片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode302

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 花模様で編まれたレースをふんだんにあしらった、絹地の真っ白なワンピースに、白い靴を履いた金髪の少女は、石畳の上に佇んで首をかしげていた。

 周りを見回すと、白くて縦に長い建物がたくさんある。外観も殆ど似たりよったりで、植木の配置も同じ、人影もない。

「うにゅ~~~、似たような建物ばっかりで、ちっとも判んなーい。アルカネットさんドコにいるのかなあ」

 白いレースの手袋をはめた手を腰に当てながら、キュッリッキは足元の相棒を見る。

「フェンリル場所判る? 臭いとかで探せない?」

 フェンリルはジロリとキュッリッキを睨みつけると、盛大に「フンッ」と忌々しげに鼻を鳴らした。

 その様子を見て、キュッリッキは眉を上げ、愛らしく肩をすくめる。

「犬のマネをさせるなーって言いたいんでしょ。でもこんなとこで召喚使えないし、助けてよぉ」

 両手を合わせて頼み込むが、フェンリルはそっぽを向いて取り合わない。

「……フェンリルまだ拗ねてる」

 口の先をとんがらせ、恨みがましく文句を言うキュッリッキを無視して、フェンリルは突然駆け出した。

「あ、待ってよ! もぉ!!」

 相棒に無視され、さらに置いてけぼりにされかかって、キュッリッキは慌てて駆け出した。

 立っていた場所の正面にある、四角い白い建物の中に入る。ガラスの扉は中が丸見えで、触ってないし誰もいないのに勝手に開く。

「うわあ…、透け透けのドアで、勝手に開いた…」

 もう一度おっかなびっくりドアに寄ると、やはり勝手に開いた。

「ハーメンリンナの中って、ホント別世界だよね~。地面を走る箱とか、電気エネルギーで明かりが点いたりとか。お金持ちの街って、凄いんだあ……あ、フェンリル追いかけなきゃ」

 中を見回すと、簡素で質素、白い壁と赤いカーペットが敷かれただけの、味気ない内装のロビーだった。

 奥には受付らしきカウンターはあるが、席を外しているのか誰もいない。

 フェンリルの気配を感じ取ろうと、キュッリッキは意識を凝らした。アルケラの住人たちの気配を、キュッリッキは辿ることができる。これも召喚スキル〈才能〉の能力なのかは、キュッリッキは知らない。誰に教わることもなく、自然と出来ていた。

「こっちだ」

 気配を感じる方へ小走りに駆けると、階段のある場所に出る。

 手摺に掴まりながら、ゆっくりと上り始めた。

 リハビリを続けたおかけで、運動機能もだいぶ回復してきたが、まだ全力で走ることはできない。階段を上るのも、ちょっと息が苦しくなる。

 踊り場の壁には、5階迄の標識が出ていた。

 途中誰ともすれ違う事もなく突き進み、5階にたどり着くと、殺風景な廊下に出た。

 向かって左側には、小さなネームプレートをはめた、似たような扉がずらりと並んでいて、右側は壁の上半分に引き違い窓が等間隔で並んでいる。

「フェンリルは…」

 ハーメンリンナの中で生命の危険にさらされることはないからと、召喚は極力使わないようベルトルドに約束させられている。色々なスキル〈才能〉を持つものが集まる場所では、誰に見咎められるか判らない。そのかわり、フェンリルは自由に連れて歩いても構わないと、許可はもらっていた。ただし、仔犬の姿で。

 ペットらしく見えるようにと、ベルトルドが首輪とリードをつけようとしたら、フェンリルがぷっつん怒って、ベルトルドに噛み付こうとした。それをキュッリッキに叱られて、以来ずっとへそを曲げているのだった。
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