307 / 882
番外編1
メルヴィンの女・3
しおりを挟む
カーリーは近くにあった木箱にキュッリッキを座らせると、自分も隣に座った。
「昔メルヴィンと付き合っていたんだけどね、彼ってあの頃も、やっぱり鈍くって」
その当時のことを思い出し、カーリーはくすくすと笑った。
「メルヴィンってすっごく鈍いでしょ、その鈍さが耐え切れなくって。私、メルヴィンを裏切って他のヒトと浮気しちゃったの」
キュッリッキはカーリーをマジマジと見つめた。
「そしてその浮気が本気になっていって、私からメルヴィンに別れよう、って言って別れたのよ」
カーリーは少し切ない表情を浮かべたが、すぐに明るく笑った。
「浮気した私が悪いのに、メルヴィンは責めることなく許してくれて。そういうとこは優しいんだけど、それがかえって辛かったわ」
メルヴィンらしい、とキュッリッキは思った。
「私ね、もうすぐこのヒイシをはなれて、タピオに移住するの」
タピオはトゥーリ族の治める惑星だ。
カーリーはキュッリッキの目の前に左手を見せる。薬指には金の指輪が、誇らしげに煌めいていた。
「その浮気相手と今は結婚して、彼の仕事の都合で行くの。きっとタピオに永住することになるから、それで挨拶に来たのよ」
キュッリッキはもう一度指輪を見て、そしてカーリーの顔を見て頷いた。
「あなたをこんなに泣かせてしまって、本当にごめんなさい」
カーリーは目を腫れぼったくするキュッリッキの顔を見つめながら、心底申し訳なさそうに微笑んだ。
「女の私から見ても、あなたとっても綺麗。こんな綺麗な女の子に泣くほど愛されてるなんて、メルヴィン隅に置けないわね」
途端、キュッリッキは耳まで真っ赤になって「えと、えと」としどろもどろに慌てた。その様子にクスッと笑うと、
「あなたの王子様が、やっと迎えに来たわ」
首を巡らせると、そこには粗く息をつくメルヴィンが立っていた。きっと全速力で走ってきたのだろう。
「ね、もうすぐバレンタインでしょ。メルヴィンにはね……」
カーリーは手でキュッリッキの耳を隠すようにすると、囁くようにして何事かを話した。すると、キュッリッキは「ほえ?」と頭上にクエスチョンマークを点滅させる。
「物凄く効果的だと思うから、是非やってみてね」
いたずらっぽくウインクすると、カーリーは立ち上がった。
メルヴィンの前に立つと、カーリーはメルヴィンを見上げて微笑む。
「素敵な女の子ね。大事にしてあげるのよ、あなた本当に鈍いんだから」
カーリーはにっこり微笑み、メルヴィンの胸を軽く拳でついて、街の方へ歩いて行ってしまった。
去っていくカーリーの後ろ姿を見送ると、メルヴィンは木箱に座ったままのキュッリッキの前にしゃがみこんだ。
「あの、なんか、すみません…」
泣きはらしたキュッリッキの顔を見て、メルヴィンは心底済まなそうに謝った。しかし何故キュッリッキがこれだけ泣いたのかは判っていなさそうだった。そのことに気づいて、キュッリッキは拗ねた表情をしたが、小さくクシャミをしてブルッと身体を震わせる。鞄に適当に服を詰め込んでそのままアジトを飛び出したため、コートもなにも着ていない。
メルヴィンはハッとして立ち上がると、コートを脱いでキュッリッキの肩にかけて、そのまま抱き上げた。ニットのワンピースの裾から出る脚はすっかり冷え切っていて、それがメルヴィンを慌てさせた。
「風邪をひかないように、早くアジトへ帰りましょう」
タイツ越しに伝わってくるメルヴィンの手の温もりが気持ちよく、キュッリッキは顔を真っ赤にしながらも、甘えるようにメルヴィンの肩に頬を寄せた。
その頃ライオン傭兵団のアジトには、仕事をサボって抜け出してきたベルトルドが、山ほどの菓子やらケーキやらのお土産を手に、キュッリッキが帰ってくるのをニヤニヤしながら待っていた。
カーリーから連絡が入った、と言って飛び出していったメルヴィンに全て任せているが、2人がいつ帰ってくるか判らない。
ライオン傭兵団の面々は2人が早く帰ってくるよう、胃をキリキリさせ、神に祈りながら待っていた。
