片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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番外編1

メルヴィンの女・3

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 カーリーは近くにあった木箱にキュッリッキを座らせると、自分も隣に座った。

「昔メルヴィンと付き合っていたんだけどね、彼ってあの頃も、やっぱり鈍くって」

 その当時のことを思い出し、カーリーはくすくすと笑った。

「メルヴィンってすっごく鈍いでしょ、その鈍さが耐え切れなくって。私、メルヴィンを裏切って他のヒトと浮気しちゃったの」

 キュッリッキはカーリーをマジマジと見つめた。

「そしてその浮気が本気になっていって、私からメルヴィンに別れよう、って言って別れたのよ」

 カーリーは少し切ない表情を浮かべたが、すぐに明るく笑った。

「浮気した私が悪いのに、メルヴィンは責めることなく許してくれて。そういうとこは優しいんだけど、それがかえって辛かったわ」

 メルヴィンらしい、とキュッリッキは思った。

「私ね、もうすぐこのヒイシをはなれて、タピオに移住するの」

 タピオはトゥーリ族の治める惑星だ。

 カーリーはキュッリッキの目の前に左手を見せる。薬指には金の指輪が、誇らしげに煌めいていた。

「その浮気相手と今は結婚して、彼の仕事の都合で行くの。きっとタピオに永住することになるから、それで挨拶に来たのよ」

 キュッリッキはもう一度指輪を見て、そしてカーリーの顔を見て頷いた。

「あなたをこんなに泣かせてしまって、本当にごめんなさい」

 カーリーは目を腫れぼったくするキュッリッキの顔を見つめながら、心底申し訳なさそうに微笑んだ。

「女の私から見ても、あなたとっても綺麗。こんな綺麗な女の子に泣くほど愛されてるなんて、メルヴィン隅に置けないわね」

 途端、キュッリッキは耳まで真っ赤になって「えと、えと」としどろもどろに慌てた。その様子にクスッと笑うと、

「あなたの王子様が、やっと迎えに来たわ」

 首を巡らせると、そこには粗く息をつくメルヴィンが立っていた。きっと全速力で走ってきたのだろう。

「ね、もうすぐバレンタインでしょ。メルヴィンにはね……」

 カーリーは手でキュッリッキの耳を隠すようにすると、囁くようにして何事かを話した。すると、キュッリッキは「ほえ?」と頭上にクエスチョンマークを点滅させる。

「物凄く効果的だと思うから、是非やってみてね」

 いたずらっぽくウインクすると、カーリーは立ち上がった。

 メルヴィンの前に立つと、カーリーはメルヴィンを見上げて微笑む。

「素敵な女の子ね。大事にしてあげるのよ、あなた本当に鈍いんだから」

 カーリーはにっこり微笑み、メルヴィンの胸を軽く拳でついて、街の方へ歩いて行ってしまった。

 去っていくカーリーの後ろ姿を見送ると、メルヴィンは木箱に座ったままのキュッリッキの前にしゃがみこんだ。

「あの、なんか、すみません…」

 泣きはらしたキュッリッキの顔を見て、メルヴィンは心底済まなそうに謝った。しかし何故キュッリッキがこれだけ泣いたのかは判っていなさそうだった。そのことに気づいて、キュッリッキは拗ねた表情をしたが、小さくクシャミをしてブルッと身体を震わせる。鞄に適当に服を詰め込んでそのままアジトを飛び出したため、コートもなにも着ていない。

 メルヴィンはハッとして立ち上がると、コートを脱いでキュッリッキの肩にかけて、そのまま抱き上げた。ニットのワンピースの裾から出る脚はすっかり冷え切っていて、それがメルヴィンを慌てさせた。

「風邪をひかないように、早くアジトへ帰りましょう」

 タイツ越しに伝わってくるメルヴィンの手の温もりが気持ちよく、キュッリッキは顔を真っ赤にしながらも、甘えるようにメルヴィンの肩に頬を寄せた。



 その頃ライオン傭兵団のアジトには、仕事をサボって抜け出してきたベルトルドが、山ほどの菓子やらケーキやらのお土産を手に、キュッリッキが帰ってくるのをニヤニヤしながら待っていた。

 カーリーから連絡が入った、と言って飛び出していったメルヴィンに全て任せているが、2人がいつ帰ってくるか判らない。

 ライオン傭兵団の面々は2人が早く帰ってくるよう、胃をキリキリさせ、神に祈りながら待っていた。
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