片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode329

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「この遺跡は、1万年前の超古代文明の遺跡なの。あまりにも広すぎて、調査しきれてないンだけど、遠く離れたこのワイ・メア大陸を脅かすほどの武器が眠っているわ」

「なんと…」

 アークラ大将が息を呑む。

「エグザイル・システムは抑えてあるし、モナルダ大陸は惑星の反対側だから、兵士を送り込んでくるのは難しいでしょうけれど、遺跡の武器を使われたら目も当てられないわ。こちらにも相当の被害が出ることは否めない」

 そしてこれが、奮起させる起爆剤の二つ目になる。

 正規部隊、特殊部隊の上層に属する者は、超古代文明のもたらす技術の恐ろしさをよく判っている。エルアーラ遺跡が超古代文明のものなら、それは危険視されるべきものだ。何としても奪還しなくてはならない。

 背後のモニターに、今度は軍の組織図が映し出される。

「そこで今回は、ベルマン公国、エクダル国、ボクルンド王国、そしてソレル王国の制圧に正規部隊と特殊部隊を総動員するわ。出し惜しみなしよ。その指揮にあたられるのはブルーベル将軍。ただし、第七正規部隊は皇都の守りについてもらいます。陛下と民をよろしくお願いネ」

 第七正規部隊フオヴィネン大将が固く頷く。

「エレギア地方の遺跡制圧は、総帥と魔法部隊(ビリエル)の長官アルカネット、そして総帥直属の部下の傭兵たちで向かいます」

「総帥自ら出られるのですか!」

 親衛隊隊長マティアスが仰天したように身を乗り出す。その様子に微笑し、ベルトルドは前髪を軽くはらった。

「俺は強いからな」

 この一言に、誰もツッコミを入れるものなどいなかった。アルカネットがほんの僅かに肩をすくめるのみ。リュリュも「はいはい」といった表情を浮かべていた。

 3年前にコッコラ王国で見せつけたその力を、この場にいるほぼ全員が記憶に刻んでいる。異議など出ようはずもない。

「8月3日に出撃、それに先駆け7月29日から、部隊の一部をモナルダ大陸へ向け移動を開始させる。海上からも一部戦艦を残し出撃だ。逆臣軍はモナルダ大陸から動こうとせんのでな、わざわざこちらから出向いて遊んでやる。しかし万が一に備え、ダエヴァのいくつかはワイ・メア大陸の警戒にあたれ。皇都の守りは第七部隊に全て任せる」

 ベルトルドの説明に、ダエヴァの3長官とフオヴィネン大将が頷く。

「リュー、式典の準備は大丈夫か?」

「ええ、滞りなくってよ」

「8月3日の出撃前にな、ちょっと派手なイベントを世界中に発信する。この惑星ヒイシだけじゃなく、惑星タピオ、惑星ペッコにも中継を送る。――お前たちも面白いものが見られるから、楽しみにしているといい」

 ブルーベル将軍が好々爺の笑みを浮かべる。

「あーた、演説はするの?」

 横に立つリュリュに視線を向け、ベルトルドは渋面を作った。

「俺は演説嫌いだって、お前、知ってるだろ」

「おバカね、式典なんだから、何かカッコのつくことでも言わないと、様にならないじゃない」

「………」

「忙しいから演説原稿、アタシ書かないわよ。アルカネットにでもお願いして書いてもらうのね」

「嫌ですよ、私も忙しいのです」

「……じゃあ、カッコよく、短く、キリッとビシッと何か言う」

 ムスッとベルトルドが言うと、諸将は困惑した表情を浮かべて総帥を見つめた。アルカネットは呆れ顔で首を振る。

「開戦は8月10日あたりを目処に、念頭に置いといてちょうだい。狼煙は各首都で同時に上げてもらうわ。準備する時間が極端になさすぎて、現場は大変でしょうけれど。それまでに仕掛けてこられたら、徹底的に叩いてちょうだい」

 リュリュがそう締めくくると、全員が深く頷いた。

「出撃まで日がない。各部隊早急に準備を整えておくように。――解散だ」

 ベルトルドが立ち上がると、皆席を立ち、胸に手を当て敬礼した。
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