347 / 882
それぞれの悪巧み編
episode328
しおりを挟む
泣く子も黙らせるという通り名を持つ副宰相の、意外すぎる一面が披露され――リュリュとアルカネットにしてみれば日常――諸将は複雑な心境の極みだった。
そんな部下たちの心も忖度せず、集まった一同を見渡し、ベルトルドは無造作に片手をあげる。それを合図に、秘書官のリュリュが改めて立ち上がった。
「ベルの間抜けな場面を失礼したわね。無駄な時間を費やしたぶん、早速、本来の議題に入るわ」
リュリュが手にしていた書類をめくると、室内の全ての人々が、テーブルに置かれた、或いは手にしていた書類をめくり始める。
やっと始まったか、という空気が、副官や秘書官の方角から遠慮なく漂う。それに対して、リュリュは内心苦笑した。側近のほうが、案外冷静なのである。
「過日、ご立派な宣戦布告を発して逆臣となったソレル王国は、周辺の三国であるベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国と手を組んで、『自由奪還軍』などと味気ない名称を掲げて連合を作ったわ。6月の時点ですでに総帥が第二正規部隊とダエヴァ第二部隊、魔法部隊の一部をソレル王国の首都アルイールに送り込んで占拠したけど、メリロット王家の連中は、ケツまくって逃げ出したあと。軍も一緒に後退してどこかへ潜伏したようね。残されたのは巻き込まれて状況説明もしてもらえなかった、哀れな国民だけよ」
一度区切ると、第一正規部隊のエクルース大将が手を挙げた。
「総帥は6月の時点で、ソレル王国の反逆を察知しておられたのですか?」
ベルトルドはチラッとエクルース大将に視線を向けると、小さく頷いた。
「アルケラ研究機関ケレヴィルの研究員を不当に拘束、尋問した件があってな。身元を明かしても、俺のサインをした書類を突きつけても尚拘束を続けたので、第二部隊などを向かわせた。そしてなにより重要なのは、召喚士に手を出し、瀕死の重症を負わせたことだ」
これには室内が、騒然とざわめいた。
ナルバ山でのキュッリッキの怪我に、ソレル王国は関わっていない。しかし真相を知らない一同に、ベルトルドは罪を捏造する。
これが、諸将の戦争に対するやる気を奮起させる起爆剤だ。
召喚士を保護し、国を挙げて護るのは3種族で取り決めてあること。その召喚士を害することは、何よりも重罪に値する。
召喚士は尊い神の力を使う。その神聖な存在に手をかけるなど、想像もできない蛮行なのだ。
室内に嫌悪と怒気が充満していく。
「小官も閣下から出撃を命ぜられ、その理由を聞かされ大変驚きました。――お嬢様の容態は、もうよろしいのでしょうか?」
第二正規部隊のアークラ大将が、気遣わしげにベルトルドを見やる。
アークラ大将は、ソレル王国にてキュッリッキの姿を見ている。ベルトルドの腕に抱かれ、意識もなく顔色も悪く、今にも消え去りそうな儚い印象だった。あんな目に遭わせるなど、あってはならないことだ。
「ああ。まだ少し不調な部分もあるが、通常生活に問題はない」
「それはようございました」
本心から安堵するアークラ大将に、ベルトルドは小さく微笑んだ。
「さて、本題を戻すわよ。逆臣軍はその後ソレル国王を首領にいただいて、モナルダ大陸の中央部、ボルクンド王国領内エレギア地方一帯に陣取って、世界へ向けて宣戦布告を発したわ。エレギア地方には1万年前の遺跡が、ほぼ完全な形で遺っているの。ケレヴィルで押さえていたけど、奴らは遺跡に侵入して、ケレヴィルの職員を惨殺して乗っ取ったみたいね」
「――泥棒に殺人、ますます世間に顔向けできない行為をやらかしておりますな」
やや呆れ口調で、ブルーベル将軍は小さく頭を振った。それにリュリュは頷く。
「ここまでくると、もはや弁明の余地なしね。召喚士に瀕死の大怪我を負わせた挙句、皇国に逆らい、皇国管理の遺跡を占拠。――けど、エレギア地方の遺跡を使われるのは厄介よ」
リュリュは背後のモニターに、遺跡の一部を映し出す。諸将の視線がモニターに集中した。
そんな部下たちの心も忖度せず、集まった一同を見渡し、ベルトルドは無造作に片手をあげる。それを合図に、秘書官のリュリュが改めて立ち上がった。
「ベルの間抜けな場面を失礼したわね。無駄な時間を費やしたぶん、早速、本来の議題に入るわ」
リュリュが手にしていた書類をめくると、室内の全ての人々が、テーブルに置かれた、或いは手にしていた書類をめくり始める。
やっと始まったか、という空気が、副官や秘書官の方角から遠慮なく漂う。それに対して、リュリュは内心苦笑した。側近のほうが、案外冷静なのである。
「過日、ご立派な宣戦布告を発して逆臣となったソレル王国は、周辺の三国であるベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国と手を組んで、『自由奪還軍』などと味気ない名称を掲げて連合を作ったわ。6月の時点ですでに総帥が第二正規部隊とダエヴァ第二部隊、魔法部隊の一部をソレル王国の首都アルイールに送り込んで占拠したけど、メリロット王家の連中は、ケツまくって逃げ出したあと。軍も一緒に後退してどこかへ潜伏したようね。残されたのは巻き込まれて状況説明もしてもらえなかった、哀れな国民だけよ」
一度区切ると、第一正規部隊のエクルース大将が手を挙げた。
「総帥は6月の時点で、ソレル王国の反逆を察知しておられたのですか?」
ベルトルドはチラッとエクルース大将に視線を向けると、小さく頷いた。
「アルケラ研究機関ケレヴィルの研究員を不当に拘束、尋問した件があってな。身元を明かしても、俺のサインをした書類を突きつけても尚拘束を続けたので、第二部隊などを向かわせた。そしてなにより重要なのは、召喚士に手を出し、瀕死の重症を負わせたことだ」
これには室内が、騒然とざわめいた。
ナルバ山でのキュッリッキの怪我に、ソレル王国は関わっていない。しかし真相を知らない一同に、ベルトルドは罪を捏造する。
これが、諸将の戦争に対するやる気を奮起させる起爆剤だ。
召喚士を保護し、国を挙げて護るのは3種族で取り決めてあること。その召喚士を害することは、何よりも重罪に値する。
召喚士は尊い神の力を使う。その神聖な存在に手をかけるなど、想像もできない蛮行なのだ。
室内に嫌悪と怒気が充満していく。
「小官も閣下から出撃を命ぜられ、その理由を聞かされ大変驚きました。――お嬢様の容態は、もうよろしいのでしょうか?」
第二正規部隊のアークラ大将が、気遣わしげにベルトルドを見やる。
アークラ大将は、ソレル王国にてキュッリッキの姿を見ている。ベルトルドの腕に抱かれ、意識もなく顔色も悪く、今にも消え去りそうな儚い印象だった。あんな目に遭わせるなど、あってはならないことだ。
「ああ。まだ少し不調な部分もあるが、通常生活に問題はない」
「それはようございました」
本心から安堵するアークラ大将に、ベルトルドは小さく微笑んだ。
「さて、本題を戻すわよ。逆臣軍はその後ソレル国王を首領にいただいて、モナルダ大陸の中央部、ボルクンド王国領内エレギア地方一帯に陣取って、世界へ向けて宣戦布告を発したわ。エレギア地方には1万年前の遺跡が、ほぼ完全な形で遺っているの。ケレヴィルで押さえていたけど、奴らは遺跡に侵入して、ケレヴィルの職員を惨殺して乗っ取ったみたいね」
「――泥棒に殺人、ますます世間に顔向けできない行為をやらかしておりますな」
やや呆れ口調で、ブルーベル将軍は小さく頭を振った。それにリュリュは頷く。
「ここまでくると、もはや弁明の余地なしね。召喚士に瀕死の大怪我を負わせた挙句、皇国に逆らい、皇国管理の遺跡を占拠。――けど、エレギア地方の遺跡を使われるのは厄介よ」
リュリュは背後のモニターに、遺跡の一部を映し出す。諸将の視線がモニターに集中した。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる