片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode299

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 事態が飲み込めていないキュッリッキは、顔を真っ赤にして固まったままだ。

「お嬢様がお好きな、レモンタルトとオレンジババロアを用意しましたわ。メルヴィン様もどうぞ」

「ありがとうございます」

 硬直したまま2人の様子を目で追い、キュッリッキの頭の中は大混乱していた。

(メルヴィンがなんでいるんだろ…まだ夜じゃないよね!?)

 部屋の中は明るい。

(メルヴィンが居て嬉しいけど、顔が真っ赤なトマトになっちゃう! アタシどうしようどうしようっ)

 いつまでもベッドから出ないキュッリッキに、見透かしたようなリトヴァの笑みが投げかけられる。

「お嬢様、お茶が冷めてしまいます。早くベッドからお出になって、こちらにお座りくださいませ」

 メルヴィンの向かい側の椅子を示され、キュッリッキは失神しそうになるのを、かろうじて踏ん張った。

「う、うん…」

 緩慢な動作でもそもそベッドから這い出ると、乱れたワンピースの裾を手で直し、恐る恐るテーブルに近づいた。

 真っ赤な顔を俯かせ、ちょこんと椅子に座る。

 気合で笑いを噛み殺した表情をするリトヴァは、レモンタルトを切り分けて、キュッリッキの前に置いた。

「わたくしはこれで」

 そう言って、リトヴァは部屋を出ていった。

 午後の柔らかな光で照らされた部屋の中は、静かで優しいひとときを生み出していた。

「美味しいですよ、リッキーさん」

「う、うん、食べる」

 キュッリッキはフォークを掴むと、僅かに手を震わせながらレモンタルトを切り分け、パクッとひと切れ口に含む。味なんてさっぱり感じない。

 緊張で動きが怪しくなる。それを自覚しながらも、目の前にはメルヴィンがいて、自分を見つめている、どうしたらいいのか思考が停止しそうだ。

 心臓はバクバクするし、顔も赤くなるのがおさまらない。

(恋って酷い病気なの~~~)

 ポックリ死んじゃうかもしれないと思うくらいなのだ。

「ついにソレル王国の連合軍が、宣戦布告をしてきましたね。戦争になるっていう雰囲気は皇都にはあまりないけど、開戦日が決まれば軍も、もっと忙しくなりそうです」

 紅茶を飲みながら、メルヴィンが神妙な顔で言った。

「そ、そうだねっ」

「それなのに、今日はすることがないからと、お払い箱されました。タルコットさんは腕が鈍ると言って、訓練施設へ寄り道しましたが。オレも少し動いてきたほうが良かったかなあ」

(…そうしなかったから、今こうして向かい合って、お茶を飲んでいるの)

 キュッリッキにとって喜ばしく、最高のひとときだ。

(それなのにぃ…)

 緊張の緊張で、まともにメルヴィンの顔も見れないし、お喋りも出来ない。ちょっと前までは、こんなふうじゃなかったのに。

 頭を掻き毟って喚き散らしたい衝動にかられ、キュッリッキは心の中で深呼吸を繰り返す。

「戦争はそれとして、リッキーさんが元気になってきて、本当に良かったです」

 メルヴィンに穏やかに微笑まれて、キュッリッキはちょっと冷静になった。

「以前のようにずっとそばに付き添ってあげられませんが、何か困ったことがあったら、遠慮せずに言ってください。隣の部屋にいますから」

 看病してくれていた時から、メルヴィンはずっと手を差し伸べ続けてくれた。頼られたがっているのかなと思うくらいに。

「ありがとう、メルヴィン」

 自分のことを、こんなに心配してくれる。その気持ちが嬉しい。

 そして、2人でこうして過ごす優しい時間が、あと何回取れるんだろうと、ふと思った。

 照れてばかりじゃ勿体無い! そうも思うのだが、思うように感情がコントロール出来ないキュッリッキだった。
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