片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode335

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 控え室に到着した3人は、機嫌の良いベルトルドの声に出迎えられた。

「ゴテゴテに飾り立てようとしてくるから、飾り自体を粉砕してやった」

 壁の表面を覆う巨大な鏡の前に立ち、ベルトルドは悪戯っ子のような笑みで振り返った。そのベルトルドの足元には、粉々に砕かれた金属片が大量に散らかっていた。

「ちょっとあーた、勲章やら何やらまで、全部壊しちゃったわけー?」

「無駄に重い勲章やらモールやらつけようとするからだ。俺はクリスマスツリーじゃないぞ」

「いっそ目立つように、電色でも巻きつけてあげましょうか?」

 くすっと笑うリュリュをキッと睨み、ベルトルドは「もういい」と軍服のホコリを払おうとする下官を下がらせた。

「よく似合っているな、リッキー」

 アルカネットの横でおとなしく立っているキュッリッキを、ベルトルドは高く抱き上げた。

「本当は色々可愛いドレスを用意しておいたんだが、ドレスを着たまま出撃するわけにもいかんしな」

「でもアタシ、これ気に入ってるよ」

 嬉しそうにキュッリッキが笑うと、ベルトルドも自然と表情が優しく和んだ。

 ライオン傭兵団の入団テスト日から、キュッリッキは仕事着に、仕事で知り合った旅芸人一座の娘からプレゼントされた、踊り子風な衣装を着ていた。

 自ら武器を持って戦うわけでも、魔法やサイ《超能力》を操るわけでもないので、何を着て戦場にいてもよかったから、とくに仕事着は持っていなかったのだ。

 キュッリッキはその踊り子風の衣装を、戦闘着と定めて用いていた。しかし2か月前、ナルバ山で怪物に襲われたとき衣装は切り裂かれ、血糊でベトベトになって、もはや着られる状態じゃなくなり失ってしまった。

 そこでキュッリッキは戦闘着になる服をずっと探していたが、そのことを知ったベルトルドとアルカネットが、キュッリッキの好みや希望を聞き出し、特注で作らせたのが今日着ている服だ。

 キュッリッキの大好きな青色系の布を使った服である。

 この機会に髪型もオトナっぽいものに変えようとした。美容院で4時間も美容師と相談を重ねた挙句、結局以前とあまり変わらない感じになってしまった。

 髪飾りは子供っぽいのでやめて、自然に波打った髪には、無理にストレートをかけるのをやめた。

「このままもうちょっと前髪とサイドが伸びたら、大人っぽくなってイイ感じよ」

 と美容師に言われ、キュッリッキもそうかもしれないと思った。もっともベルトルド邸にいると、アリサやリトヴァが髪を結って、リボンで飾り立ててしまう。そうするとオトナっぽい雰囲気からは、かけ離れてしまうのだった。

「ちょっとベル、これ、開演までに暗記しなさい」

 差し出された書類を見て、ベルトルドは目を丸くした。

「なんだ、これ?」

「演説の草稿よ」

「………俺が覚えられるわけ無いだろう?」

「居直んないでっ。ちゃんと覚えて、前を向いて下を向かず、噛まずスラスラ読み上げなさい。カメラ目線とリップサービスもしとくのよ」

「む・り・だっ!」

「あと15分もあるからイケルわよ」

「無理っ――!!」

 地団駄でも踏みそうな癇癪を起こして、子供のようにベルトルドは喚いた。それを冷ややかに見やり、リュリュは書類をグイッと突き出す。

「お・ぼ・え・な・さい」

 なおも無言で拒むベルトルドの軍服の裾を、キュッリッキが小さく引っ張る。

「ベルトルドさん、あと10分しかないよ?」

 現実を突きつけるキュッリッキの言葉に、ベルトルドはガックリと肩を落とし敗北した。
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