300 / 882
番外編1
クリスマス準備・2
しおりを挟む
クリスマスを2週間後に控えたライオン傭兵団のアジトには、玄関ロビーと食堂に、そこそこ立派なもみの木に、派手に飾りつけをしたクリスマスツリーが置かれていた。
アジトの管理をしているキリ夫妻が、毎年飾りつけをしている。でも今年はキュッリッキが飾り付けをやりたがって大いに張り切り、彼女を手伝うためにメルヴィンとザカリーも手を貸した。
キリ夫妻は喜んで若者たちに任せたので、いつもとは違う感じの飾りつけになり、仲間たちはしげしげとツリーを眺めた。
「なんかこう……ハデだな」
テーブルに片肘をついて、ギャリーがしみじみと感想を漏らした。
キリ夫妻の飾りつけは、金銀のリボンや玉をぶら下げ、赤と黄緑のリンゴを模した飾りをちょうどいい案配で吊るす。それにみんな見慣れていたので、今年のツリーは異様に目を引いた。
「ゴテゴテの電飾がなくっても、ハデでいいわよねえ~」
「ツリーって個性が出るのね」
マリオンとルーファスが、やはりしみじみとこぼした。
金銀のリボンはもちろんのこと、リンゴに星に動物に菓子にカラフルな玉を吊るし、雪に見立てた綿もモコモコ飾っている。他にも横シマの靴下やら帽子などもぶら下がっているから、何でもありだ。
「アタシ、クリスマスツリーの飾り付けしたの初めてだから、楽しかった」
ココアのカップを両手で挟み込み、にっこりと満足そうにキュッリッキは微笑んだ。
キュッリッキは今までずっと、クリスマスをクリスマスらしく過ごしたことがない。毎年クリスマスは、仕事をしていたからだ。
クリスマスのある週は基本休日扱いになる。その為フリーの傭兵たちもクリスマスは休みたがる者が多く、とくに予定がない傭兵は、そのぶん仕事を回してもらっていた。
こうしてもみの木を飾り付けたり、クリスマスの特別な過ごし方など、キュッリッキにとっては初めての経験になるのだ。
「ねえねえ、クリスマスってなにをするの?」
昼食後、食堂でくつろいでいる仲間たちに、キュッリッキははしゃぐように問いかけた。
「24日はアジトでキリ夫妻も一緒に、みんなで飲めや歌えのパーティー、25日から27日までの3日間は、昼夜ぶっ通しでエルダー街中みんなで、ドンチャン騒ぎのパーティーになる」
「うわあ~」
キュッリッキの目がキラキラと輝いた。
「《豪快屋》のおやっさんの得意料理が、タダでいっぱい食べられるんだぜ」
それを楽しみにしている傭兵たちがいっぱいいるから、取り合いになるぞ、とギャリーが笑う。
「でも今年の取り合い参戦は、27日のみになりそうですよ」
カーティスが苦笑気味に話に入ってくる。
「25日はベルトルド卿のお屋敷のパーティーに全員招かれています。まあ26日は、いろんな意味で撃沈しているでしょうしねえ」
え~~~~~~っと、イヤイヤそうな声が食堂にどよめいた。そんな中、キュッリッキだけは更に目をキラキラさせながら、嬉しそうな表情を満面に浮かべていた。
つまりクリスマスとは、飲め、食え、酔え、歌え、踊れのドンチャン騒ぎをするのだと判った。
毎年クリスマス週間は、とくにパーティーが開かれることもなく、使用人たちは3日ほど休暇と一時金とプレゼントをいただいて、のんびりできる。ところが珍しく今年はパーティーを開くというので、使用人たちは準備で大わらわになっていた。
いまだ独身を貫く(?)あるじ2人は、招くより、招かれるほうが専門なのだ。
招待されている客たちが、貴族や資産家などの上流階級の人々ではなく、ライオン傭兵団のメンバーたちだと判っていても、使用人たちにとっては手の抜けないことにかわりはない。しかもキュッリッキがいるのだから、尚の事手を抜けるわけがないのだ。
玄関ロビー、食堂、サロン、応接間の4箇所にクリスマスツリーは飾られるが、今年はさらにキュッリッキの部屋、パーティールーム、そしてもう一箇所にも追加で飾られることになった。
「ツリーの準備、食材の手配、滞りないですかな」
セヴェリはリストを確かめながらリトヴァにたずねた。
「そこは問題ないのですが、お酒のほうをもう何ケースか追加しておかないと、たぶん足りなくなると思いますわ。ラッカとシマがこれだとすぐに尽きるかと」
ラッカはホロムイイチゴのお酒、シマは蜂蜜酒である。
「皆様たくさんお飲みになりますからの……」
「いっそ樽で全酒用意したほうが、いいのかもしれませんわね」
