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番外編1
クリスマス準備・1
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「ちょっとやーだ、なんなのよもーコレ」
足元を埋め尽くす勢いで床に散らかるカタログの数々を見て、リュリュは素っ頓狂な声を上げる。ケレヴィル本部から帰ってくると、副宰相の広大な執務室は凄い勢いで散らかっていた。一体いつの間に持ち込んだのだろうか。
カタログの一つを拾い上げ、ペラリと開いてみる。
「クリスマス限定ドレスぅ? アールクヴィストってこんなカタログ配ってんのオ」
もう一つ拾って開いてみると、
「あら、バーリグレーンのクリスマス限定ダイアの指輪ですって、欲しいわあ」
アールクヴィストもバーリグレーンも、惑星ヒイシでは超一流のファッションブランドである。世界中に支店を開き、本店はここハワドウレ皇国の皇都イララクスのハーメンリンナにある。王侯貴族や資産家たちの、憧れのブランドでもあるのだ。
それだけではなく、よく見ると他にも色んな高級品のカタログが散乱していた。
陽の差す明るく暖かい場所に胡座をかいて、熱心にカタログを見ているベルトルドは、肩ごしに振り向いて「おう」と無愛想にリュリュに応えた。
「一人でお片づけも出来ないのに、こんなに散らかして。アタシ手伝わないからねっ」
「オカマがキャンキャン騒ぐな,
喧しい」
「ンまっ、失礼しちゃう!」
両手を腰に当てて憤ってみる。しかしあまりにも熱心にカタログに集中しているベルトルドに興味が沸いて、そっと後ろに立って覗き込んだ。
「宮廷のメス豚共にくれてやる、クリスマスプレゼントでも選んでるわけ?」
「いや、リッキーへのプレゼントで悩んでる」
「小娘のものだけ?」
「うん」
今開いているのは、高級ブランド製バッグなどが載っているページだ。
キュッリッキの姿を思い浮かべ、載っているバッグを持たせるイメージを作る。
(あんまり、似合わないわね…)
子供っぽい雰囲気の方が目立つキュッリッキには、オトナなデザインの高級バッグはまだ早い。むしろ、愛らしい少女が持つ甘ったるいデザインのほうが、まだいいんじゃないだろうかとリュリュは思った。
ベルトルドもそう思うからこそ、悩んでいるようだ。
「リッキーの好みが判らんからなあ、選ぶのが難しい」
「あらあ、いつもは勝手に心覗き見してんでしょ。それで見えた欲しいものでも、くれてやればいいじゃない」
「珍しく見えなかった」
「あらン」
「それほど物欲がないんだあの子は。それに今のリッキーは、心が満たされている。――強いて言えば、欲しいものは一つだ」
急に憮然とした声になったベルトルドに、リュリュは面白そうに口元を歪めた。
「物品じゃあないようね」
「声に出して言いたくない!」
フンッと突っぱねるように鼻息をついて、手にしていたカタログを閉じると、横に放り投げて、別の新しいカタログを手にして乱暴に開いた。
その頃アルカネットも、デスクにうず高く積まれたカタログを丹念に覗き込み、ため息とともにページを閉じて、新しいカタログを開く作業に没頭していた。
「あ、あのぉ、アルカネット長官……」
「なんですか」
「これらの書類にサインをいただきたいのですけれど……」
副官のヘイディ少佐は、大事に抱きしめる書類を、恐る恐るアルカネットに差し出す。しかし、
「そんなものは、あなたが適当にサインしておいてください」
「そういうわけにはいきませんっ」
薄く化粧をはいた顔を悲壮感に包み込み、ヘイディ少佐は頭を下げた。
「他にも今日の業務が滞っています。お願いですから……」
「プレゼント選びで私は忙しいのです。察してあなた方が代行して片付けちゃって下さい。お礼はあとでまとめてします」
そういう問題じゃないんですけどーっ! とヘイディ少佐は心の中で悲鳴を上げた。何故執務室のデスクで、プレゼント用カタログなど開いているんだろうと泣きたい。
「クリスマス当日に間に合わせるためには、今日中に申し込みをしておかないといけないとか。全く巫山戯た話です」
ページを忙しくめくりながら、アルカネットはふと気づいたかのように、「あっ」と顔を上げて副官を見る。
