351 / 882
それぞれの悪巧み編
episode332
しおりを挟む
「将来何になりたいとか、生きる意味とか、目標とか、趣味とか、そんなの何にもないの。それに気がついちゃったのね。そしたら急に恥ずかしくなって、アタシってつまんない子だな~って思って…」
ベルトルドは首を横に振ると、キュッリッキを優しく抱きしめる。
「これから見つけていけばいいだけのことだぞ? リッキーはまだ19歳だ。これから色んなことにチャレンジして、可能性を広げられる」
「でも、みんな幼い頃には、将来は何になりたいか、決めてたって言ってたよ」
一旦身体を離し、ベルトルドはキュッリッキの顔を真正面に向けると、コツンと額を突きつけた。
「この世界には、スキル〈才能〉というものがある。俺はサイ《超能力》、リッキーは召喚。あいつらは戦闘だったり魔法だったりするが、生まれ持ったスキル〈才能〉で、だいたい将来の職業なり道なりが決まる。スキル〈才能〉を活かした職業の方が、やりやすいしな」
「うん」
「しかし手持ちのスキル〈才能〉とは関係ない分野へ進もうとすると、小さい頃から目標を定め、努力が必要になるだろう。そうしたマゾイ道を選ぶ奴も沢山いる。しかしそれらは選択の一つであり、必ず選ばなければならないという決まりはない」
「そうだね」
「リッキーはこれまで傭兵の世界しか知らなかった。だが、これからは違う世界も沢山知ればいい。リッキーが望んだ勉強は、新しい世界を沢山見せて広げてくれる。その中から、興味を持ったものにチャレンジしてみればいい。リッキーにはそうするだけの時間が沢山あるから、焦らなくて大丈夫だよ」
優しい光を宿すベルトルドの瞳をジッと見つめ、キュッリッキは嬉しそうに目を細めた。
親に捨てられず、たとえ捨てられていても、誰かが手を差し伸べてくれていたら。
それは、思わないようにしてきた。でも時々、ふとそう思ってしまうことがある。ごく普通に育ってきた人たちと話をしていると、自分は異質だと感じてしまうのだ。
しかし今はベルトルドがいて、アルカネットがいて、ライオン傭兵団がいる。何もなかった自分の将来に、可能性を見つけることが出来るのだ。
すぐには見つからなくても、探していけばいい。選択するという道が、目の前に敷かれたのだ。
とても嬉しかった。
額を離すと、キュッリッキは「そだ」と首を傾げた。
「ベルトルドさんは、どうして副宰相になったの?」
「うん?」
「ルーさんが、ベルトルドさんはヒモか詐欺師で一生食っていけるって言ってたの」
詐欺師は判るが、ヒモの意味がキュッリッキには判らない。
「リッキー、ルーから教わったことは何でも、逐一俺にも教えてくれ」
光が零れるような、爽やかな笑顔をするベルトルドを、キュッリッキはドン引きして見つめる。背後に怒りのオーラが見えるのだ。
「…はいなの」
「俺が副宰相になったのは、能無しボケジジイのせいもあったんだが…。俺にはどうしても、やり遂げなければならないことがある」
「やり遂げなきゃいけないこと?」
「うん。それは、俺の生涯をかけても、絶対にしなきゃいけないんだ」
ベルトルドは前方に視線を向ける。
宝石のようなブルーグレーの瞳は、部屋ではない別のところを見据えている。
温和な表情が消え、鋭い目つきと、不敵な笑みが口元を覆った。その表情を見て、キュッリッキは身をすくませる。普段キュッリッキには見せない怖い顔だ。
手に伝わる小さな震えに気づき、ベルトルドは表情を和ませた。
「――俺の目的のためには、副宰相くらいの地位がないと、遂行しにくいんだ。それでこんなに忙しくて面倒な役回りを引き受けている」
そう言って、キュッリッキに優しく微笑みかけた。
「ベルトルドさんも、頑張ってるんだね」
「ああ、そうだな」
ベルトルドは首を横に振ると、キュッリッキを優しく抱きしめる。
「これから見つけていけばいいだけのことだぞ? リッキーはまだ19歳だ。これから色んなことにチャレンジして、可能性を広げられる」
「でも、みんな幼い頃には、将来は何になりたいか、決めてたって言ってたよ」
一旦身体を離し、ベルトルドはキュッリッキの顔を真正面に向けると、コツンと額を突きつけた。
「この世界には、スキル〈才能〉というものがある。俺はサイ《超能力》、リッキーは召喚。あいつらは戦闘だったり魔法だったりするが、生まれ持ったスキル〈才能〉で、だいたい将来の職業なり道なりが決まる。スキル〈才能〉を活かした職業の方が、やりやすいしな」
「うん」
「しかし手持ちのスキル〈才能〉とは関係ない分野へ進もうとすると、小さい頃から目標を定め、努力が必要になるだろう。そうしたマゾイ道を選ぶ奴も沢山いる。しかしそれらは選択の一つであり、必ず選ばなければならないという決まりはない」
「そうだね」
「リッキーはこれまで傭兵の世界しか知らなかった。だが、これからは違う世界も沢山知ればいい。リッキーが望んだ勉強は、新しい世界を沢山見せて広げてくれる。その中から、興味を持ったものにチャレンジしてみればいい。リッキーにはそうするだけの時間が沢山あるから、焦らなくて大丈夫だよ」
優しい光を宿すベルトルドの瞳をジッと見つめ、キュッリッキは嬉しそうに目を細めた。
親に捨てられず、たとえ捨てられていても、誰かが手を差し伸べてくれていたら。
それは、思わないようにしてきた。でも時々、ふとそう思ってしまうことがある。ごく普通に育ってきた人たちと話をしていると、自分は異質だと感じてしまうのだ。
しかし今はベルトルドがいて、アルカネットがいて、ライオン傭兵団がいる。何もなかった自分の将来に、可能性を見つけることが出来るのだ。
すぐには見つからなくても、探していけばいい。選択するという道が、目の前に敷かれたのだ。
とても嬉しかった。
額を離すと、キュッリッキは「そだ」と首を傾げた。
「ベルトルドさんは、どうして副宰相になったの?」
「うん?」
「ルーさんが、ベルトルドさんはヒモか詐欺師で一生食っていけるって言ってたの」
詐欺師は判るが、ヒモの意味がキュッリッキには判らない。
「リッキー、ルーから教わったことは何でも、逐一俺にも教えてくれ」
光が零れるような、爽やかな笑顔をするベルトルドを、キュッリッキはドン引きして見つめる。背後に怒りのオーラが見えるのだ。
「…はいなの」
「俺が副宰相になったのは、能無しボケジジイのせいもあったんだが…。俺にはどうしても、やり遂げなければならないことがある」
「やり遂げなきゃいけないこと?」
「うん。それは、俺の生涯をかけても、絶対にしなきゃいけないんだ」
ベルトルドは前方に視線を向ける。
宝石のようなブルーグレーの瞳は、部屋ではない別のところを見据えている。
温和な表情が消え、鋭い目つきと、不敵な笑みが口元を覆った。その表情を見て、キュッリッキは身をすくませる。普段キュッリッキには見せない怖い顔だ。
手に伝わる小さな震えに気づき、ベルトルドは表情を和ませた。
「――俺の目的のためには、副宰相くらいの地位がないと、遂行しにくいんだ。それでこんなに忙しくて面倒な役回りを引き受けている」
そう言って、キュッリッキに優しく微笑みかけた。
「ベルトルドさんも、頑張ってるんだね」
「ああ、そうだな」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
151
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる