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それぞれの悪巧み編
episode313
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部屋に陰りが射し始めた頃、キュッリッキは目を覚ました。
「気がつかれましたかな」
男の声がして、キュッリッキはゆっくり首を巡らせる。
「マウノさん」
「気分は如何ですかな?」
ベルトルド邸に住み込みで常駐しているホームドクターのマウノは、柳のような眉をぴくぴくとさせる。
「うん、何ともないよ。もう平気」
「それは良かったです」
もうすぐ70歳になるマウノは、猫背になった背を揺すりながら笑った。
「あ、あのね、セヴェリさんを呼んで欲しいの。お願いしてもいい?」
「はい、承知しました」
マウノは立ち上がると、のそのそとした歩調で部屋を出ていった。その様子を目で追いながら、キュッリッキは身体を起こす。
薄暗くなってくる部屋をぼんやりと見つめ、セヴェリが来るのを待った。
マウノが出て暫く経って、セヴェリが部屋を訪れた。
「お加減は、もう宜しいですか?」
「うん」
「それはようございました」
にっこりと笑むセヴェリに、キュッリッキは頭を下げる。
「今日は勝手なことして、ごめんなさいでした!」
「おやおや」
セヴェリは僅かに驚いて目を見張る。
「アタシがセヴェリさんの案内を断って、勝手に歩き回っちゃったから。そのせいでセヴェリさんが、ベルトルドさんに怒られちゃったらどうしよう…。セヴェリさんが悪いわけじゃないのに。アタシが全部悪いの」
俯いたまま反省を述べるキュッリッキに、セヴェリはゆっくり首を横に振る。
「お嬢様は悪くありません。そんなにご自分を責めてはいけませんよ」
「ううん、アタシ悪い子なの。自分のことばっかり考えてて、セヴェリさんに迷惑かけちゃって」
「いいえ。お嬢様がお一人で行かれようとしていても、お側を離れず着いていけばよかったのです。それなのに、お嬢様をお一人にしたのは、わたくしの責任でございます。お叱りを受けて当然なのは、わたくしのほうでございますよ」
「そんなことない…。アタシが悪いんだもん」
何を言ってもキュッリッキは自分を責めるだろう様子に、セヴェリは笑いかける。
「では、お互い様、で如何でございましょう?」
「お互い様?」
涙ぐむ顔をあげて、キュッリッキはぽつりと呟く。
「はい。お嬢様はお一人で行動なさいました。そして、わたくしはそれを許してしまいました。どちらも悪くて、反省ということですね」
キュッリッキは暫しセヴェリの顔を見つめ、そして俯く。逡巡するように、膝の上で組んだ両手を握り直していたが、やがて顔を上げる。
「セヴェリさんがそう言ってくれるなら。でも、本当にごめんなさいなの」
「はい。では、お互い様ということで」
ようやくキュッリッキの顔に笑顔が広がって、セヴェリもホッとした。
「お嬢様」
「うん?」
「旦那様方や、ライオン傭兵団の皆様にご相談しづらい、打ち明けづらい悩みなどありましたら、わたくしめやリトヴァ、アリサなどにもお話ください。我々は使用人風情で憚り多きことながら、出来る範囲でお力になりとうございます」
恭しく頭を下げるセヴェリの言葉に、キュッリッキの心は温かくなっていった。
「ありがとう、セヴェリさん」
「それではわたくしはこれで。――ああ、お茶でも召し上がりますか?」
「ううん、ライオンのみんなが帰ってくるまでゴロゴロしてるの」
「判りました。皆様がお戻りになられましたら、おしらせしに参ります」
「うん。お願いします」
セヴェリとも心が近くなった気がして、キュッリッキは嬉しくなった。
「気がつかれましたかな」
男の声がして、キュッリッキはゆっくり首を巡らせる。
「マウノさん」
「気分は如何ですかな?」
ベルトルド邸に住み込みで常駐しているホームドクターのマウノは、柳のような眉をぴくぴくとさせる。
「うん、何ともないよ。もう平気」
「それは良かったです」
もうすぐ70歳になるマウノは、猫背になった背を揺すりながら笑った。
「あ、あのね、セヴェリさんを呼んで欲しいの。お願いしてもいい?」
「はい、承知しました」
マウノは立ち上がると、のそのそとした歩調で部屋を出ていった。その様子を目で追いながら、キュッリッキは身体を起こす。
薄暗くなってくる部屋をぼんやりと見つめ、セヴェリが来るのを待った。
マウノが出て暫く経って、セヴェリが部屋を訪れた。
「お加減は、もう宜しいですか?」
「うん」
「それはようございました」
にっこりと笑むセヴェリに、キュッリッキは頭を下げる。
「今日は勝手なことして、ごめんなさいでした!」
「おやおや」
セヴェリは僅かに驚いて目を見張る。
「アタシがセヴェリさんの案内を断って、勝手に歩き回っちゃったから。そのせいでセヴェリさんが、ベルトルドさんに怒られちゃったらどうしよう…。セヴェリさんが悪いわけじゃないのに。アタシが全部悪いの」
俯いたまま反省を述べるキュッリッキに、セヴェリはゆっくり首を横に振る。
「お嬢様は悪くありません。そんなにご自分を責めてはいけませんよ」
「ううん、アタシ悪い子なの。自分のことばっかり考えてて、セヴェリさんに迷惑かけちゃって」
「いいえ。お嬢様がお一人で行かれようとしていても、お側を離れず着いていけばよかったのです。それなのに、お嬢様をお一人にしたのは、わたくしの責任でございます。お叱りを受けて当然なのは、わたくしのほうでございますよ」
「そんなことない…。アタシが悪いんだもん」
何を言ってもキュッリッキは自分を責めるだろう様子に、セヴェリは笑いかける。
「では、お互い様、で如何でございましょう?」
「お互い様?」
涙ぐむ顔をあげて、キュッリッキはぽつりと呟く。
「はい。お嬢様はお一人で行動なさいました。そして、わたくしはそれを許してしまいました。どちらも悪くて、反省ということですね」
キュッリッキは暫しセヴェリの顔を見つめ、そして俯く。逡巡するように、膝の上で組んだ両手を握り直していたが、やがて顔を上げる。
「セヴェリさんがそう言ってくれるなら。でも、本当にごめんなさいなの」
「はい。では、お互い様ということで」
ようやくキュッリッキの顔に笑顔が広がって、セヴェリもホッとした。
「お嬢様」
「うん?」
「旦那様方や、ライオン傭兵団の皆様にご相談しづらい、打ち明けづらい悩みなどありましたら、わたくしめやリトヴァ、アリサなどにもお話ください。我々は使用人風情で憚り多きことながら、出来る範囲でお力になりとうございます」
恭しく頭を下げるセヴェリの言葉に、キュッリッキの心は温かくなっていった。
「ありがとう、セヴェリさん」
「それではわたくしはこれで。――ああ、お茶でも召し上がりますか?」
「ううん、ライオンのみんなが帰ってくるまでゴロゴロしてるの」
「判りました。皆様がお戻りになられましたら、おしらせしに参ります」
「うん。お願いします」
セヴェリとも心が近くなった気がして、キュッリッキは嬉しくなった。
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