片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode305

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 屋敷に連絡を入れると、キュッリッキはすでに2時間前に屋敷を出ているという。

 腕を組みながら、オフィスの中をうろうろと歩き回り、アルカネットは何度も壁にかけられた時計を見る。

「いくらなんでも遅いですね……。まさか体調を悪くして、どこかで倒れているのでは…」

 それならば、何かしら騒動になって、耳に届きそうなもの。

「誰かに拐かされた…?」

 護衛にフェンリルがついていて、それはないだろうと判断する。

 2時間以上前、屋敷にいるキュッリッキに魔法部隊(ビリエル)の本部へくるよう呼び出したが、まだ到着していない。まさかセヴェリの案内を断って一人で歩き回り、迷子になっているなどとは思わない。

 色々と悪い想像ばかりが頭をよぎって、アルカネットは狼狽えた。

 すっかり元気になったとはいっても、全回復しているわけではない。アルカネットからしてみたら、まだ安心できないのだ。

「………心配ですね」

 独り言をつぶやきながら居てもたってもいられず、アルカネットは急ぎ足でオフィスを出た。

「あっ」

 エントランスへ向かおうとした途中で、ギャリーとキュッリッキが並んで歩いてくる姿が見えた。

「リッキーさん!」

 アルカネットは大声を張り上げ、慌てて2人に駆け寄る。

「アルカネットさんだ」

 やっと見つけた! と喜びを満面に浮かべ、キュッリッキはアルカネットに飛びついた。

 キュッリッキを抱きとめながら、アルカネットは心底安堵したように、ふぅっと息を吐き出した。

「心配していたのですよ。もしや、迷っていたのですか?」

「えへへ、迷子になっちゃった。でもギャリーに会えたから、連れてきてもらったの」

 甘えながら嬉しそうに見上げてくるキュッリッキの顔を見て、アルカネットは苦笑を浮かべた。こんな表情(かお)をされては、小言も言えなくなってしまう。

「とにかく無事でなによりでした。ギャリーもご苦労でしたね」

「いえ。そんじゃオレは戻ります」

「ギャリーありがと」

「おう、じゃあな」

 片手をあげてヒラヒラ振ると、ギャリーは足早に戻っていった。

 その後ろ姿を見送って、キュッリッキはもう一度アルカネットを見上げた。

「お話ってなあに?」

「実は、リッキーさんにお願いしたいことがあるのですよ」

「お願い?」

「ええ。それをお話するのは、ベルトルド様のところへ行ってからにしましょう」

「…はーい」

 不思議そうに首をかしげるキュッリッキに微笑みかけると、アルカネットは腰を落として、キュッリッキと目線を同じくする。

「迷子になっていたのなら、たくさん歩いたでしょう。疲れていませんか?」

「ん…実はちょっと、座りたいかも…」

 はにかみながら申し訳なさそうに言って、キュッリッキは小さく肩をすぼませた。

 その様子にアルカネットはより一層笑みを深めると、キュッリッキの額にキスをして身体を起こした。

「ラウンジへ行ってお茶をいただきましょうか。それから総帥本部へ参りましょう」

「はいっ」
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