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それぞれの悪巧み編
episode308
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ブルーベル将軍は真っ白な毛に覆われた、クマのトゥーリ族である。
身長は2メートルを有に越し、がっしりと筋肉質の体躯は圧倒的で、しかしシロクマ独特の愛らしい顔つきとつぶらな瞳が、どこか温厚そうな印象を与えている。それが軍服を着ているのだから、カッコイイというより愛嬌たっぷりだった。
キュッリッキはブルーベル将軍の首に両腕を回してしっかりと抱きつき、ふかふかする毛に気持ちよさそうに頬を埋めていた。
やがて視界にベルトルドが見えると、
「あ、ベルトルドさん」
そう素っ気なく言っただけで、ブルーベル将軍から離れようともしない。
その薄すぎる反応で我を取り戻したベルトルドは、椅子から腰を浮かせて腕を差し出した。
「これは将軍、大変失礼しました。リッキー、こっちにおいで」
差し出されたベルトルドの手をちらりと見ると、「いやっ」と冷たくそっぽを向いてしまった。
「リッキーさん、こちらはブルーベル将軍です。失礼の無いよう降りてください」
アルカネットも手を差し出すが、キュッリッキは頑なに拒む。相手がどんなに偉かろうと、シロクマは可愛いのだ。
「まあまあお二方とも、ワシは一向に構いませんよ。こんなに可愛らしいお嬢さんに好かれるのは、光栄の極みです」
ブルーベル将軍はつぶらな瞳を細めて、ホッホッホッと穏やかに笑った。
キュッリッキはトイレで用を済ませ外に出てくると、廊下の向こうへ消えていくブルーベル将軍の後ろ姿を見つけた。興味が急に一気に湧いて、アルカネットに何も言わず慌てて追いかけた。
追いついてみれば、それは軍服を着た大きなシロクマ。歩くでっかなぬいぐるみを見つけた気分になったキュッリッキは、大喜びのあまり相手が誰であろうと構わず飛びついて今に至る。
経緯はどうあれ、物怖じせずぬいぐるみ扱いするキュッリッキに、ベルトルドとアルカネットは顔を合わせると、揃って肩を落とした。
「さて、ご要件はなんですかな。こちらのお嬢さんも同席していて大丈夫ですか?」
「ああ……ええ、彼女にも関係のあることなので」
キュッリッキを引き剥がすことは諦めて、ベルトルドは手振りでブルーベル将軍にソファをすすめる。アルカネットはデスクとソファの間に控えた。
ブルーベル将軍は小さく頷くと、デスクの前に置かれた応接ソファに座り、キュッリッキとフェンリルを膝の上に座らせた。
「随分軽いですね、お嬢さんはアイオン族かな?」
その言葉に、キュッリッキの身体がビクッと震えた。今までにこやかだった表情がスッと潜み、強ばった表情がありありと浮かぶ。
ベルトルドとアルカネットも小さく息を詰めたが、ブルーベル将軍はその空気を感じ、相好を崩して笑った。
「あの気位の高いアイオン族が、トゥーリ族のワシになついてくるなどありえませんな。お嬢さんはいわゆる”だいえっと”なるものをしていて軽いのでしょう」
「彼女は食がとても細くて、困っております」
アルカネットが応じると、ブルーベル将軍は「それはいけませんな」と声を上げて笑った。
不安そうに見上げてくるキュッリッキに、ブルーベル将軍は小さくウインクした。察してくれたその様子にキュッリッキは小さく微笑むと、安堵して肩の力を抜いた。
身長は2メートルを有に越し、がっしりと筋肉質の体躯は圧倒的で、しかしシロクマ独特の愛らしい顔つきとつぶらな瞳が、どこか温厚そうな印象を与えている。それが軍服を着ているのだから、カッコイイというより愛嬌たっぷりだった。
キュッリッキはブルーベル将軍の首に両腕を回してしっかりと抱きつき、ふかふかする毛に気持ちよさそうに頬を埋めていた。
やがて視界にベルトルドが見えると、
「あ、ベルトルドさん」
そう素っ気なく言っただけで、ブルーベル将軍から離れようともしない。
その薄すぎる反応で我を取り戻したベルトルドは、椅子から腰を浮かせて腕を差し出した。
「これは将軍、大変失礼しました。リッキー、こっちにおいで」
差し出されたベルトルドの手をちらりと見ると、「いやっ」と冷たくそっぽを向いてしまった。
「リッキーさん、こちらはブルーベル将軍です。失礼の無いよう降りてください」
アルカネットも手を差し出すが、キュッリッキは頑なに拒む。相手がどんなに偉かろうと、シロクマは可愛いのだ。
「まあまあお二方とも、ワシは一向に構いませんよ。こんなに可愛らしいお嬢さんに好かれるのは、光栄の極みです」
ブルーベル将軍はつぶらな瞳を細めて、ホッホッホッと穏やかに笑った。
キュッリッキはトイレで用を済ませ外に出てくると、廊下の向こうへ消えていくブルーベル将軍の後ろ姿を見つけた。興味が急に一気に湧いて、アルカネットに何も言わず慌てて追いかけた。
追いついてみれば、それは軍服を着た大きなシロクマ。歩くでっかなぬいぐるみを見つけた気分になったキュッリッキは、大喜びのあまり相手が誰であろうと構わず飛びついて今に至る。
経緯はどうあれ、物怖じせずぬいぐるみ扱いするキュッリッキに、ベルトルドとアルカネットは顔を合わせると、揃って肩を落とした。
「さて、ご要件はなんですかな。こちらのお嬢さんも同席していて大丈夫ですか?」
「ああ……ええ、彼女にも関係のあることなので」
キュッリッキを引き剥がすことは諦めて、ベルトルドは手振りでブルーベル将軍にソファをすすめる。アルカネットはデスクとソファの間に控えた。
ブルーベル将軍は小さく頷くと、デスクの前に置かれた応接ソファに座り、キュッリッキとフェンリルを膝の上に座らせた。
「随分軽いですね、お嬢さんはアイオン族かな?」
その言葉に、キュッリッキの身体がビクッと震えた。今までにこやかだった表情がスッと潜み、強ばった表情がありありと浮かぶ。
ベルトルドとアルカネットも小さく息を詰めたが、ブルーベル将軍はその空気を感じ、相好を崩して笑った。
「あの気位の高いアイオン族が、トゥーリ族のワシになついてくるなどありえませんな。お嬢さんはいわゆる”だいえっと”なるものをしていて軽いのでしょう」
「彼女は食がとても細くて、困っております」
アルカネットが応じると、ブルーベル将軍は「それはいけませんな」と声を上げて笑った。
不安そうに見上げてくるキュッリッキに、ブルーベル将軍は小さくウインクした。察してくれたその様子にキュッリッキは小さく微笑むと、安堵して肩の力を抜いた。
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