の固辞を受け取って、静かに側に控えた。
「美味しいの」
満足そうに微笑むキュッリッキに反応し、フェンリルと共に車窓の窓枠にぶら下がるようにしていたフローズヴィトニルが、軽く尻尾を振っておねだりしだした。
「食べる?」
キュッリッキがサンドウィッチのひと切れを差し出すと、フローズヴィトニルはぱくりと口に入れ、もそもそと噛んで飲み込んだ。それで何度かアイスブルーの瞳を瞬かせると、車窓から離れてメルヴィンの膝に飛び乗り、キュッリッキのほうへ顔を突き出した。
「気に入ったんだね。もっと食べていいよ」
キュッリッキが食べられる分だけを皿に盛り付けていたので、少量だったサンドウィッチは、フローズヴィトニルが全て平らげてしまった。
それを面白そうに見ていた少佐が、新しい皿をキュッリッキに差し出した。
「こちらのお菓子もお召し上がりください」
見た目にも可愛らしい、色とりどりのフルーツを飾り付けたプチケーキが、いくつも並んでいた。
「可愛くて美味しそう! ありがとう」
「フローズヴィトニル様がお気に召されたのなら、おかわりをご用意致しましょうか?」
「だいじょうぶ。今度はこっちのお菓子に興味が沸いたみたいだから」
クスッとキュッリッキが笑うと、フェンリルが「やれやれ」といった表情で鼻を鳴らした。
「フェンリルはなにも食べないんだけど、フローズヴィトニルはこっちの世界へ来たの初めてだから、今はなんでも興味津々なんだよね」
キュッリッキの掌の上のオレンジタルトを、ぱくりと一口で食べてしまうと、それも気に入ったようで、何度も催促するように顔を突き出した。
キュッリッキとフローズヴィトニルの様子を見て、ルーファスとメルヴィンは苦笑した。式典で世界中に驚異を与えた巨狼の姿とは、とても重ならない。ものをねだる小さな黒い仔犬、そのままだ。
やがて満腹になり満足したのか、フローズヴィトニルはそのままメルヴィンの膝の上で丸くなって寝てしまった。
フェンリルも車窓から離れると、キュッリッキの膝の上にのり、身体を丸めて目を閉じた。
白銀色の柔らかな毛並みを優しく撫でながら、キュッリッキもうとうとと瞼が落ちかかっていた。その様子に気づいたルーファスが身を乗り出す。
「少し寝るといいよ、キューリちゃん」
「うん……」
「オーバリーに着いたら、起こしてあげるから」
「……そうする。なんだか眠くなっちゃった」
キュッリッキはそのままメルヴィンにもたれかかるようにして眠ってしまった。
屈めていた上体を起こすと、ルーファスは眉を寄せて少佐を見上げた。
「薬を入れたな?」
ルーファスの言葉に、メルヴィンがハッとなる。
少佐は口元を僅かにほころばせて頷いた。
「アルカネット様からのご指示です。合流するまで絶対に、お嬢様に戦闘をさせずにお連れせよと」
ルーファスとメルヴィンの表情に緊張が走った。それを見て少佐は頷く。
「あと10分で敵と接触します。お2人はお嬢様のお側を、絶対に離れないでください。我々への援護は一切不要、お嬢様の安全が第一です」
「判った」
「了解です」
ルーファスとメルヴィンの返事に満足し、少佐は小さく微笑んだあと、表情から一切の感情を消し去った。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる