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それぞれの悪巧み編
episode336
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式典会場は、ハーメンリンナの宮殿前広場に設けられた。
1万人の人々が収容できるスペースには、軍服をまとった人々が整然と並び、一部に着飾った紳士淑女が混じっている。この式典に色を添えるためだけに並ばされた、貴族や富豪たちだ。
特設された壇上の右側には皇王と皇妃、王太子や王女など皇王一家や一族が座っている。左側には宰相とブルーベル将軍、10人の大将、特殊部隊の長官などが並んで立っていた。キュッリッキもアルカネットの傍らに立っている。
壇上の背景には巨大なスクリーンが建てられ、壇上に立つ人物が映し出され、それと同じ映像が、各地に設置されたスクリーンにも流される。
広場にいるのはほぼ第七正規部隊の軍人たちで、式典が終われば皇都の守りにつく。他の部隊の軍人たちは、すでにモナルダ大陸に向け移動を開始している。移動先でこの中継を見ることになるだろう。
ライオン傭兵団員のなかでは、この式典に出席しているのはルーファスとメルヴィンの2人だけだった。2人は引き続き、キュッリッキの護衛を任されている。
「式典が終わったら、リッキーの身はとても危険にさらされることになる。全力で守れよ」
前日ベルトルドから、とくにそう念押しされていた。
ルーファスとメルヴィンの2人は、キュッリッキのすぐ背後に立って、辺りに注意を払っていた。この2人に関しては、何よりも最優先がキュッリッキの安全と命じられている。
やがて時間になり、ベルトルドが会場に姿を現した。
抜けるような青空と射抜くような夏の日差しのもと、光を弾いてより煌く真っ白な軍服と、肩から背中に流れる真っ白なマントをなびかせ、ベルトルドは颯爽と壇上に立つ。白の軍服はベルトルドにのみ、着用を許されている色である。
泣く子も黙らせる副宰相とその名を轟かすベルトルドの姿を、スクリーンを通して初めて目の当たりにした国民の多くは、その若い風貌に驚いたことだろう。更に皇王から全軍総帥の地位を下賜され、兼任しているのである。
惑星ヒイシの中で、最も巨大な政治権力と軍事力を、掌中におさめている人物だ。
壇上に立ったベルトルドは、居並ぶ人々をゆっくりと睥睨し、口を開いた。
短い挨拶から入り、この戦争を始めるきっかけとなった経緯が説明される。
会議の席で捏造した、召喚士への殺害未遂などには脚色もされ、国民の怒りを誘うような内容になっていた。そして中継を見ていた国民たちは、思惑通りに次々と怒りを沸き上がらせた。
この世界の人々は生まれて3歳になると、国にあるスキル〈才能〉判定機関にて、どんなスキル〈才能〉を備えているかを調べてもらう。そこで召喚スキル〈才能〉が判明すれば、ただちに生国が家族ごと召喚スキル〈才能〉を持つ子供を保護し、一生王侯貴族のような生活が保証され大切に扱われるのだ。それはヴィプネン族だけではなく、アイオン族とトゥーリ族でも同じように行われている。
召喚は特殊スキル〈才能〉の中に括られるが、他のスキル〈才能〉とは一線を画している。
太古の昔、異次元の彼方に消え去ったアルケラという、伝説の神の世界をその目で視ることができ、その世界に住むものをこちら側の世界へ招く力を有している。
召喚スキル〈才能〉を持つものを、とくに召喚士と呼称する。
アルケラという神の世界があることを、証明できる唯一の存在。
召喚士は尊い神の力を使う。神に近しい存在として、召喚士は別格として人々に認識されているのだ。そこを利用するため、ベルトルドは捏造に踏み切った。
「害された召喚士は幸いにして命を取り留め、今日この場に、その姿をお披露目する」
ベルトルドは背後を振り返り、キュッリッキに手を差し伸べる。
1万人の人々が収容できるスペースには、軍服をまとった人々が整然と並び、一部に着飾った紳士淑女が混じっている。この式典に色を添えるためだけに並ばされた、貴族や富豪たちだ。
特設された壇上の右側には皇王と皇妃、王太子や王女など皇王一家や一族が座っている。左側には宰相とブルーベル将軍、10人の大将、特殊部隊の長官などが並んで立っていた。キュッリッキもアルカネットの傍らに立っている。
壇上の背景には巨大なスクリーンが建てられ、壇上に立つ人物が映し出され、それと同じ映像が、各地に設置されたスクリーンにも流される。
広場にいるのはほぼ第七正規部隊の軍人たちで、式典が終われば皇都の守りにつく。他の部隊の軍人たちは、すでにモナルダ大陸に向け移動を開始している。移動先でこの中継を見ることになるだろう。
ライオン傭兵団員のなかでは、この式典に出席しているのはルーファスとメルヴィンの2人だけだった。2人は引き続き、キュッリッキの護衛を任されている。
「式典が終わったら、リッキーの身はとても危険にさらされることになる。全力で守れよ」
前日ベルトルドから、とくにそう念押しされていた。
ルーファスとメルヴィンの2人は、キュッリッキのすぐ背後に立って、辺りに注意を払っていた。この2人に関しては、何よりも最優先がキュッリッキの安全と命じられている。
やがて時間になり、ベルトルドが会場に姿を現した。
抜けるような青空と射抜くような夏の日差しのもと、光を弾いてより煌く真っ白な軍服と、肩から背中に流れる真っ白なマントをなびかせ、ベルトルドは颯爽と壇上に立つ。白の軍服はベルトルドにのみ、着用を許されている色である。
泣く子も黙らせる副宰相とその名を轟かすベルトルドの姿を、スクリーンを通して初めて目の当たりにした国民の多くは、その若い風貌に驚いたことだろう。更に皇王から全軍総帥の地位を下賜され、兼任しているのである。
惑星ヒイシの中で、最も巨大な政治権力と軍事力を、掌中におさめている人物だ。
壇上に立ったベルトルドは、居並ぶ人々をゆっくりと睥睨し、口を開いた。
短い挨拶から入り、この戦争を始めるきっかけとなった経緯が説明される。
会議の席で捏造した、召喚士への殺害未遂などには脚色もされ、国民の怒りを誘うような内容になっていた。そして中継を見ていた国民たちは、思惑通りに次々と怒りを沸き上がらせた。
この世界の人々は生まれて3歳になると、国にあるスキル〈才能〉判定機関にて、どんなスキル〈才能〉を備えているかを調べてもらう。そこで召喚スキル〈才能〉が判明すれば、ただちに生国が家族ごと召喚スキル〈才能〉を持つ子供を保護し、一生王侯貴族のような生活が保証され大切に扱われるのだ。それはヴィプネン族だけではなく、アイオン族とトゥーリ族でも同じように行われている。
召喚は特殊スキル〈才能〉の中に括られるが、他のスキル〈才能〉とは一線を画している。
太古の昔、異次元の彼方に消え去ったアルケラという、伝説の神の世界をその目で視ることができ、その世界に住むものをこちら側の世界へ招く力を有している。
召喚スキル〈才能〉を持つものを、とくに召喚士と呼称する。
アルケラという神の世界があることを、証明できる唯一の存在。
召喚士は尊い神の力を使う。神に近しい存在として、召喚士は別格として人々に認識されているのだ。そこを利用するため、ベルトルドは捏造に踏み切った。
「害された召喚士は幸いにして命を取り留め、今日この場に、その姿をお披露目する」
ベルトルドは背後を振り返り、キュッリッキに手を差し伸べる。
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