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それぞれの悪巧み編
episode317
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青ざめた表情をした幾人かと視線が交わったが、サッと一方的にそらされ、ベルトルドは面白そうに目を見開く。
「こいつら、何を落ち込んでいるのかな?」
キュッリッキに優しく問いかけると、
「ちょうど、コッコラ王国のお話しを聞いてたの」
「ほほう」
ベルトルドはニヤリと口の端をあげると、キュッリッキを抱き上げた。いきなりのことで、キュッリッキは慌ててベルトルドの首に両腕を回してしがみついた。
「そうか。3年前の、あの、コッコラ王国の反乱のことか」
ことさら嫌味ったらしく「あの」を強調して言うと、ライオン傭兵団の顔が、ますます青ざめていく。
思い出したくない、思い出させないで、お願いっ! とでも言いたげなオーラが天井に垂れこめている。
「胃がキリキリしてきたっ」
ザカリーは胃の辺りを押さえ、ソファに沈み込んだ。マリオンもルーファスも、無言でその場にしゃがみこんでいる。
彼らの様子があまりにも面白くて、ベルトルドは顔をニヤニヤさせていた。
「こいつらはな、今でこそ最強などとおだて上げられて調子にのっているが、あの頃はもう、それはそれは無様を絵に描いたような、恥ずかしい腰抜けっぷりだったぞ」
ライオン傭兵団はますます暗雲を濃くしていった。そのうち本当に雨でも降ってきそうだ。
「そんなに酷かったの?」
「ああ、哀れなほど酷かったぞ」
信じられない、といったキュッリッキの顔に、ベルトルドはここぞとばかりに頬ずりする。マシュマロ肌の感触に、ベルトルドは鼻を膨らませ大満足だ。
「ただいま戻りました」
廊下からアルカネットの声が聞こえ、出迎えたセヴェリやリトヴァの声がする。
アルカネットの声にも、一同ビクリと身体を反応させた。
(なんか、よっぽど激しいトラウマになっているんだね……)
みんなの可哀想な様子に、キュッリッキは憐れむ気持ちが芽生えてきた。よっぽど深く心に刻み込まれているのだろう。今の彼らには、自信の二文字はどこにもない。
彼らはとても強いと、心から思う。しかしその彼ら以上に、圧倒するほど強いベルトルドとアルカネットの戦いぶりを、キュッリッキは見てみたいと思っていた。一体どんな凄い戦闘なんだろう。興味は尽きない。
「おや、みなさんこちらにいらしたんですか。ただいま、リッキーさん」
「おかえりなさい」
いつもの可愛らしい笑顔のキュッリッキに、アルカネットは顔を曇らせ目を伏せた。
「昼間は本当に済みませんでした。身体の方は、もう大丈夫ですか? 起きていて辛くありませんか?」
「うん。もう平気なの」
「大事にならなくて、本当に良かった。リッキーさんの顔を見るまで、気が気じゃなかったです、今日はもう」
「心配かけてごめんなさい、アルカネットさん」
「いいえ、いいえ、あなたが謝る必要なんてないのですよ」
今にも倒れそうな顔になって、アルカネットは頭を振った。
「ちょうどいいところに帰ってきた。懐かしい話で盛り上がっていたようだぞ」
「懐かしい?」
「コッコラ王国のお話し」
ニタニタ顔のベルトルドと、苦笑を浮かべたキュッリッキの顔を見て、アルカネットは少し間を置いて「ああ」と頷いた。
スッと天使のような微笑みになって、さらりとトドメの一言を突き刺す。
「彼らの無様な顛末ですね」
「のおおおおおおおおおおっ!」
異口同音に地の底から湧き上がるような悲鳴が、スモーキングルームにこだまする。
ベルトルドとアルカネットの爆笑をバックミュージックに、天下のライオン傭兵団は力なく床に沈んでいった。
「こいつら、何を落ち込んでいるのかな?」
キュッリッキに優しく問いかけると、
「ちょうど、コッコラ王国のお話しを聞いてたの」
「ほほう」
ベルトルドはニヤリと口の端をあげると、キュッリッキを抱き上げた。いきなりのことで、キュッリッキは慌ててベルトルドの首に両腕を回してしがみついた。
「そうか。3年前の、あの、コッコラ王国の反乱のことか」
ことさら嫌味ったらしく「あの」を強調して言うと、ライオン傭兵団の顔が、ますます青ざめていく。
思い出したくない、思い出させないで、お願いっ! とでも言いたげなオーラが天井に垂れこめている。
「胃がキリキリしてきたっ」
ザカリーは胃の辺りを押さえ、ソファに沈み込んだ。マリオンもルーファスも、無言でその場にしゃがみこんでいる。
彼らの様子があまりにも面白くて、ベルトルドは顔をニヤニヤさせていた。
「こいつらはな、今でこそ最強などとおだて上げられて調子にのっているが、あの頃はもう、それはそれは無様を絵に描いたような、恥ずかしい腰抜けっぷりだったぞ」
ライオン傭兵団はますます暗雲を濃くしていった。そのうち本当に雨でも降ってきそうだ。
「そんなに酷かったの?」
「ああ、哀れなほど酷かったぞ」
信じられない、といったキュッリッキの顔に、ベルトルドはここぞとばかりに頬ずりする。マシュマロ肌の感触に、ベルトルドは鼻を膨らませ大満足だ。
「ただいま戻りました」
廊下からアルカネットの声が聞こえ、出迎えたセヴェリやリトヴァの声がする。
アルカネットの声にも、一同ビクリと身体を反応させた。
(なんか、よっぽど激しいトラウマになっているんだね……)
みんなの可哀想な様子に、キュッリッキは憐れむ気持ちが芽生えてきた。よっぽど深く心に刻み込まれているのだろう。今の彼らには、自信の二文字はどこにもない。
彼らはとても強いと、心から思う。しかしその彼ら以上に、圧倒するほど強いベルトルドとアルカネットの戦いぶりを、キュッリッキは見てみたいと思っていた。一体どんな凄い戦闘なんだろう。興味は尽きない。
「おや、みなさんこちらにいらしたんですか。ただいま、リッキーさん」
「おかえりなさい」
いつもの可愛らしい笑顔のキュッリッキに、アルカネットは顔を曇らせ目を伏せた。
「昼間は本当に済みませんでした。身体の方は、もう大丈夫ですか? 起きていて辛くありませんか?」
「うん。もう平気なの」
「大事にならなくて、本当に良かった。リッキーさんの顔を見るまで、気が気じゃなかったです、今日はもう」
「心配かけてごめんなさい、アルカネットさん」
「いいえ、いいえ、あなたが謝る必要なんてないのですよ」
今にも倒れそうな顔になって、アルカネットは頭を振った。
「ちょうどいいところに帰ってきた。懐かしい話で盛り上がっていたようだぞ」
「懐かしい?」
「コッコラ王国のお話し」
ニタニタ顔のベルトルドと、苦笑を浮かべたキュッリッキの顔を見て、アルカネットは少し間を置いて「ああ」と頷いた。
スッと天使のような微笑みになって、さらりとトドメの一言を突き刺す。
「彼らの無様な顛末ですね」
「のおおおおおおおおおおっ!」
異口同音に地の底から湧き上がるような悲鳴が、スモーキングルームにこだまする。
ベルトルドとアルカネットの爆笑をバックミュージックに、天下のライオン傭兵団は力なく床に沈んでいった。
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