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それぞれの悪巧み編
episode319
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このところ総帥本部で執務をとっていたベルトルドは、久しぶりに宰相府に戻っていた。
「そろそろアルとエロメガネが来る頃ね。ランチにしましょ」
「おう」
最後の書類にサインをしてリュリュに手渡し、ベルトルドは大きく伸びをした。
「式典も近いし、政務と軍務の二足のわらじ状態は疲れるなあ」
「役員会はどうにかなるけど、その二つは疎かにできないしねえ」
リュリュは書類をトントンッと整え直し、自分のデスクの上に置いた。そこへ衛兵がアルカネットとシ・アティウスの来訪を告げた。
応接ソファセットの更に奥に置かれた丸いテーブルに、アルカネットとシ・アティウスがつく。
「宰相府のランチは久しぶりですね。とても美味しいので好きなんですよ、ここの食事は」
アルカネットにしては珍しく、ウキウキ感を漂わせている。
「ほほう。俺は初めてかもしれない」
メガネをクイッと上に押し上げ、シ・アティウスは好奇心を口元にはいた。
「宰相府付きの料理人は、ダブルSランクだからな。ウチの料理人の飯も好きだが、ここのも悪くない」
ベルトルドはアルカネットの隣に座り、手袋を脱いだ。
「だが総帥本部の料理は不味い。あそこの料理人は入れ替えが必要だなあ。俺が総帥になったことだし、人事に口を挟んでおくか」
「アタシはそこまで不味いとは思わないけど、あーたたちが日頃から贅沢してる証拠だわね」
「美味しい料理は正義だからな」
「その点は同感です」
ベルトルドとアルカネットに、リュリュは、
「庶民の味覚でごめんあそばせ」
と、ツンっとそっぽを向いた。
そこに下官たちが美味しい匂いと料理を運んできて、手早く皿を置いていく。
「今日はビーフシチューね」
「おお…肉の塊が、大きいな…」
シ・アティウスが感慨深げに呟くと、リュリュは垂れ目を細めて「そう…」とだけ言った。
下官たちが退室すると、じっとビーフシチューを見ていたベルトルドは、おもむろにスプーンを掴んで、ズボッと音がしそうな仕草で皿の中に入れる。
「こら、ベル!」
それを見ていたリュリュが、素っ頓狂な声を上げた。
ベルトルドは子供のようにヒュッと首をすくめ、拗ねた顔をリュリュに向ける。イタズラがバレた顔のようだ。
「だって、ニンジン入ってるんだもん…」
シチューの中に入っていたニンジンを、アルカネットの皿の中に入れたのだ。
「好き嫌いしないで食べなきゃダメでしょ!」
「俺はニンジン嫌いなんだ! 火が通ると甘くなるし臭いが苦手だ。でもピーマンと玉ねぎは食べれるぞ」
『泣く子も黙らせる副宰相』と通り名を持つベルトルドは、得意げな顔になり、何故か誇らしげに威張っている。
「アルもなんか言ってやんなさいよ!」
アルカネットは複雑な表情をして、ベルトルドが入れてきたニンジンをスプーンで掬う。
「……私はニンジン大好きなんです」
そう言って、ちょっと嬉しそうな顔になり、パクッと食べてしまった。
「あーたたち…」
盛大な呆れ顔になり、リュリュは疲れたように肩を落とした。
(これが、41歳のオッサンたちのランチ光景…)
興味深そうに黙って見ていたシ・アティウスは、無言で肩を震わせていたが、堪えきれずに「ブフッ」と吹き出してしまった。
「そろそろアルとエロメガネが来る頃ね。ランチにしましょ」
「おう」
最後の書類にサインをしてリュリュに手渡し、ベルトルドは大きく伸びをした。
「式典も近いし、政務と軍務の二足のわらじ状態は疲れるなあ」
「役員会はどうにかなるけど、その二つは疎かにできないしねえ」
リュリュは書類をトントンッと整え直し、自分のデスクの上に置いた。そこへ衛兵がアルカネットとシ・アティウスの来訪を告げた。
応接ソファセットの更に奥に置かれた丸いテーブルに、アルカネットとシ・アティウスがつく。
「宰相府のランチは久しぶりですね。とても美味しいので好きなんですよ、ここの食事は」
アルカネットにしては珍しく、ウキウキ感を漂わせている。
「ほほう。俺は初めてかもしれない」
メガネをクイッと上に押し上げ、シ・アティウスは好奇心を口元にはいた。
「宰相府付きの料理人は、ダブルSランクだからな。ウチの料理人の飯も好きだが、ここのも悪くない」
ベルトルドはアルカネットの隣に座り、手袋を脱いだ。
「だが総帥本部の料理は不味い。あそこの料理人は入れ替えが必要だなあ。俺が総帥になったことだし、人事に口を挟んでおくか」
「アタシはそこまで不味いとは思わないけど、あーたたちが日頃から贅沢してる証拠だわね」
「美味しい料理は正義だからな」
「その点は同感です」
ベルトルドとアルカネットに、リュリュは、
「庶民の味覚でごめんあそばせ」
と、ツンっとそっぽを向いた。
そこに下官たちが美味しい匂いと料理を運んできて、手早く皿を置いていく。
「今日はビーフシチューね」
「おお…肉の塊が、大きいな…」
シ・アティウスが感慨深げに呟くと、リュリュは垂れ目を細めて「そう…」とだけ言った。
下官たちが退室すると、じっとビーフシチューを見ていたベルトルドは、おもむろにスプーンを掴んで、ズボッと音がしそうな仕草で皿の中に入れる。
「こら、ベル!」
それを見ていたリュリュが、素っ頓狂な声を上げた。
ベルトルドは子供のようにヒュッと首をすくめ、拗ねた顔をリュリュに向ける。イタズラがバレた顔のようだ。
「だって、ニンジン入ってるんだもん…」
シチューの中に入っていたニンジンを、アルカネットの皿の中に入れたのだ。
「好き嫌いしないで食べなきゃダメでしょ!」
「俺はニンジン嫌いなんだ! 火が通ると甘くなるし臭いが苦手だ。でもピーマンと玉ねぎは食べれるぞ」
『泣く子も黙らせる副宰相』と通り名を持つベルトルドは、得意げな顔になり、何故か誇らしげに威張っている。
「アルもなんか言ってやんなさいよ!」
アルカネットは複雑な表情をして、ベルトルドが入れてきたニンジンをスプーンで掬う。
「……私はニンジン大好きなんです」
そう言って、ちょっと嬉しそうな顔になり、パクッと食べてしまった。
「あーたたち…」
盛大な呆れ顔になり、リュリュは疲れたように肩を落とした。
(これが、41歳のオッサンたちのランチ光景…)
興味深そうに黙って見ていたシ・アティウスは、無言で肩を震わせていたが、堪えきれずに「ブフッ」と吹き出してしまった。
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