片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode301

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 夕食が終わり、みんなと別れると、キュッリッキは部屋に戻って風呂に入った。退院してからは、もう1人で入れる様になっていた。しかしまだ右腕が満足に動かないので、メイドのアリサに手伝ってもらう。

「右腕の太さが戻るのは、まだまだかかりそうですねえ」

「うん。なんか全然違うから、ちょっと恥ずかしいかも」

「沢山お食べになれば、すぐですよ」

「うーん…。いつも頑張って食べてるもん」

 口を尖らせるキュッリッキに、アリサは「いいえ、いいえ」と首を振る。

「もっと、食べなきゃいけませんよ! いつも少なめに盛ってあるんですから」

「むぅ」

 お湯の中に口まで浸かり、ブクブクと泡を立てた。

「おーい、リッキー」

 ベルトルドの声がして、アリサはドアの方へ顔を向ける。

「あら? もう旦那様たちいらしたのかしら。こっちを覗きに来ないように言ってきますね」

「はーい」

 ピュアローズの入浴剤で、浴室の中はバラの香りでいっぱいだ。乳白色のお湯を両手で掬って、パシャリと顔にかける。

「最近部屋のあちこちにお菓子が置いてあるの、アリサの仕業ね」

 ベッドサイドのテーブル、ミニテーブル、ドレッサー、洗面台、衣装部屋のドレッサーなどなど、物が置けるところには、焼き菓子やキャンディなどが置かれているのだ。

「虫歯になっちゃうんだから…」

 文句を言う反面、体力を付けて身体を整える必要があるのも自覚している。戦争がいつ始まるか判らないから、今のうちにしっかり全回復しないといけないのだ。

「頑張って食べるかあ…」

 ふぅ、とため息をついたところで、アリサが戻ってきた。

「そろそろ上がってくださいお嬢様。のぼせてしまいますよ」

「そうだね」



 アリサに髪を乾かしてもらいながら、キュッリッキはフェンリルをタオルで丁寧に拭いてやる。

「ワンちゃんもお風呂がお好きなんですねえ。気持ちよさそうに入ってましたし」

「そうなの。お風呂気に入ってるみたい、フェンリルも」

 照れくさそうに、フンッとフェンリルは鼻を鳴らす。

「綺麗好きなのはいいことでございます。さっ、もういいですよ、お嬢様」

「ありがとうアリサ」

 淡い黄色のベビードール――ベルトルドが用意した寝間着――を着て、ドレッシングルームを出る。

「お、リッキー」

 ベッドに腰掛けて待っていたベルトルドは、満面の笑みを浮かべて両手を広げる。小走りに近づくと、素早く抱きしめられた。

「可愛い俺のリッキー」

 膝の上に抱き上げて、アツク抱擁しながら、頭に頬にキスの雨を降らす。

「ちいっ!」

 ベルトルドの後ろから、険悪で露骨な舌打ちがする。アルカネットだ。

「ジャンケンで負けたお前が悪い」

「透視を使うとは卑怯ですよ、大人げない」

「リッキーのためなら手段は選ばん!」

 ベルトルドは得意げにドヤ顔を向けた。

 キュッリッキも部屋を出ようとしていたアリサも、共に胸中で「はぁ…」と呆れたため息をつくのだった。
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