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それぞれの悪巧み編
episode294
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1万年も前の世界は、3つの種族、3つの惑星で成り立っていた。太陽を中心として、正三角形を描くように、3つの惑星が取り囲んでいる。
惑星ヒイシはヴィプネン族、惑星ペッコはアイオン族、惑星タピオはトゥーリ族が治めていた。それぞれの惑星には種族の統一国家があり、そして種族間で戦争が絶え間なく起こっていたのだ。
戦争の火種の詳細は、後世にはあまり伝えられていない。
一説によると、火種はアルケラだという。神々と幻想の住人たちが暮らす世界のことだ。
アルケラはどの惑星からも、月のように最も近くに存在し、しかし誰も到達することができない距離にあると言われていた。
月そのものがアルケラだ、という伝承もある。月は各惑星の軌道に存在しているが、それ自体が幻だと言う。3つ惑星で見える月は一つのものであり、各惑星にその姿を写しているだけ。月こそがアルケラだと伝える者もいた。
存在を信じているのに、目に見え、形あるものなのに、手が届きそうで届かない。
人々は神の持つ超常の力に憧れ、欲し、求め続けた。
一番先にアルケラの力を得ることが出来るのは、どの種族だろう。戦争を続けながら、3つの種族は先を競った。
やがて、ヴィプネン族は最大の禁忌を冒す。そのことがきっかけで、アルケラは何処かへ消え去り、各惑星は甚大な被害を被り、多くの生命が失われた。もっとも被害が大きかったのは、惑星ヒイシだった。
それから1万年の時を経て、現在の世界がある。今も、3つの種族と3つの惑星が、世界を形作っていた。
分厚い本を、そっと閉じる。板のように硬い深緑色の表紙には、金の文字で『歴史』とだけ綴られていた。
「我々メリロット王家は、失われた神王国ソレル、ヤルヴィレフト王家の正統なる末裔なのだ」
白の混じった黒い髭をさすりながら、初老の男は厳かに呟いた。
「ハワドウレ皇国などと、どこの馬の骨とも知らぬ輩の興した国などに、いつまでも蹂躙されているなど耐えられぬ」
杖を持つ手がプルプルと震える。男は水晶の床の上にたたずみ、ふと面を上げた。
深い青の空間に、巨大な月が浮かんでいる。その月の明かりを受けて、水晶が波のように柔らかく煌いていた。
「返してもらう。なにもかも」
惑星ヒイシ全土を揺るがすほどの、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。
ソレル王国が周辺の小国と連合を組み、ハワドウレ皇国に宣戦布告を発したのだ。
およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。領土争いが絶えず、小競り合い規模の戦争は、毎年のように繰り返されていた。
ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が立ち上がり、ワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家を成した。
しかし数十年の時を経て、独自に国を興して離反する者たちも現れ、現在17の小国と5つの自由都市が公で認めらている。
自由都市は他惑星にも存在し、自治が認められ他国の介入を許さない。援助を受けることも出来ないが、支配されることもなく、それは3種族の間で法的に認められていることだ。
小国の場合は自由都市とは違い、長い戦争と外交を経て、ある程度の自治は認められていた。しかしハワドウレ皇国の属国であることに変わりはない。
ソレル王国はモナルダ大陸の一部海岸沿いを治めていて、超古代文明にまつわる遺跡が多く出土することから、学術的な研究員や学生が集い、モナルダ大陸のなかでは賑わいを見せる豊かな国だ。そんな平和とも思える国が、周辺小国と連合を組んで、ハワドウレ皇国に宣戦布告するなど、誰が想像できただろう。
ソレル王国を治めるメリロット王の評判は良く、善政を敷く素晴らしい王だと、国民からも慕われていた。
惑星ヒイシはヴィプネン族、惑星ペッコはアイオン族、惑星タピオはトゥーリ族が治めていた。それぞれの惑星には種族の統一国家があり、そして種族間で戦争が絶え間なく起こっていたのだ。
戦争の火種の詳細は、後世にはあまり伝えられていない。
一説によると、火種はアルケラだという。神々と幻想の住人たちが暮らす世界のことだ。
アルケラはどの惑星からも、月のように最も近くに存在し、しかし誰も到達することができない距離にあると言われていた。
月そのものがアルケラだ、という伝承もある。月は各惑星の軌道に存在しているが、それ自体が幻だと言う。3つ惑星で見える月は一つのものであり、各惑星にその姿を写しているだけ。月こそがアルケラだと伝える者もいた。
存在を信じているのに、目に見え、形あるものなのに、手が届きそうで届かない。
人々は神の持つ超常の力に憧れ、欲し、求め続けた。
一番先にアルケラの力を得ることが出来るのは、どの種族だろう。戦争を続けながら、3つの種族は先を競った。
やがて、ヴィプネン族は最大の禁忌を冒す。そのことがきっかけで、アルケラは何処かへ消え去り、各惑星は甚大な被害を被り、多くの生命が失われた。もっとも被害が大きかったのは、惑星ヒイシだった。
それから1万年の時を経て、現在の世界がある。今も、3つの種族と3つの惑星が、世界を形作っていた。
分厚い本を、そっと閉じる。板のように硬い深緑色の表紙には、金の文字で『歴史』とだけ綴られていた。
「我々メリロット王家は、失われた神王国ソレル、ヤルヴィレフト王家の正統なる末裔なのだ」
白の混じった黒い髭をさすりながら、初老の男は厳かに呟いた。
「ハワドウレ皇国などと、どこの馬の骨とも知らぬ輩の興した国などに、いつまでも蹂躙されているなど耐えられぬ」
杖を持つ手がプルプルと震える。男は水晶の床の上にたたずみ、ふと面を上げた。
深い青の空間に、巨大な月が浮かんでいる。その月の明かりを受けて、水晶が波のように柔らかく煌いていた。
「返してもらう。なにもかも」
惑星ヒイシ全土を揺るがすほどの、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。
ソレル王国が周辺の小国と連合を組み、ハワドウレ皇国に宣戦布告を発したのだ。
およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。領土争いが絶えず、小競り合い規模の戦争は、毎年のように繰り返されていた。
ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が立ち上がり、ワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家を成した。
しかし数十年の時を経て、独自に国を興して離反する者たちも現れ、現在17の小国と5つの自由都市が公で認めらている。
自由都市は他惑星にも存在し、自治が認められ他国の介入を許さない。援助を受けることも出来ないが、支配されることもなく、それは3種族の間で法的に認められていることだ。
小国の場合は自由都市とは違い、長い戦争と外交を経て、ある程度の自治は認められていた。しかしハワドウレ皇国の属国であることに変わりはない。
ソレル王国はモナルダ大陸の一部海岸沿いを治めていて、超古代文明にまつわる遺跡が多く出土することから、学術的な研究員や学生が集い、モナルダ大陸のなかでは賑わいを見せる豊かな国だ。そんな平和とも思える国が、周辺小国と連合を組んで、ハワドウレ皇国に宣戦布告するなど、誰が想像できただろう。
ソレル王国を治めるメリロット王の評判は良く、善政を敷く素晴らしい王だと、国民からも慕われていた。
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