片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode330

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 軍での勤めを終えてきたライオン傭兵団は、夕食の準備ができるまでスモーキングルームに集まるのが、ベルトルド邸にきてからの日課となっていた。

 いつもならガヤガヤと適当な雑談が飛び交うが、今日はみんな黙ってキュッリッキの朗読を拝聴中である。

 家庭教師のグンヒルドと毎日一時間、字を教わっている。グンヒルドが用意する本を朗読し、言葉の意味を教わり、キュッリッキの国語力も少しずつ上昇していた。

 19歳にもなるキュッリッキが、7~8歳の子供が読むような本を、一生懸命になって読んでいる。しかしそのことを誰もバカになどしない。

 家庭の事情や金銭的な事情で、基礎学校へ満足に行けず、働きに出る子供達が普通にいる。傭兵をしている子供は、そういった背景が多いのだ。

 キュッリッキの詳しい生い立ちは知らないまでも、勉強することを喜び、真摯に取り組む姿勢は応援に値するのだった。

 しかめっ面になったり、得意そうな顔をしたり、百面相も披露しながらの朗読会が終わると、キュッリッキは恥ずかしそうに笑った。みんなから励ましの拍手が贈られた。

「だいぶ読める単語が増えてきましたね」

 シビルがニッコリ言うと、

「その調子で好きな路線の本を読むと、覚えるのも、もーっと早くなるかも」

 尻尾をフサフサ振りながら、ハーマンが分厚い本を一冊差し出す。

「『初心者でもわかる魔法辞典』?」

 受け取ったキュッリッキが表題を読むと、ハーマンはえっへんと胸を張る。

「スキル〈才能〉は違うものでも、理解を深めるためには一読する価値はあるよ。仕事にも大役立ちさ」

「ふみゅ~」

 言われて適当なページを開くが、すぐにパタンと閉じる。

「ウチュー語がいっぱい並んでるかも…。ベルトルドさんの書く字みたい」

「えー…あんなのと一緒にしないでよー」

 ハーマンは飛び跳ねながら抗議した。

「俺がなんだ??」

 スモーキングルームのドアを開けながら、ベルトルドが不思議そうな顔で入ってきた。ハーマンは慌てて口を塞ぐ。

「おかえりなさい」

 部屋のあちこちから、棒読みのような挨拶がチラホラ投げかけられる。

「おかえりなさい、ベルトルドさん」

 ベルトルドに笑顔を向けると共に、キュッリッキは心配そうな視線を股間に注ぐ。

「ただいまリッキー、もうナマコは退治したぞ」

 笑顔をひきつらせながら、ベルトルドはキュッリッキを抱きしめる。

「俺のフランクフルトは、ナマコごときに殺られたりはしないぞ」

「ほむ…」

 キュッリッキは一人意味不明な表情を浮かべていたが、ライオン傭兵団は俯いて身体を小刻みに震わせながら、必死に笑いを堪えていた。
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