302 / 882
番外編1
クリスマス準備・4
しおりを挟む
メルヴィンに手を引かれながら、キュッリッキは一店舗一店舗ゆっくりと見て回った。
ぬいぐるみ、木彫りの置物、ガラス細工、食器、クリスマスツリーのミニチュア、クリスマスカード、全てその店のオリジナルで手作り品。見ているだけでも心躍るものがいっぱいだった。
昼間は静かなエルダー街と違い、たくさんの人々が買い物に訪れている。家族連れ、恋人同士、友達同士、一人など、ごった返すマーケットには、明るい声が飛び交い賑やかだ。
家族連れを見ると今でも心が寂しくなるが、でも今日はそれを上回るほど温かい気持ちになっている。
ちらりと手元を見る。
はぐれないようにと言いながら、しっかりとメルヴィンが手を握ってくれているのだ。
メルヴィンの手は大きく力強くて温かい。手袋なんていらないほどに、キュッリッキの小さな手を包み込んでくれている。
こうして一緒に手をつないで歩く姿は、周りにはどんな風に見えるんだろう? そんなことがふと気になってしまう。
(仲良しの兄妹とか? それとも、こ、こ、こぃ…恋人同士!? とか…)
もし恋人同士に見えていたらいいな、などと思いながら、キュッリッキはここへ来た目的も頭から蒸発して忘れそうなほど、顔を真っ赤にして俯いた。
(顔がトマトになっちゃうよぅ)
最近慣れてきた筈なのに、と思いつつも、胸のドキドキは止まらない。
「何がいいですかね~、迷うなあ」
キュッリッキの切ない乙女心にも気づかず、メルヴィンは店舗を色々眺めては、どれにしようかと決めあぐねているようだった。その呟く声に顔を上げると、ふと目に飛び込んできたものがある。
手作りのアクセサリー店のようだ。薄いガラスケースに特別に納められているそれは、綺麗な銀細工のペンダントだった。
なにかの葉を模した銀細工に、ただ一つだけ小さな粒のような宝石がついている。
青と白が柔らかく重なった、とろりとした半透明の石。
無言でメルヴィンの手から離れ、ケースの前に行く。
吸いこまれるようにそのペンダントを見つめていると、店主の男が声をかけてきた。
「ねーちゃんそれ、気に入ったのかい?」
「うん、綺麗な宝石がついてるのね。ちょっと変わってる」
「ああ。『エイルの涙』っていう珍しい石さ。これを首に下げてると、怪我も治るってぇご利益があるんだそうだぜ」
戦乙女ヴァルキュリアのひとり、エイルの名を冠した宝石。それと関連付ければご利益もあながちと思えなくもないが、キュッリッキは無性にこのペンダントが気に入ってしまった。こういうのを、一目惚れとでも言うのだろうか。
「買うかい?」
無理にすすめるわけでもなく、ただ聞いてみたといった口調の店主に促され、キュッリッキはコートのポケットから取り出した財布を開いてみた。
(うっ……予算オーバー)
ペンダントを買ってしまうと、プレゼントが買えなくなってしまう恐れがある。たとえ両方買えたとしても、明らかにプレゼントの質を落とす事になるだろう。
「今日はちょっとお金……足らないから、出直してくる」
心底ガッカリした様子のキュッリッキを見て、店主は気さくに笑った。
「クリスマス終わるまではここで店開いてっから、また来てくれ」
後ろ髪を引かれる思いで、待っているメルヴィンのもとへ戻る。
「ごめんね、プレゼント選びに戻ろ」
「ええ」
落ち込んでいるキュッリッキの手を取り、メルヴィンはちらりとアクセサリー店に目を向ける。
ケースに納まったままのペンダントを見て、どうやら買えなかったのだと察し、他の店へ促した。
ぬいぐるみ、木彫りの置物、ガラス細工、食器、クリスマスツリーのミニチュア、クリスマスカード、全てその店のオリジナルで手作り品。見ているだけでも心躍るものがいっぱいだった。
昼間は静かなエルダー街と違い、たくさんの人々が買い物に訪れている。家族連れ、恋人同士、友達同士、一人など、ごった返すマーケットには、明るい声が飛び交い賑やかだ。
家族連れを見ると今でも心が寂しくなるが、でも今日はそれを上回るほど温かい気持ちになっている。
ちらりと手元を見る。
はぐれないようにと言いながら、しっかりとメルヴィンが手を握ってくれているのだ。
メルヴィンの手は大きく力強くて温かい。手袋なんていらないほどに、キュッリッキの小さな手を包み込んでくれている。
こうして一緒に手をつないで歩く姿は、周りにはどんな風に見えるんだろう? そんなことがふと気になってしまう。
(仲良しの兄妹とか? それとも、こ、こ、こぃ…恋人同士!? とか…)
もし恋人同士に見えていたらいいな、などと思いながら、キュッリッキはここへ来た目的も頭から蒸発して忘れそうなほど、顔を真っ赤にして俯いた。
(顔がトマトになっちゃうよぅ)
最近慣れてきた筈なのに、と思いつつも、胸のドキドキは止まらない。
「何がいいですかね~、迷うなあ」
キュッリッキの切ない乙女心にも気づかず、メルヴィンは店舗を色々眺めては、どれにしようかと決めあぐねているようだった。その呟く声に顔を上げると、ふと目に飛び込んできたものがある。
手作りのアクセサリー店のようだ。薄いガラスケースに特別に納められているそれは、綺麗な銀細工のペンダントだった。
なにかの葉を模した銀細工に、ただ一つだけ小さな粒のような宝石がついている。
青と白が柔らかく重なった、とろりとした半透明の石。
無言でメルヴィンの手から離れ、ケースの前に行く。
吸いこまれるようにそのペンダントを見つめていると、店主の男が声をかけてきた。
「ねーちゃんそれ、気に入ったのかい?」
「うん、綺麗な宝石がついてるのね。ちょっと変わってる」
「ああ。『エイルの涙』っていう珍しい石さ。これを首に下げてると、怪我も治るってぇご利益があるんだそうだぜ」
戦乙女ヴァルキュリアのひとり、エイルの名を冠した宝石。それと関連付ければご利益もあながちと思えなくもないが、キュッリッキは無性にこのペンダントが気に入ってしまった。こういうのを、一目惚れとでも言うのだろうか。
「買うかい?」
無理にすすめるわけでもなく、ただ聞いてみたといった口調の店主に促され、キュッリッキはコートのポケットから取り出した財布を開いてみた。
(うっ……予算オーバー)
ペンダントを買ってしまうと、プレゼントが買えなくなってしまう恐れがある。たとえ両方買えたとしても、明らかにプレゼントの質を落とす事になるだろう。
「今日はちょっとお金……足らないから、出直してくる」
心底ガッカリした様子のキュッリッキを見て、店主は気さくに笑った。
「クリスマス終わるまではここで店開いてっから、また来てくれ」
後ろ髪を引かれる思いで、待っているメルヴィンのもとへ戻る。
「ごめんね、プレゼント選びに戻ろ」
「ええ」
落ち込んでいるキュッリッキの手を取り、メルヴィンはちらりとアクセサリー店に目を向ける。
ケースに納まったままのペンダントを見て、どうやら買えなかったのだと察し、他の店へ促した。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の許嫁
衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。
神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。
一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。
ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。
神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。
***
1部完結
2部より「幽世の理」とリンクします。
※「幽世の理」と同じ世界観です。

はじまりは初恋の終わりから~
秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。
心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。
生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。
三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。
そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。
「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」
「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」
三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる