片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode331

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 夕食を終えると、ベルトルドは自分の部屋で使っている、一人用のお気に入りソファをキュッリッキの部屋へ持ってきて、だらりと座った。デスクワークと会議詰めで、肩もこってるし、背中も痛い。

 背をグーッと伸ばして唸っていると、後ろで手を組んだキュッリッキが、不安そうに前に立った。

「ベルトルドさん大丈夫? すごく疲れてるみたい」

「仕事が忙しくてね。でも大丈夫だぞ、リッキーの顔を見たら疲れも吹っ飛んだ」

 ベルトルドの柔らかな笑みに、キュッリッキもホッとしたように笑顔を見せた。

 先月過労で倒れて入院している。そのためリュリュが、一日置きに残業させずに定時で帰らせていた。戦争を控えた大事な時期だけに、ベルトルドの体調のほうが最優先なのだ。

「そういえばさっき、あいつらに本を読んでいたようだね」

「うん。新しい本を読めるようになったから、みんなに聞いてもらってたの」

「そうかそうか。――おいで、リッキー」

 ベルトルドは膝にキュッリッキを座らせると、テーブルに置いてあった本を念力で取り寄せる。

「俺にも読んで聞かせてほしいな」

「わっ、はいなのっ」

 キュッリッキはちょっと緊張した面持ちで本を開く。スウッと息を吸い込み、肩を強ばらせて読み始めた。

 創作の冒険物語を、小さな子供向けに判りやすく書かれたもののようだ。

 流暢に読む箇所、辿たどしくつっかえながら読む箇所があるなど、まだまだ不慣れな口調で読む姿が微笑ましい。時々読めていない単語を教えながら、ベルトルドは優しい笑みを浮かべていた。

 元から全く字が読めないわけではなく、これまでの生活で必要な字は読んで理解している。ただ、偏った覚え方や意味をしっかり把握出来ていない部分も多いので、今のうちに正しく覚えたほうがいいだろう。幸いグンヒルドの教え方が良いのか、キュッリッキの飲み込みは早かった。

 読み終わると、ベルトルドはキュッリッキを抱き寄せ、ご褒美に頭や頬にキスの雨を降らせた。

「教わったことを、ちゃんと覚えているようだね。授業は楽しいかな?」

「うん、とっても。一時間じゃ物足りないの。もっともっと色んな事教わりたい」

 目をキラキラさせながら、キュッリッキはウキウキ感を笑顔に漂わせた。

「戦争が終わったら、授業時間を増やしてもらうといい。ヴィヒトリも文句はなかろう」

「そうだといいなあ~」

 そう言って、急にキュッリッキの表情から笑みが薄れていく。

「どうしたのかな?」

 様子に気づいたベルトルドが頭をそっと撫でると、キュッリッキは俯き、少し考えるように視線を床に落とす。

「アタシね、ずっと、生きていくことだけを考えてたの。働いて、ご飯食べて、寝て、たまにハドリーやファニーと遊んで、それだけ」

 背表紙に掌を這わせ、自嘲するような笑みが口元を掠めた。

「ライオンのみんなとお喋りしたり、グンヒルド先生とお勉強したりしてるとね、アタシってつまんない子って気づいちゃったの」

「リッキー?」

「えへ」

 どこか寂しそうな苦笑をベルトルドに向けて、キュッリッキは小さく舌を出した。
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