セヴェリとリトヴァは顔を見合わせ、ため息をついた。
アジトの管理をしているキリ夫妻が、毎年飾りつけをしている。でも今年はキュッリッキが飾り付けをやりたがって大いに張り切り、彼女を手伝うためにメルヴィンとザカリーも手を貸した。
キリ夫妻は喜んで若者たちに任せたので、いつもとは違う感じの飾りつけになり、仲間たちはしげしげとツリーを眺めた。
「なんかこう……ハデだな」
テーブルに片肘をついて、ギャリーがしみじみと感想を漏らした。
キリ夫妻の飾りつけは、金銀のリボンや玉をぶら下げ、赤と黄緑のリンゴを模した飾りをちょうどいい案配で吊るす。それにみんな見慣れていたので、今年のツリーは異様に目を引いた。
「ゴテゴテの電飾がなくっても、ハデでいいわよねえ~」
「ツリーって個性が出るのね」
マリオンとルーファスが、やはりしみじみとこぼした。
金銀のリボンはもちろんのこと、リンゴに星に動物に菓子にカラフルな玉を吊るし、雪に見立てた綿もモコモコ飾っている。他にも横シマの靴下やら帽子などもぶら下がっているから、何でもありだ。
「アタシ、クリスマスツリーの飾り付けしたの初めてだから、楽しかった」
ココアのカップを両手で挟み込み、にっこりと満足そうにキュッリッキは微笑んだ。
キュッリッキは今までずっと、クリスマスをクリスマスらしく過ごしたことがない。毎年クリスマスは、仕事をしていたからだ。
クリスマスのある週は基本休日扱いになる。その為フリーの傭兵たちもクリスマスは休みたがる者が多く、とくに予定がない傭兵は、そのぶん仕事を回してもらっていた。
こうしてもみの木を飾り付けたり、クリスマスの特別な過ごし方など、キュッリッキにとっては初めての経験になるのだ。
「ねえねえ、クリスマスってなにをするの?」
昼食後、食堂でくつろいでいる仲間たちに、キュッリッキははしゃぐように問いかけた。
「24日はアジトでキリ夫妻も一緒に、みんなで飲めや歌えのパーティー、25日から27日までの3日間は、昼夜ぶっ通しでエルダー街中みんなで、ドンチャン騒ぎのパーティーになる」
「うわあ~」
キュッリッキの目がキラキラと輝いた。
「《豪快屋》のおやっさんの得意料理が、タダでいっぱい食べられるんだぜ」
それを楽しみにしている傭兵たちがいっぱいいるから、取り合いになるぞ、とギャリーが笑う。
「でも今年の取り合い参戦は、27日のみになりそうですよ」
カーティスが苦笑気味に話に入ってくる。
「25日はベルトルド卿のお屋敷のパーティーに全員招かれています。まあ26日は、いろんな意味で撃沈しているでしょうしねえ」
え~~~~~~っと、イヤイヤそうな声が食堂にどよめいた。そんな中、キュッリッキだけは更に目をキラキラさせながら、嬉しそうな表情を満面に浮かべていた。
つまりクリスマスとは、飲め、食え、酔え、歌え、踊れのドンチャン騒ぎをするのだと判った。
毎年クリスマス週間は、とくにパーティーが開かれることもなく、使用人たちは3日ほど休暇と一時金とプレゼントをいただいて、のんびりできる。ところが珍しく今年はパーティーを開くというので、使用人たちは準備で大わらわになっていた。
いまだ独身を貫く(?)あるじ2人は、招くより、招かれるほうが専門なのだ。
招待されている客たちが、貴族や資産家などの上流階級の人々ではなく、ライオン傭兵団のメンバーたちだと判っていても、使用人たちにとっては手の抜けないことにかわりはない。しかもキュッリッキがいるのだから、尚の事手を抜けるわけがないのだ。
玄関ロビー、食堂、サロン、応接間の4箇所にクリスマスツリーは飾られるが、今年はさらにキュッリッキの部屋、パーティールーム、そしてもう一箇所にも追加で飾られることになった。
「ツリーの準備、食材の手配、滞りないですかな」
セヴェリはリストを確かめながらリトヴァにたずねた。
「そこは問題ないのですが、お酒のほうをもう何ケースか追加しておかないと、たぶん足りなくなると思いますわ。ラッカとシマがこれだとすぐに尽きるかと」
ラッカはホロムイイチゴのお酒、シマは蜂蜜酒である。
「皆様たくさんお飲みになりますからの……」
「いっそ樽で全酒用意したほうが、いいのかもしれませんわね」
セヴェリとリトヴァは顔を見合わせ、ため息をついた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる