片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
345 / 882
それぞれの悪巧み編

episode326

しおりを挟む
 総帥本部へ出仕したベルトルドは、デスクに突っ伏してメソメソとため息を漏らしていた。

「ナマコ……ナマコ……」

 呟くたびに涙がこぼれる。

 いずれキュッリッキを悦ばせることになるだろう暴れん棒を、ナマコと勘違いするとは。ベルトルドの心も股間も、シクシク悲しみに暮れた。

 そこへリュリュが執務室に入ってきた。

「おはようベル、なぁによ、激しく落ち込んじゃって」

 顔をのろりと上げると、なよっと特徴的な立ち方をするリュリュと視線がぶつかった。

「なんだ、リューか」

「なにその素っ気ない反応は。あーたの代わりに宰相府での仕事を、ぜーんぶ終わらせてきたのよっ!」

「ご苦労…」

「ンもぉ、元気ないじゃなぁ~い。アルカネットにでもいじめられたの?」

「そんなのしょっちゅうだ…」

「だったらなんなのよっ、今日も激しく忙しいのよ」

 今朝の出来事を涙ながらに語ると、リュリュは垂れ目をめいっぱい開き、そしてケタケタと笑いだした。

「ばっかねぇ、男も知らないような小娘の言うことに、何ホンキで傷ついてるのよ。そうねえ、良い機会だから一緒に風呂にでも入って、男のカラダをすみずみまで教えてあげたら?」

「それは名案だな!」

 ガバッと身を起こし、鼻の穴を膨らませた。一瞬で桃色妄想が脳内に広がる。

「もっともぉ、アルカネットが黙っていないでしょうけれど」

「殺される…」

 再びベルトルドはデスクに撃沈する。妄想も霞んで消えた。

「19歳にもなって男の裸も見たことないなんて、随分珍しいわね。傭兵たちと一緒に居れば、イヤでも目にする機会はあったでしょうに」

 リュリュは書類を整理しながら不思議そうな顔をする。それについてベルトルドは何も言わなかった。おそらくフェンリルが、そのあたりはしっかりとガードしていたのだろうと想像していた。

 幼い頃から冷たい大人社会に放り込まれていた割に、知っていて当たり前のことが判らなかったり、珍しいことには詳しかったりするところがあるのだ。

「でも、あーたの暴れん棒をナマコって表現するナンて、面白い小娘ねえ」

 リュリュはニヤニヤとベルトルドを見ると、ベルトルドは憮然と鼻息を吐きだした。

「この戦争が終わったら、次はナマコの駆逐に励むかな、俺は…」



 会議の時間が迫り、ベルトルドとリュリュは執務室を出る。

「いよいよ、大芝居の始まりネ」

「ああ。大根役者だと騙せないからな、正念場だ」

 ベルトルドは自信たっぷりに笑みを深めた。

「戦争すること自体は変更なくても、これだけの戦力を投入するんだから、それなりの説得を持たせることが重要だわ。とくに大将たちには」

「コチンカチンの石頭どもを、やる気満々にさせるのは大変だ。まあ、ぎゃーすか文句を言ってきても実行するがな」

「そうねん」

 大会議室前に到着すると、左右に控える衛兵が敬礼し、恭しく扉を開く。

 ベルトルドの到着を知らせる衛兵たちの声に、大会議室に居た全ての人々が立ち上がり、敬礼をしてベルトルドを迎えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。

恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。 ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。 クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。

処理中です...