片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
365 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode346

しおりを挟む
 キュッリッキ、ルーファス、メルヴィンの3人は、ボルクンド王国エレギア地方を目指すため、ボルクンド王国首都ヘリクリサムのエグザイル・システムに飛ぶはずだった。そこへちょうどヘリクリサムで第ニ正規部隊とボルクンド王国兵が衝突したニュースが届いて、予定変更になってしまった。

 どうなっているか判らない場所へ、キュッリッキを連れて飛ぶわけにもいかない。リュリュからの指示でボルクンド王国の隣国、ブリリオート王国首都バロータに飛んで、遠足することになった。そしてそれは各部隊に散っているライオン傭兵団の皆も同じで、それぞれもっとも近い場所から、各自エレギアを目指す羽目になっていた。

「それにしてもさ、キューリちゃん」

「うん?」

「よく、囮なんて引き受ける気になったね」

 ルーファスのちょっぴり責めるような口調に、キュッリッキは苦笑する。囮の話を持ち出したとき、とくにルーファスは怒った感じだったのだ。

「ベルトルドさんたち、遺跡のことをあまり知られたくなかったみたいで、ちょっと困った感じだったし。それに、いっぱい助けてもらったお礼もしたかったから」

 これは本心だ。

 ベルトルドがいなければ、今頃この世にはいなかったかもしれない。万が一助かったとしても、まだ寝たきりだっただろう。

 ベルトルドには感謝してもしきれないほど、キュッリッキは深い恩義を感じている。

「命は…まあ、そこは大丈夫でも、あんな見世物にされて、誘拐される危険がこれからついてまわるんだよ」

 ベルトルドの催した式典は、キュッリッキの召喚スキル〈才能〉の凄まじさを、世界中に広めたのである。

 神の力を操れるキュッリッキが一人居れば、戦争など一瞬で勝敗が決まるだろう。

 キュッリッキを手に入れるために、今後王や野心家がキュッリッキを狙うかも知れない。とくに、現在ではソレル国王が最有力候補だ。

 いくら恩義を感じているからとはいっても、危険の中に四六時中身を置く羽目になったのだ。

「心配してくれてありがとう。でもね、大丈夫。だって、ルーさんもメルヴィンも、アタシのこと守ってくれるもん」

 にっこり笑うと、メルヴィンは生真面目な顔で頷いた。

「ええ、もちろんです。しっかり守りますから」

 力強いその言葉に、キュッリッキは嬉しそうになりながら、顔を赤らめた。2人の様子を穏やかに見て、ルーファスもにっこりと笑う。

 ナルバ山の時と同じような失態は、二度とおかさない。メルヴィンも同じ思いだ。

 最強だと思われたキュッリッキの召喚スキル〈才能〉の弱点。それが判って、ライオン傭兵団もベルトルド達も愕然としたのだ。

 ナルバ山の遺跡では、力を封じられた原因は判っていない。しかし、子供にだって出来るごく簡単なことで、キュッリッキの力を封じることができるのだ。

 それは、目をふさいでしまうことだ。

 たったそれだけで、召喚の力を防げてしまう。

 召喚の力を封じられてしまえば、キュッリッキはただの非力な女の子でしかない。

 しかしキュッリッキは、ナルバ山の遺跡の仕事の前に、カーティスらに召喚の説明をしている。召喚出来ない状況のこともサラッと話しているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...