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それぞれの悪巧み編
episode322
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目を覚ますと両隣に誰の気配もない。
キュッリッキは小さくあくびをすると、ゴロリと寝返りをうって、また小さくあくびをする。
フェンリルの寝ているソファのそばにあるテーブルに置かれた時計を見ると、ちょうど針は午前6時を示していた。
目をこすりながら起き上がってベッドから這い出ると、窓に駆け寄ってカーテンを丁寧に開けていく。
空はやや曇天で、薄い灰色の雲と陽光を照り返したような、白い雲が折り重なるように空を覆っていた。
雨は降りそうにもなかったが、朝くらいは眩しい陽光を拝みたいと、キュッリッキは残念そうに唇を尖らせた。
部屋に隣接した衣裳部屋へ駆け込むと、膨大な衣服の中から、一人でも着用が可能なシンプルなワンピースをハンガーからはずす。
「これは室内用、これは外出用、これはパーティ用、これは……」
以前リトヴァに説明してもらったが、キュッリッキには覚えられない。
自分のために用意されたものなのだが、どう見ても他人の持ち物にしか見えないのである。ここに用意されたのは全て夏物。どう考えても夏のあいだに着れる量じゃない。それこそ一日10回は着替えないと、全部に袖を通すのは無理だった。
ベルトルドの趣味、とアルカネットに念押しされた寝間着にしているベビードールを脱ぎ、キュッリッキは下着の棚をゴソゴソと漁る。
今までサイズがなく着用経験がなかったが、誕生日祝いにアルカネットから大量のブラジャーなどの、ランジェリーセットをプレゼントされている。
実はキュッリッキはブラジャーにとっても憧れていた。ずっとずっと欲しくて欲しくてたまらなかった。それをアルカネットに言ったことがあったので、覚えていてくれたのだろう。
自他ともに認めるまな板胸、多少膨らみはあるものの、ブラジャーをつけるほどでもなくサイズもない。しかしプレゼントしてもらったブラジャーは、完璧にキュッリッキの胸にフィットし、カップは余らず綺麗なラインを作り出していた。
キュッリッキのために作らせた特注品だということだが、何故サイズが正確に判ったんだろう、と疑問に思うことは時々ある。まさか寝ているあいだに身体中を触られていたなどと思いもよらないだけに、「アルカネットさんってすごいな~」とキュッリッキは心底感心していた。
水色のレースのランジェリーの上下とキャミソールタイプのワンピースを持って、部屋に備え付けの浴室に入る。
頭と髪と身体を丁寧に洗いシャワーで流すと、湯船には浸からずに出て、身体を拭いて歯を磨き、ドライヤーで髪をよく乾かして服を着た。
ベルトルド邸にきて初めて使ったドライヤー。熱風が吹き出して髪の毛を素早く乾かしてくれる。電力を利用した便利な機械品だ。
電力というものは、庶民たちの生活の中にあまり多くは普及していない。ハワドウレ皇国の中でも、ハーメンリンナ以外では軍や行政機関、公立病院、公共機関などに集中する。何故なのかはキュッリッキも知らなかったが、電力や機械製品がなくても人々は普通に生活できるのでとくに困ることはなかった。「こういうのがあると便利だね」程度のものである。
今では怪我の影響もなく自分で出来るようになったので、メイド総出の身支度劇はなくなった。リトヴァやアリサなどは、支度を手伝うのは当然だと言う。しかし庶民出身のキュッリッキは、動けるようになったから自分でやりたいと断っていた。
キュッリッキは小さくあくびをすると、ゴロリと寝返りをうって、また小さくあくびをする。
フェンリルの寝ているソファのそばにあるテーブルに置かれた時計を見ると、ちょうど針は午前6時を示していた。
目をこすりながら起き上がってベッドから這い出ると、窓に駆け寄ってカーテンを丁寧に開けていく。
空はやや曇天で、薄い灰色の雲と陽光を照り返したような、白い雲が折り重なるように空を覆っていた。
雨は降りそうにもなかったが、朝くらいは眩しい陽光を拝みたいと、キュッリッキは残念そうに唇を尖らせた。
部屋に隣接した衣裳部屋へ駆け込むと、膨大な衣服の中から、一人でも着用が可能なシンプルなワンピースをハンガーからはずす。
「これは室内用、これは外出用、これはパーティ用、これは……」
以前リトヴァに説明してもらったが、キュッリッキには覚えられない。
自分のために用意されたものなのだが、どう見ても他人の持ち物にしか見えないのである。ここに用意されたのは全て夏物。どう考えても夏のあいだに着れる量じゃない。それこそ一日10回は着替えないと、全部に袖を通すのは無理だった。
ベルトルドの趣味、とアルカネットに念押しされた寝間着にしているベビードールを脱ぎ、キュッリッキは下着の棚をゴソゴソと漁る。
今までサイズがなく着用経験がなかったが、誕生日祝いにアルカネットから大量のブラジャーなどの、ランジェリーセットをプレゼントされている。
実はキュッリッキはブラジャーにとっても憧れていた。ずっとずっと欲しくて欲しくてたまらなかった。それをアルカネットに言ったことがあったので、覚えていてくれたのだろう。
自他ともに認めるまな板胸、多少膨らみはあるものの、ブラジャーをつけるほどでもなくサイズもない。しかしプレゼントしてもらったブラジャーは、完璧にキュッリッキの胸にフィットし、カップは余らず綺麗なラインを作り出していた。
キュッリッキのために作らせた特注品だということだが、何故サイズが正確に判ったんだろう、と疑問に思うことは時々ある。まさか寝ているあいだに身体中を触られていたなどと思いもよらないだけに、「アルカネットさんってすごいな~」とキュッリッキは心底感心していた。
水色のレースのランジェリーの上下とキャミソールタイプのワンピースを持って、部屋に備え付けの浴室に入る。
頭と髪と身体を丁寧に洗いシャワーで流すと、湯船には浸からずに出て、身体を拭いて歯を磨き、ドライヤーで髪をよく乾かして服を着た。
ベルトルド邸にきて初めて使ったドライヤー。熱風が吹き出して髪の毛を素早く乾かしてくれる。電力を利用した便利な機械品だ。
電力というものは、庶民たちの生活の中にあまり多くは普及していない。ハワドウレ皇国の中でも、ハーメンリンナ以外では軍や行政機関、公立病院、公共機関などに集中する。何故なのかはキュッリッキも知らなかったが、電力や機械製品がなくても人々は普通に生活できるのでとくに困ることはなかった。「こういうのがあると便利だね」程度のものである。
今では怪我の影響もなく自分で出来るようになったので、メイド総出の身支度劇はなくなった。リトヴァやアリサなどは、支度を手伝うのは当然だと言う。しかし庶民出身のキュッリッキは、動けるようになったから自分でやりたいと断っていた。
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