片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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それぞれの悪巧み編

episode298

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「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ、メルヴィン様」

 セヴェリに出迎えられて、メルヴィンは丁寧に挨拶する。

「今日は随分、お早いお帰りでございますね」

 時刻は午後の3時を回った頃である。

「そうなんです。オレとタルコットさんだけは、早く追い出されました」

「左様でございますか」

「あ、タルコットさんは私用で寄り道するそうなので、帰宅は夕食の頃だそうです」

「承りました」

 玄関ロビーでセヴェリと別れると、メルヴィンは階段をのぼって南棟に向かった。その途中リトヴァと会い、挨拶を投げかける。

「今日はお早いお戻りですのね」

「ええ、今日は早く追い出されました」

「まあ、そうでございましたか」

 小さく笑ったあと、リトヴァは思い出したようにメルヴィンを見上げる。

「御用をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、構いませんよ」

「お嬢様がお昼寝をされているのですが、そろそろお起こしして、お茶の時間にしようと思います。それで、起こして差し上げて欲しいのですが、お願いできますか?」

「判りました」

 メルヴィンは屈託なく承知する。

「ありがとうございます。早速お茶の用意をして、お部屋にお持ち致しますわね。メルヴィン様もご一緒に」

「ありがとう、お願いします」

 リトヴァは会釈をして踵を返した。

 メルヴィンは自室で素早く着替えてから、キュッリッキの部屋へ行く。

 ノックをして少し待つが返事はない。扉を開けて部屋に入ると、奥のベッドでキュッリッキは寝ていた。

 ベッドの傍らまで来て、椅子に座る。ベルトルドが自宅療養に入ると、こうして付き添う役目も終わった。

 久しぶりにキュッリッキの寝顔を見て、メルヴィンは表情をほころばせた。

 先日19歳を迎えたが、無防備な寝顔はあどけなく、まだまだ子供のようだ。怪我で臥せっていた時に比べると、ずっと健康的な寝顔である。そしてシーツから覗く手首に、メルヴィンはハッと気づいた。

 金の鎖に、小さな珠に掘った水晶とアクアマリンが散りばめられた、可愛らしいデザインのブレスレット。キュッリッキの誕生日に、メルヴィンが贈ったプレゼントだ。

「つけて、くれているんですね」

 女性にプレゼントを選ぶのは久しぶりのことで、一緒に買いに行ったルーファスに、色々とアドバイスをもらって選んだものだ。

 なんだか嬉しくなって笑顔になっていると、

「う…ン…」

 キュッリッキが寝返りを打った。

「あ、起こさなくちゃ」

 部屋を訪れた目的を思い出し、メルヴィンは腰を浮かせた。

「リッキーさん、起きてください」

 細い左肩を掴んで揺さぶる。

「ふに…」

 目をこすりながら、距離が近いメルヴィンの顔を見る。

「……?」

 手の動きが止まり、寝ぼけ眼が全開になる。

「!?」

 ヒッと喉が引き攣れ、キュッリッキはガバッと身体を起こした。

「おはようございます?」

 メルヴィンが優しく微笑むと、両手でシーツを掴んでキュッリッキは固まった。

「お茶の時間だそうですよ。リトヴァさんがお茶を持ってくるそうです」

 そう言ってるうちに、リトヴァがワゴンを押して部屋に入ってきた。

「お目覚めになりましたわね」

「ええ、ちょうど今起きたところです」
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