321 / 882
それぞれの悪巧み編
episode302
しおりを挟む
花模様で編まれたレースをふんだんにあしらった、絹地の真っ白なワンピースに、白い靴を履いた金髪の少女は、石畳の上に佇んで首をかしげていた。
周りを見回すと、白くて縦に長い建物がたくさんある。外観も殆ど似たりよったりで、植木の配置も同じ、人影もない。
「うにゅ~~~、似たような建物ばっかりで、ちっとも判んなーい。アルカネットさんドコにいるのかなあ」
白いレースの手袋をはめた手を腰に当てながら、キュッリッキは足元の相棒を見る。
「フェンリル場所判る? 臭いとかで探せない?」
フェンリルはジロリとキュッリッキを睨みつけると、盛大に「フンッ」と忌々しげに鼻を鳴らした。
その様子を見て、キュッリッキは眉を上げ、愛らしく肩をすくめる。
「犬のマネをさせるなーって言いたいんでしょ。でもこんなとこで召喚使えないし、助けてよぉ」
両手を合わせて頼み込むが、フェンリルはそっぽを向いて取り合わない。
「……フェンリルまだ拗ねてる」
口の先をとんがらせ、恨みがましく文句を言うキュッリッキを無視して、フェンリルは突然駆け出した。
「あ、待ってよ! もぉ!!」
相棒に無視され、さらに置いてけぼりにされかかって、キュッリッキは慌てて駆け出した。
立っていた場所の正面にある、四角い白い建物の中に入る。ガラスの扉は中が丸見えで、触ってないし誰もいないのに勝手に開く。
「うわあ…、透け透けのドアで、勝手に開いた…」
もう一度おっかなびっくりドアに寄ると、やはり勝手に開いた。
「ハーメンリンナの中って、ホント別世界だよね~。地面を走る箱とか、電気エネルギーで明かりが点いたりとか。お金持ちの街って、凄いんだあ……あ、フェンリル追いかけなきゃ」
中を見回すと、簡素で質素、白い壁と赤いカーペットが敷かれただけの、味気ない内装のロビーだった。
奥には受付らしきカウンターはあるが、席を外しているのか誰もいない。
フェンリルの気配を感じ取ろうと、キュッリッキは意識を凝らした。アルケラの住人たちの気配を、キュッリッキは辿ることができる。これも召喚スキル〈才能〉の能力なのかは、キュッリッキは知らない。誰に教わることもなく、自然と出来ていた。
「こっちだ」
気配を感じる方へ小走りに駆けると、階段のある場所に出る。
手摺に掴まりながら、ゆっくりと上り始めた。
リハビリを続けたおかけで、運動機能もだいぶ回復してきたが、まだ全力で走ることはできない。階段を上るのも、ちょっと息が苦しくなる。
踊り場の壁には、5階迄の標識が出ていた。
途中誰ともすれ違う事もなく突き進み、5階にたどり着くと、殺風景な廊下に出た。
向かって左側には、小さなネームプレートをはめた、似たような扉がずらりと並んでいて、右側は壁の上半分に引き違い窓が等間隔で並んでいる。
「フェンリルは…」
ハーメンリンナの中で生命の危険にさらされることはないからと、召喚は極力使わないようベルトルドに約束させられている。色々なスキル〈才能〉を持つものが集まる場所では、誰に見咎められるか判らない。そのかわり、フェンリルは自由に連れて歩いても構わないと、許可はもらっていた。ただし、仔犬の姿で。
ペットらしく見えるようにと、ベルトルドが首輪とリードをつけようとしたら、フェンリルがぷっつん怒って、ベルトルドに噛み付こうとした。それをキュッリッキに叱られて、以来ずっとへそを曲げているのだった。
周りを見回すと、白くて縦に長い建物がたくさんある。外観も殆ど似たりよったりで、植木の配置も同じ、人影もない。
「うにゅ~~~、似たような建物ばっかりで、ちっとも判んなーい。アルカネットさんドコにいるのかなあ」
白いレースの手袋をはめた手を腰に当てながら、キュッリッキは足元の相棒を見る。
「フェンリル場所判る? 臭いとかで探せない?」
フェンリルはジロリとキュッリッキを睨みつけると、盛大に「フンッ」と忌々しげに鼻を鳴らした。
その様子を見て、キュッリッキは眉を上げ、愛らしく肩をすくめる。
「犬のマネをさせるなーって言いたいんでしょ。でもこんなとこで召喚使えないし、助けてよぉ」
両手を合わせて頼み込むが、フェンリルはそっぽを向いて取り合わない。
「……フェンリルまだ拗ねてる」
口の先をとんがらせ、恨みがましく文句を言うキュッリッキを無視して、フェンリルは突然駆け出した。
「あ、待ってよ! もぉ!!」
相棒に無視され、さらに置いてけぼりにされかかって、キュッリッキは慌てて駆け出した。
立っていた場所の正面にある、四角い白い建物の中に入る。ガラスの扉は中が丸見えで、触ってないし誰もいないのに勝手に開く。
「うわあ…、透け透けのドアで、勝手に開いた…」
もう一度おっかなびっくりドアに寄ると、やはり勝手に開いた。
「ハーメンリンナの中って、ホント別世界だよね~。地面を走る箱とか、電気エネルギーで明かりが点いたりとか。お金持ちの街って、凄いんだあ……あ、フェンリル追いかけなきゃ」
中を見回すと、簡素で質素、白い壁と赤いカーペットが敷かれただけの、味気ない内装のロビーだった。
奥には受付らしきカウンターはあるが、席を外しているのか誰もいない。
フェンリルの気配を感じ取ろうと、キュッリッキは意識を凝らした。アルケラの住人たちの気配を、キュッリッキは辿ることができる。これも召喚スキル〈才能〉の能力なのかは、キュッリッキは知らない。誰に教わることもなく、自然と出来ていた。
「こっちだ」
気配を感じる方へ小走りに駆けると、階段のある場所に出る。
手摺に掴まりながら、ゆっくりと上り始めた。
リハビリを続けたおかけで、運動機能もだいぶ回復してきたが、まだ全力で走ることはできない。階段を上るのも、ちょっと息が苦しくなる。
踊り場の壁には、5階迄の標識が出ていた。
途中誰ともすれ違う事もなく突き進み、5階にたどり着くと、殺風景な廊下に出た。
向かって左側には、小さなネームプレートをはめた、似たような扉がずらりと並んでいて、右側は壁の上半分に引き違い窓が等間隔で並んでいる。
「フェンリルは…」
ハーメンリンナの中で生命の危険にさらされることはないからと、召喚は極力使わないようベルトルドに約束させられている。色々なスキル〈才能〉を持つものが集まる場所では、誰に見咎められるか判らない。そのかわり、フェンリルは自由に連れて歩いても構わないと、許可はもらっていた。ただし、仔犬の姿で。
ペットらしく見えるようにと、ベルトルドが首輪とリードをつけようとしたら、フェンリルがぷっつん怒って、ベルトルドに噛み付こうとした。それをキュッリッキに叱られて、以来ずっとへそを曲げているのだった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる