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それぞれの悪巧み編
episode312
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「いらっしゃいませ、リュリュ様。ヴィヒトリ先生は、もういらしております」
「あら、ベルが飛ばしてきたのね」
「左様でございます」
出迎えた執事代理のセヴェリは、意識のないキュッリッキを見て、悲しげに眉を曇らせた。
「一緒にお出になったときは、はつらつと元気なご様子だったのに」
「大丈夫よ。ベルに叱られて気落ちしてたところに、アルカネットの怖い顔を見て驚いただけだから」
「おいたわしい…」
キュッリッキの部屋へ案内をしながら、セヴェリはヤレヤレと首を振る。使用人の間でも、アルカネットの怖い側面は周知なのだ。
「ベルがちょっと叱りすぎたの。それに、悪いところを指摘されて、自分のためにしっかり叱ってもらうことに慣れてないのよ、このコ。これまでは一方的に喚かれただけだっただろうし。何だかんだ言っても、このコからしてみたら、ベルもアルも親代わりだもの」
「たしかに」
「それなのに恋人になるとか嫁にするとか、妄想膨らみすぎて困っちゃう。小娘もいい迷惑よね。あの2人が一番自覚がないンだから」
部屋に着くと、セヴェリが椅子に座って待っていた。
「やほー、リュリュさん」
「お久しぶりね、ヴィヒトリちゃん」
手を振るヴィヒトリに、リュリュはウインクする。
「なんか閣下の説明だと、イマイチよく判らないんだけどー。ちゃんと説明ヨロシク」
「しょうがないわねえ。よっぽど混乱の極みなのね、ベルもアルも」
キュッリッキをそっと寝かせ、リュリュはため息をついた。
「勝手な行動をして、南区でうろうろしていたことを、ベルから叱られたのよ。それで反省して泣いちゃてったところに、アルカネットが来て激怒。ベルに突っかかっていって怖いアルカネットに。それを見て小娘はびっくりして、ひきつけを起こしちゃったそうよ」
「なるーほどー」
ふむふむと頷きながら、ヴィヒトリは診察を開始した。
「まあ、ひきつけのほうは、あまり心配しなくて大丈夫。びっくりしすぎちゃっただけだね。ただ、体力がまだ回復したわけじゃないから、歩きすぎてかなり疲れてる」
衣服を整え直してあげて、ヴィヒトリは身体を起こす。
「心配だなんだ言いながら、呼び出すのは酷いな。どうせ話でもするなら、屋敷ですればいいんだよね」
「まあ、そうなんだけど。さすがに機密的な話をするのに、屋敷ではまずくってよ」
「じゃあ、サイ《超能力》使って移動させてあげたら良かったんだよ。そしたら歩き回らせずに済んだんだ」
「転移もね、エグザイル・システムのように、多少なりとも身体に負担があるみたい。小娘の怪我を気遣ってのことだと思うわ」
「そかそか」
ヴィヒトリはカルテにササッと書き込んだ。
「目が覚めるまで、屋敷在住のドクターをつけといて。何もなく普通に目を覚ませばもう安心。そして明日は家庭教師の授業はお休みさせること。退屈でもなんでも、部屋でゴロゴロしてるように言っといてね」
控えていたセヴェリに向けて言うと、ヴィヒトリは鞄を手に取った。テーブルのそばの椅子に座っていたリュリュも立ち上がる。
「大事にならなくてよかったわ」
「うん。――あれだけの怪我をしたんだ、そんなすぐに調子が戻るわけがない」
「本当に、その通りよ」
「あら、ベルが飛ばしてきたのね」
「左様でございます」
出迎えた執事代理のセヴェリは、意識のないキュッリッキを見て、悲しげに眉を曇らせた。
「一緒にお出になったときは、はつらつと元気なご様子だったのに」
「大丈夫よ。ベルに叱られて気落ちしてたところに、アルカネットの怖い顔を見て驚いただけだから」
「おいたわしい…」
キュッリッキの部屋へ案内をしながら、セヴェリはヤレヤレと首を振る。使用人の間でも、アルカネットの怖い側面は周知なのだ。
「ベルがちょっと叱りすぎたの。それに、悪いところを指摘されて、自分のためにしっかり叱ってもらうことに慣れてないのよ、このコ。これまでは一方的に喚かれただけだっただろうし。何だかんだ言っても、このコからしてみたら、ベルもアルも親代わりだもの」
「たしかに」
「それなのに恋人になるとか嫁にするとか、妄想膨らみすぎて困っちゃう。小娘もいい迷惑よね。あの2人が一番自覚がないンだから」
部屋に着くと、セヴェリが椅子に座って待っていた。
「やほー、リュリュさん」
「お久しぶりね、ヴィヒトリちゃん」
手を振るヴィヒトリに、リュリュはウインクする。
「なんか閣下の説明だと、イマイチよく判らないんだけどー。ちゃんと説明ヨロシク」
「しょうがないわねえ。よっぽど混乱の極みなのね、ベルもアルも」
キュッリッキをそっと寝かせ、リュリュはため息をついた。
「勝手な行動をして、南区でうろうろしていたことを、ベルから叱られたのよ。それで反省して泣いちゃてったところに、アルカネットが来て激怒。ベルに突っかかっていって怖いアルカネットに。それを見て小娘はびっくりして、ひきつけを起こしちゃったそうよ」
「なるーほどー」
ふむふむと頷きながら、ヴィヒトリは診察を開始した。
「まあ、ひきつけのほうは、あまり心配しなくて大丈夫。びっくりしすぎちゃっただけだね。ただ、体力がまだ回復したわけじゃないから、歩きすぎてかなり疲れてる」
衣服を整え直してあげて、ヴィヒトリは身体を起こす。
「心配だなんだ言いながら、呼び出すのは酷いな。どうせ話でもするなら、屋敷ですればいいんだよね」
「まあ、そうなんだけど。さすがに機密的な話をするのに、屋敷ではまずくってよ」
「じゃあ、サイ《超能力》使って移動させてあげたら良かったんだよ。そしたら歩き回らせずに済んだんだ」
「転移もね、エグザイル・システムのように、多少なりとも身体に負担があるみたい。小娘の怪我を気遣ってのことだと思うわ」
「そかそか」
ヴィヒトリはカルテにササッと書き込んだ。
「目が覚めるまで、屋敷在住のドクターをつけといて。何もなく普通に目を覚ませばもう安心。そして明日は家庭教師の授業はお休みさせること。退屈でもなんでも、部屋でゴロゴロしてるように言っといてね」
控えていたセヴェリに向けて言うと、ヴィヒトリは鞄を手に取った。テーブルのそばの椅子に座っていたリュリュも立ち上がる。
「大事にならなくてよかったわ」
「うん。――あれだけの怪我をしたんだ、そんなすぐに調子が戻るわけがない」
「本当に、その通りよ」
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