「年若い女性は、どんなものが欲しいのでしょう?」
足元を埋め尽くす勢いで床に散らかるカタログの数々を見て、リュリュは素っ頓狂な声を上げる。ケレヴィル本部から帰ってくると、副宰相の広大な執務室は凄い勢いで散らかっていた。一体いつの間に持ち込んだのだろうか。
カタログの一つを拾い上げ、ペラリと開いてみる。
「クリスマス限定ドレスぅ? アールクヴィストってこんなカタログ配ってんのオ」
もう一つ拾って開いてみると、
「あら、バーリグレーンのクリスマス限定ダイアの指輪ですって、欲しいわあ」
アールクヴィストもバーリグレーンも、惑星ヒイシでは超一流のファッションブランドである。世界中に支店を開き、本店はここハワドウレ皇国の皇都イララクスのハーメンリンナにある。王侯貴族や資産家たちの、憧れのブランドでもあるのだ。
それだけではなく、よく見ると他にも色んな高級品のカタログが散乱していた。
陽の差す明るく暖かい場所に胡座をかいて、熱心にカタログを見ているベルトルドは、肩ごしに振り向いて「おう」と無愛想にリュリュに応えた。
「一人でお片づけも出来ないのに、こんなに散らかして。アタシ手伝わないからねっ」
「オカマがキャンキャン騒ぐな,
喧しい」
「ンまっ、失礼しちゃう!」
両手を腰に当てて憤ってみる。しかしあまりにも熱心にカタログに集中しているベルトルドに興味が沸いて、そっと後ろに立って覗き込んだ。
「宮廷のメス豚共にくれてやる、クリスマスプレゼントでも選んでるわけ?」
「いや、リッキーへのプレゼントで悩んでる」
「小娘のものだけ?」
「うん」
今開いているのは、高級ブランド製バッグなどが載っているページだ。
キュッリッキの姿を思い浮かべ、載っているバッグを持たせるイメージを作る。
(あんまり、似合わないわね…)
子供っぽい雰囲気の方が目立つキュッリッキには、オトナなデザインの高級バッグはまだ早い。むしろ、愛らしい少女が持つ甘ったるいデザインのほうが、まだいいんじゃないだろうかとリュリュは思った。
ベルトルドもそう思うからこそ、悩んでいるようだ。
「リッキーの好みが判らんからなあ、選ぶのが難しい」
「あらあ、いつもは勝手に心覗き見してんでしょ。それで見えた欲しいものでも、くれてやればいいじゃない」
「珍しく見えなかった」
「あらン」
「それほど物欲がないんだあの子は。それに今のリッキーは、心が満たされている。――強いて言えば、欲しいものは一つだ」
急に憮然とした声になったベルトルドに、リュリュは面白そうに口元を歪めた。
「物品じゃあないようね」
「声に出して言いたくない!」
フンッと突っぱねるように鼻息をついて、手にしていたカタログを閉じると、横に放り投げて、別の新しいカタログを手にして乱暴に開いた。
その頃アルカネットも、デスクにうず高く積まれたカタログを丹念に覗き込み、ため息とともにページを閉じて、新しいカタログを開く作業に没頭していた。
「あ、あのぉ、アルカネット長官……」
「なんですか」
「これらの書類にサインをいただきたいのですけれど……」
副官のヘイディ少佐は、大事に抱きしめる書類を、恐る恐るアルカネットに差し出す。しかし、
「そんなものは、あなたが適当にサインしておいてください」
「そういうわけにはいきませんっ」
薄く化粧をはいた顔を悲壮感に包み込み、ヘイディ少佐は頭を下げた。
「他にも今日の業務が滞っています。お願いですから……」
「プレゼント選びで私は忙しいのです。察してあなた方が代行して片付けちゃって下さい。お礼はあとでまとめてします」
そういう問題じゃないんですけどーっ! とヘイディ少佐は心の中で悲鳴を上げた。何故執務室のデスクで、プレゼント用カタログなど開いているんだろうと泣きたい。
「クリスマス当日に間に合わせるためには、今日中に申し込みをしておかないといけないとか。全く巫山戯た話です」
ページを忙しくめくりながら、アルカネットはふと気づいたかのように、「あっ」と顔を上げて副官を見る。
「年若い女性は、どんなものが欲しいのでしょう?」
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