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それぞれの悪巧み編
episode289
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「なーにぃ~~~~~~~~~~っ!」
「早速入院準備をして、病院へ連れて行きます」
「阿呆かお前! この俺が自宅療養してる間は、入院なんぞ言語道断だ!」
食堂で突如始まった口論に、キュッリッキもライオン傭兵団も、手を止め呆気に取られて見ていた。
ベルトルドによって合宿を強制されたライオン傭兵団が、屋敷に来てその日の夜。
食堂に一同が集まり、いただきまーっすと食事が開始された頃に、アルカネットが帰宅した。そして食堂にやってくるやいなや、キュッリッキを検査入院に連れて行くと言って、ベルトルドと口論が開始されたのだ。
「身体も動かせるようになった今こそ、しっかり検査をして、怪我の状態を隅々まで調べ、根治させなければなりません。あなたが自宅療養していようが、仕事に出ていようが、全く関係ないのですよ」
冷気を漂わせながら、アルカネットは素っ気なく言った。ベルトルドと2人きりにさせないため、アルカネットの行動は早かった。
「怪我も快方に向かい、随分元気になってきましたが、あれほどの大怪我だったのですよ、後遺症も心配されます。すぐにでもしっかり診てもらい、リッキーさんにはもっともっと、元気になってもらわなくては」
「そんなことは承知している!」
思いっきり正論を叩きつけられ、ベルトルドはギリギリと歯ぎしりする。
「ヴィヒトリ先生が検査入院を申し出たということは、早めに検査したいということでしょう。食事が済み次第、病院へ連れて行きます。帰りがけに入院手続きは済ませてきましたから」
そしてアルカネットはキュッリッキの傍らに膝をつき、目をぱちくりさせているキュッリッキを優しく見上げた。
「しっかり診てもらいにいきましょうね」
「はい」
せっかくライオン傭兵団のみんなと一緒に居られると思うと残念だが、そのことでダダをこねるのは違う気もしたので、キュッリッキは素直に返事をした。早く怪我を治したいと、自分でも思うから。
ベルトルドひとりがいつまでもブーたれていたが、
「よし、俺も付き添いに行く!」
「何を言ってるんです、あなたは自宅療養の身なのですよ…」
「ふんっ! 老人じゃあるまいし、もう動き回っても何の問題もないわ」
留守番していろと言っても、意地でも着いてきそうなので、不承不承アルカネットは承知した。
夕食が済む頃にはキュッリッキの入院準備も終わっていて、着替えて玄関ロビーに行くと、メイドのアリサが荷物を持って待っていた。
「わたくしもお嬢様と一緒に、病院へ泊まり込みますね」
「わーい。アリサも一緒なら寂しくないかも」
「それはようございました」
「お嬢様のお世話、しっかり頼みましたよ」
「はい、リトヴァさん」
見送りのために来ていたリトヴァに念押しされ、アリサは笑顔で頷いた。
私服のベルトルドと軍服のままのアルカネットが姿を現し、ロビーのソファに座っていたキュッリッキは立ち上がった。
「移動はどうする? ゴンドラも地下も面倒だから、空飛んで行かないか?」
「そうですね。そのほうが早く着きますし」
「んじゃ、リッキーは俺が…」
「さあ行きましょうね、リッキーさん」
すかさずアルカネットがキュッリッキを腕に抱き、先を越されたベルトルドは泣きべそを浮かべた。
「……」
「あなたはアリサをお願いしますね」
「す、すいません、旦那様…」
ぷるぷる拳を震わせるベルトルドに、アリサは恐縮したように頭を下げた。
「早速入院準備をして、病院へ連れて行きます」
「阿呆かお前! この俺が自宅療養してる間は、入院なんぞ言語道断だ!」
食堂で突如始まった口論に、キュッリッキもライオン傭兵団も、手を止め呆気に取られて見ていた。
ベルトルドによって合宿を強制されたライオン傭兵団が、屋敷に来てその日の夜。
食堂に一同が集まり、いただきまーっすと食事が開始された頃に、アルカネットが帰宅した。そして食堂にやってくるやいなや、キュッリッキを検査入院に連れて行くと言って、ベルトルドと口論が開始されたのだ。
「身体も動かせるようになった今こそ、しっかり検査をして、怪我の状態を隅々まで調べ、根治させなければなりません。あなたが自宅療養していようが、仕事に出ていようが、全く関係ないのですよ」
冷気を漂わせながら、アルカネットは素っ気なく言った。ベルトルドと2人きりにさせないため、アルカネットの行動は早かった。
「怪我も快方に向かい、随分元気になってきましたが、あれほどの大怪我だったのですよ、後遺症も心配されます。すぐにでもしっかり診てもらい、リッキーさんにはもっともっと、元気になってもらわなくては」
「そんなことは承知している!」
思いっきり正論を叩きつけられ、ベルトルドはギリギリと歯ぎしりする。
「ヴィヒトリ先生が検査入院を申し出たということは、早めに検査したいということでしょう。食事が済み次第、病院へ連れて行きます。帰りがけに入院手続きは済ませてきましたから」
そしてアルカネットはキュッリッキの傍らに膝をつき、目をぱちくりさせているキュッリッキを優しく見上げた。
「しっかり診てもらいにいきましょうね」
「はい」
せっかくライオン傭兵団のみんなと一緒に居られると思うと残念だが、そのことでダダをこねるのは違う気もしたので、キュッリッキは素直に返事をした。早く怪我を治したいと、自分でも思うから。
ベルトルドひとりがいつまでもブーたれていたが、
「よし、俺も付き添いに行く!」
「何を言ってるんです、あなたは自宅療養の身なのですよ…」
「ふんっ! 老人じゃあるまいし、もう動き回っても何の問題もないわ」
留守番していろと言っても、意地でも着いてきそうなので、不承不承アルカネットは承知した。
夕食が済む頃にはキュッリッキの入院準備も終わっていて、着替えて玄関ロビーに行くと、メイドのアリサが荷物を持って待っていた。
「わたくしもお嬢様と一緒に、病院へ泊まり込みますね」
「わーい。アリサも一緒なら寂しくないかも」
「それはようございました」
「お嬢様のお世話、しっかり頼みましたよ」
「はい、リトヴァさん」
見送りのために来ていたリトヴァに念押しされ、アリサは笑顔で頷いた。
私服のベルトルドと軍服のままのアルカネットが姿を現し、ロビーのソファに座っていたキュッリッキは立ち上がった。
「移動はどうする? ゴンドラも地下も面倒だから、空飛んで行かないか?」
「そうですね。そのほうが早く着きますし」
「んじゃ、リッキーは俺が…」
「さあ行きましょうね、リッキーさん」
すかさずアルカネットがキュッリッキを腕に抱き、先を越されたベルトルドは泣きべそを浮かべた。
「……」
「あなたはアリサをお願いしますね」
「す、すいません、旦那様…」
ぷるぷる拳を震わせるベルトルドに、アリサは恐縮したように頭を下げた。
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