片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode338

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 キュッリッキが声高に叫ぶと、歪んだ空間から何かが次々と飛び出し、広場を覆って辺りは一瞬にして濃い闇に包まれた。

 巨大な何かは広場どころか、ハーメンリンナの上空を全て塞いでしまっているようだ。

 陽光は遮られ、闇の中に落とし込まれた人々は、恐怖のあまり息を飲んで黙りこくった。悲鳴をあげることすら忘れてしまったように、天を仰いで何かを探ろうとする。

「――大きすぎて、これではカメラにおさまりきれんな」

 ベルトルドも天を仰いで、口の端を釣り上げ笑う。

「リッキー、もうちょっと小さくなるように言ってくれ。カメラに映るくらいにはしないと、これでは暗くて何も見えないからな」

「はーい」

 キュッリッキは天を仰いで叫ぶ。

「みんな、もうちょっと小さくなって。真っ暗になっちゃって、なにも見えないの~」

 その声に応じ、 ヨルムガンド、リンドヴルム、フローズヴィトニル、スレイプニルは淡い光を放ちながら、徐々にその身を縮ませていった。

 ハーメンリンナに陽光が戻り、目が慣れた人々は上空にいるその姿を仰ぎ見て、次々と悲鳴をあげた。貴婦人の中には失神する者もあった。

 滑りけを帯び陽光に照らされ、鈍い光を放つ鱗を持った巨大な黒い蛇ヨルムガンド。

 爬虫類の外見に、蝙蝠のような巨大な2枚の翼を生やす龍リンドヴルム。

 漆黒の毛に覆われ、冷たい氷土を思わせるアイスブルーの瞳を持つ巨狼フローズヴィトニル。

 引き締まった灰色の体躯に、8本の脚を持つ巨馬スレイプニル。

 かつて人類が見たこともない、それは伝説の中で語られる幻獣。それが突如ハーメンリンナの上空に顕現した。

 カメラはしっかりとその4匹の幻獣を映し出し、世界中にこの映像が流れた。

「伝説の神の世界アルケラ、そこに存在する住人たちの一部である。そしてこの住人たちをこの世界に呼び寄せることができる、それが召喚士の力だ」

 騒然となる広場に、ベルトルドの静かな声が降り注いで、人々は壇上に注目する。

「神の力の一端を操る、尊い存在なのだ、召喚士は。その神に愛されし召喚士を害し、世界に災厄をもたらそうとする逆臣軍を、我々は許すわけにはいかない」

 フローズヴィトニルが空から舞い降り宙にとどまったまま、鼻先をキュッリッキにつき出してくる。

 キュッリッキは無邪気に微笑み、巨大な鼻先を優しく撫でてやった。

 その映像はベルトルドの演説を、確固たるものにする。召喚スキル〈才能〉を持つ者が厚遇される理由を、世界中の人々が納得した。

「皇国と召喚士に仇なす逆臣軍を討つ! 全軍出撃せよ!!」

 ハーメンリンナに鬨の声が轟いた。
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