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それぞれの悪巧み編
episode310
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会見が終了してブルーベル将軍が退室したあと、キュッリッキはベルトルドから叱られた。
「いいかいリッキー、ハーメンリンナは外の街とは違って、区画によっては機密性の高い場所が多い。この南区は軍に関連する場所だから、一般人は殆ど寄り付かない。立ち入りを禁止しているわけではないが、この街に出入りする者なら心得ていることだ。だが、リッキーはまだこの街に不慣れだ。だからセヴェリに付いてきてもらっていたんだよ」
デスクの前に立って、おとなしく叱られているキュッリッキの表情が、段々申し訳なさを滲ませて、しょんぼりと俯いてきた。
「リッキーを一人にしたセヴェリが一番悪いが、リッキーの行動も軽率だぞ?」
「はい…」
「怪我もまだ全回復したわけじゃない、身体もまだ完全じゃない。途中で気分を悪くして倒れたら、困るのはリッキーだ。それは判るね?」
「うん」
キュッリッキは次第に、ポタポタと涙を流し始めた。
(どうしよう…アタシのせいで、セヴェリさんが怒られちゃう…)
そのことが一番辛かった。セヴェリに申し訳なさが募り、忸怩たる思いに、どんどん涙があふれる。
(ナルバ山でもアタシのせいでみんなに迷惑かけちゃったのに、また同じことしてる…アタシ、子供だ)
「ごめんなさい…ごめんなさい」
しゃくりながら詫びると、ついに泣き始めてしまった。
表情を固くして叱っていたベルトルドは、キュッリッキが泣き出した途端、狼狽えた表情を浮かべて立ち上がった。
「説教はもう終わりだ。リッキー、泣かないで」
慌ててデスクを回り込んで、泣きじゃくるキュッリッキを優しく抱きしめた。
「リッキーが大切なんだ。ああ、そんなに泣いては身体に障る…」
抱きしめる細い身体が頼りなく震えていて、脆いガラス細工のように儚く思えてしまう。泣かせるほど叱ったことを、激しく後悔した。
(真面目に説教などするんじゃなかったああああっ!!)
ベルトルドは心の中で火を噴いた。
(リッキーは賢い子だ! 軽く叱る程度でもちゃんと反省出来る子なのに、俺はマジモードで叱ってしまったっ!)
ブルーベル将軍にベッタリしていたことによる、嫉妬の感情に揺さぶられたことは否めない。あんなふうに、キュッリッキにベタベタ甘えてもらったことなどない。あれは本当に悔しかった。
「なにをしているんですか!!」
ブルーベル将軍と一旦退室していたアルカネットは、戻ってくると同時に声を張り上げた。
ベルトルドがキュッリッキを抱きしめていることも腹立たしいのに、そのキュッリッキが泣いているではないか。
2人のところにズンズンと大股で来ると、アルカネットはベルトルドの胸ぐらを思い切り掴んだ。
「何をした貴様!」
「うっ…」
アルカネットは怒りに満ちると、身体から冷気を吹き出す。室内が急激に冷え始め、泣いていたキュッリッキは寒くて顔を上げた。
(ブラック・アルカネットさんだ…)
いつも優しいアルカネットが豹変した様を、ブラック・アルカネットとキュッリッキは心の中で名付けている。
「こんなに泣かせやがって、どういうことだ!」
「……いや、ちょっとお説教を…」
「存在自体がゲスのクソ野郎の分際で、リッキーさんに説教なんて出来る身分か!」
すっかり別人に変わり、あまりの形相に驚きすぎて、キュッリッキはひきつけを起こしてしまった。
「ちょっとアルカネット落ち着け、リッキー、リッキー!」
「えっ、リッキーさん!?」
キュッリッキの様子にアルカネットは元に戻ると、ベルトルドと共に慌て始めた。
(元に戻った…。…なんだか、疲れちゃったの…)
心の中でぽつりと呟いて、キュッリッキは意識を手放した。
「いいかいリッキー、ハーメンリンナは外の街とは違って、区画によっては機密性の高い場所が多い。この南区は軍に関連する場所だから、一般人は殆ど寄り付かない。立ち入りを禁止しているわけではないが、この街に出入りする者なら心得ていることだ。だが、リッキーはまだこの街に不慣れだ。だからセヴェリに付いてきてもらっていたんだよ」
デスクの前に立って、おとなしく叱られているキュッリッキの表情が、段々申し訳なさを滲ませて、しょんぼりと俯いてきた。
「リッキーを一人にしたセヴェリが一番悪いが、リッキーの行動も軽率だぞ?」
「はい…」
「怪我もまだ全回復したわけじゃない、身体もまだ完全じゃない。途中で気分を悪くして倒れたら、困るのはリッキーだ。それは判るね?」
「うん」
キュッリッキは次第に、ポタポタと涙を流し始めた。
(どうしよう…アタシのせいで、セヴェリさんが怒られちゃう…)
そのことが一番辛かった。セヴェリに申し訳なさが募り、忸怩たる思いに、どんどん涙があふれる。
(ナルバ山でもアタシのせいでみんなに迷惑かけちゃったのに、また同じことしてる…アタシ、子供だ)
「ごめんなさい…ごめんなさい」
しゃくりながら詫びると、ついに泣き始めてしまった。
表情を固くして叱っていたベルトルドは、キュッリッキが泣き出した途端、狼狽えた表情を浮かべて立ち上がった。
「説教はもう終わりだ。リッキー、泣かないで」
慌ててデスクを回り込んで、泣きじゃくるキュッリッキを優しく抱きしめた。
「リッキーが大切なんだ。ああ、そんなに泣いては身体に障る…」
抱きしめる細い身体が頼りなく震えていて、脆いガラス細工のように儚く思えてしまう。泣かせるほど叱ったことを、激しく後悔した。
(真面目に説教などするんじゃなかったああああっ!!)
ベルトルドは心の中で火を噴いた。
(リッキーは賢い子だ! 軽く叱る程度でもちゃんと反省出来る子なのに、俺はマジモードで叱ってしまったっ!)
ブルーベル将軍にベッタリしていたことによる、嫉妬の感情に揺さぶられたことは否めない。あんなふうに、キュッリッキにベタベタ甘えてもらったことなどない。あれは本当に悔しかった。
「なにをしているんですか!!」
ブルーベル将軍と一旦退室していたアルカネットは、戻ってくると同時に声を張り上げた。
ベルトルドがキュッリッキを抱きしめていることも腹立たしいのに、そのキュッリッキが泣いているではないか。
2人のところにズンズンと大股で来ると、アルカネットはベルトルドの胸ぐらを思い切り掴んだ。
「何をした貴様!」
「うっ…」
アルカネットは怒りに満ちると、身体から冷気を吹き出す。室内が急激に冷え始め、泣いていたキュッリッキは寒くて顔を上げた。
(ブラック・アルカネットさんだ…)
いつも優しいアルカネットが豹変した様を、ブラック・アルカネットとキュッリッキは心の中で名付けている。
「こんなに泣かせやがって、どういうことだ!」
「……いや、ちょっとお説教を…」
「存在自体がゲスのクソ野郎の分際で、リッキーさんに説教なんて出来る身分か!」
すっかり別人に変わり、あまりの形相に驚きすぎて、キュッリッキはひきつけを起こしてしまった。
「ちょっとアルカネット落ち着け、リッキー、リッキー!」
「えっ、リッキーさん!?」
キュッリッキの様子にアルカネットは元に戻ると、ベルトルドと共に慌て始めた。
(元に戻った…。…なんだか、疲れちゃったの…)
心の中でぽつりと呟いて、キュッリッキは意識を手放した。
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