「昔メルヴィンと付き合っていたんだけどね、彼ってあの頃も、やっぱり鈍くって」
その当時のことを思い出し、カーリーはくすくすと笑った。
「メルヴィンってすっごく鈍いでしょ、その鈍さが耐え切れなくって。私、メルヴィンを裏切って他のヒトと浮気しちゃったの」
キュッリッキはカーリーをマジマジと見つめた。
「そしてその浮気が本気になっていって、私からメルヴィンに別れよう、って言って別れたのよ」
カーリーは少し切ない表情を浮かべたが、すぐに明るく笑った。
「浮気した私が悪いのに、メルヴィンは責めることなく許してくれて。そういうとこは優しいんだけど、それがかえって辛かったわ」
メルヴィンらしい、とキュッリッキは思った。
「私ね、もうすぐこのヒイシをはなれて、タピオに移住するの」
タピオはトゥーリ族の治める惑星だ。
カーリーはキュッリッキの目の前に左手を見せる。薬指には金の指輪が、誇らしげに煌めいていた。
「その浮気相手と今は結婚して、彼の仕事の都合で行くの。きっとタピオに永住することになるから、それで挨拶に来たのよ」
キュッリッキはもう一度指輪を見て、そしてカーリーの顔を見て頷いた。
「あなたをこんなに泣かせてしまって、本当にごめんなさい」
カーリーは目を腫れぼったくするキュッリッキの顔を見つめながら、心底申し訳なさそうに微笑んだ。
「女の私から見ても、あなたとっても綺麗。こんな綺麗な女の子に泣くほど愛されてるなんて、メルヴィン隅に置けないわね」
途端、キュッリッキは耳まで真っ赤になって「えと、えと」としどろもどろに慌てた。その様子にクスッと笑うと、
「あなたの王子様が、やっと迎えに来たわ」
首を巡らせると、そこには粗く息をつくメルヴィンが立っていた。きっと全速力で走ってきたのだろう。
「ね、もうすぐバレンタインでしょ。メルヴィンにはね……」
カーリーは手でキュッリッキの耳を隠すようにすると、囁くようにして何事かを話した。すると、キュッリッキは「ほえ?」と頭上にクエスチョンマークを点滅させる。
「物凄く効果的だと思うから、是非やってみてね」
いたずらっぽくウインクすると、カーリーは立ち上がった。
メルヴィンの前に立つと、カーリーはメルヴィンを見上げて微笑む。
「素敵な女の子ね。大事にしてあげるのよ、あなた本当に鈍いんだから」
カーリーはにっこり微笑み、メルヴィンの胸を軽く拳でついて、街の方へ歩いて行ってしまった。
去っていくカーリーの後ろ姿を見送ると、メルヴィンは木箱に座ったままのキュッリッキの前にしゃがみこんだ。
「あの、なんか、すみません…」
泣きはらしたキュッリッキの顔を見て、メルヴィンは心底済まなそうに謝った。しかし何故キュッリッキがこれだけ泣いたのかは判っていなさそうだった。そのことに気づいて、キュッリッキは拗ねた表情をしたが、小さくクシャミをしてブルッと身体を震わせる。鞄に適当に服を詰め込んでそのままアジトを飛び出したため、コートもなにも着ていない。
メルヴィンはハッとして立ち上がると、コートを脱いでキュッリッキの肩にかけて、そのまま抱き上げた。ニットのワンピースの裾から出る脚はすっかり冷え切っていて、それがメルヴィンを慌てさせた。
「風邪をひかないように、早くアジトへ帰りましょう」
タイツ越しに伝わってくるメルヴィンの手の温もりが気持ちよく、キュッリッキは顔を真っ赤にしながらも、甘えるようにメルヴィンの肩に頬を寄せた。
その頃ライオン傭兵団のアジトには、仕事をサボって抜け出してきたベルトルドが、山ほどの菓子やらケーキやらのお土産を手に、キュッリッキが帰ってくるのをニヤニヤしながら待っていた。
カーリーから連絡が入った、と言って飛び出していったメルヴィンに全て任せているが、2人がいつ帰ってくるか判らない。
ライオン傭兵団の面々は2人が早く帰ってくるよう、胃をキリキリさせ、神に祈りながら待っていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる