片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
331 / 882
それぞれの悪巧み編

episode312

しおりを挟む
「いらっしゃいませ、リュリュ様。ヴィヒトリ先生は、もういらしております」

「あら、ベルが飛ばしてきたのね」

「左様でございます」

 出迎えた執事代理のセヴェリは、意識のないキュッリッキを見て、悲しげに眉を曇らせた。

「一緒にお出になったときは、はつらつと元気なご様子だったのに」

「大丈夫よ。ベルに叱られて気落ちしてたところに、アルカネットの怖い顔を見て驚いただけだから」

「おいたわしい…」

 キュッリッキの部屋へ案内をしながら、セヴェリはヤレヤレと首を振る。使用人の間でも、アルカネットの怖い側面は周知なのだ。

「ベルがちょっと叱りすぎたの。それに、悪いところを指摘されて、自分のためにしっかり叱ってもらうことに慣れてないのよ、このコ。これまでは一方的に喚かれただけだっただろうし。何だかんだ言っても、このコからしてみたら、ベルもアルも親代わりだもの」

「たしかに」

「それなのに恋人になるとか嫁にするとか、妄想膨らみすぎて困っちゃう。小娘もいい迷惑よね。あの2人が一番自覚がないンだから」

 部屋に着くと、セヴェリが椅子に座って待っていた。

「やほー、リュリュさん」

「お久しぶりね、ヴィヒトリちゃん」

 手を振るヴィヒトリに、リュリュはウインクする。

「なんか閣下の説明だと、イマイチよく判らないんだけどー。ちゃんと説明ヨロシク」

「しょうがないわねえ。よっぽど混乱の極みなのね、ベルもアルも」

 キュッリッキをそっと寝かせ、リュリュはため息をついた。

「勝手な行動をして、南区でうろうろしていたことを、ベルから叱られたのよ。それで反省して泣いちゃてったところに、アルカネットが来て激怒。ベルに突っかかっていって怖いアルカネットに。それを見て小娘はびっくりして、ひきつけを起こしちゃったそうよ」

「なるーほどー」

 ふむふむと頷きながら、ヴィヒトリは診察を開始した。

「まあ、ひきつけのほうは、あまり心配しなくて大丈夫。びっくりしすぎちゃっただけだね。ただ、体力がまだ回復したわけじゃないから、歩きすぎてかなり疲れてる」

 衣服を整え直してあげて、ヴィヒトリは身体を起こす。

「心配だなんだ言いながら、呼び出すのは酷いな。どうせ話でもするなら、屋敷ですればいいんだよね」

「まあ、そうなんだけど。さすがに機密的な話をするのに、屋敷ではまずくってよ」

「じゃあ、サイ《超能力》使って移動させてあげたら良かったんだよ。そしたら歩き回らせずに済んだんだ」

「転移もね、エグザイル・システムのように、多少なりとも身体に負担があるみたい。小娘の怪我を気遣ってのことだと思うわ」

「そかそか」

 ヴィヒトリはカルテにササッと書き込んだ。

「目が覚めるまで、屋敷在住のドクターをつけといて。何もなく普通に目を覚ませばもう安心。そして明日は家庭教師の授業はお休みさせること。退屈でもなんでも、部屋でゴロゴロしてるように言っといてね」

 控えていたセヴェリに向けて言うと、ヴィヒトリは鞄を手に取った。テーブルのそばの椅子に座っていたリュリュも立ち上がる。

「大事にならなくてよかったわ」

「うん。――あれだけの怪我をしたんだ、そんなすぐに調子が戻るわけがない」

「本当に、その通りよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

処理中です...