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番外編1
ベルトルドの桃色天国・1
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戦争が近いため、ベルトルドは毎日仕事に忙殺されていた。こなしてもこなしても、仕事は減ることなく増えていく。
起きて出仕してから寝る直前まで仕事がついてまわり、今もベッドに入ってまで、書類の山に目を通している有様だ。
今日はアルカネットが残業のため、いまだに帰宅せずいる。折角キュッリッキと2人きりで、甘い夜を過ごせると気合が入っていたベルトルドだが、帰り際にリュリュから押し付けられた書類に全部目を通さねばならず、寝間着に着替えてベッドに入ると、どっさりある書類に片っ端から取り組んでいた。
キュッリッキの大怪我も快方に向かい、今ではだいぶ身体も自由に動かせるまで元気になっている。精神的にも落ち着いてきて、夜中に夢を見て荒れることも少なくなってきた。
もう一緒に添い寝する必要もないのだが、ベルトルドもアルカネットも、キュッリッキと少しでも一緒にいたくて、毎晩部屋に押しかけて川の字になって寝ていた。
寝るにはまだ若干早い時間だったが、可愛らしい寝間着――ベルトルドが選んだ微妙に肌の透ける素材で作られた甘ったるいデザインのベビードール――に着替えていたキュッリッキもベッドに入り、寝転がりながらベルトルドをじっと見つめていた。
(ベルトルドさん帰ってきてもお仕事ばっかり。また入院しちゃったらタイヘンなのになあ…)
入院していた時のベルトルドを思い出すと、無理はして欲しくないと思うのだ。
(きっと眠いよね。それでも我慢して、お仕事してるんだろうなあ)
身体を壊さないように、早く眠って欲しい。身体を休めて欲しい。
だんだんベルトルドが可哀想に思えて、キュッリッキは小さく肩をすくめた。
書類もあと10枚ほどになり、やっと終わる。そう思ったとき、突き刺さるようにじっと見つめてくるキュッリッキの視線が、妙に気になった。
愛くるしい目で、じっとこちらを見ている。
その美しくも可愛らしい顔をニコリともさせず、真剣な表情でベルトルドを見つめているのだ。
(ごめんな、リッキー…)
最近忙しすぎて、あまり会話をしていない。きっと話したいことが山ほどあるのだろう。それでも仕事の邪魔をしないように、じっと我慢していると思うと、その心遣いがいじらしくてたまらない。
こんな無粋な仕事は早く終わらせて、たっぷり話をしてやらなくては。いっそう気合を入れて書類に取り組んでいると、
「我慢しなくていいんだよ」
そう、キュッリッキが真顔で言った。
ベルトルドはハッとして顔を上げ、次いでキュッリッキを見た。
(我慢しなくてもいい……)
心に切なく響くその言葉。
(我慢しなくても、いい……)
堪えていたものが、ふつふつとベルトルドの心に湧き上がってきた。
我慢。そう、我慢していた。
ずっと、ずっと、我慢しまくっていた。
精一杯の自制心と、剛鉄の意思を総動員して我慢していた!
それを、この愛しい少女自ら、我慢しなくていいと言っている――
ベルトルドの頭は瞬時に桃源郷にぶっ飛んだ。目の前は桃色に染まり、甘美で狂おしいまでの黄金の波が、心の淵にザッパーンと押し寄せてくる。
(我慢なんてするものか!)
猛り狂う嵐のような咆哮を心で挙げ、脳内は光速で演算を開始した。
起きて出仕してから寝る直前まで仕事がついてまわり、今もベッドに入ってまで、書類の山に目を通している有様だ。
今日はアルカネットが残業のため、いまだに帰宅せずいる。折角キュッリッキと2人きりで、甘い夜を過ごせると気合が入っていたベルトルドだが、帰り際にリュリュから押し付けられた書類に全部目を通さねばならず、寝間着に着替えてベッドに入ると、どっさりある書類に片っ端から取り組んでいた。
キュッリッキの大怪我も快方に向かい、今ではだいぶ身体も自由に動かせるまで元気になっている。精神的にも落ち着いてきて、夜中に夢を見て荒れることも少なくなってきた。
もう一緒に添い寝する必要もないのだが、ベルトルドもアルカネットも、キュッリッキと少しでも一緒にいたくて、毎晩部屋に押しかけて川の字になって寝ていた。
寝るにはまだ若干早い時間だったが、可愛らしい寝間着――ベルトルドが選んだ微妙に肌の透ける素材で作られた甘ったるいデザインのベビードール――に着替えていたキュッリッキもベッドに入り、寝転がりながらベルトルドをじっと見つめていた。
(ベルトルドさん帰ってきてもお仕事ばっかり。また入院しちゃったらタイヘンなのになあ…)
入院していた時のベルトルドを思い出すと、無理はして欲しくないと思うのだ。
(きっと眠いよね。それでも我慢して、お仕事してるんだろうなあ)
身体を壊さないように、早く眠って欲しい。身体を休めて欲しい。
だんだんベルトルドが可哀想に思えて、キュッリッキは小さく肩をすくめた。
書類もあと10枚ほどになり、やっと終わる。そう思ったとき、突き刺さるようにじっと見つめてくるキュッリッキの視線が、妙に気になった。
愛くるしい目で、じっとこちらを見ている。
その美しくも可愛らしい顔をニコリともさせず、真剣な表情でベルトルドを見つめているのだ。
(ごめんな、リッキー…)
最近忙しすぎて、あまり会話をしていない。きっと話したいことが山ほどあるのだろう。それでも仕事の邪魔をしないように、じっと我慢していると思うと、その心遣いがいじらしくてたまらない。
こんな無粋な仕事は早く終わらせて、たっぷり話をしてやらなくては。いっそう気合を入れて書類に取り組んでいると、
「我慢しなくていいんだよ」
そう、キュッリッキが真顔で言った。
ベルトルドはハッとして顔を上げ、次いでキュッリッキを見た。
(我慢しなくてもいい……)
心に切なく響くその言葉。
(我慢しなくても、いい……)
堪えていたものが、ふつふつとベルトルドの心に湧き上がってきた。
我慢。そう、我慢していた。
ずっと、ずっと、我慢しまくっていた。
精一杯の自制心と、剛鉄の意思を総動員して我慢していた!
それを、この愛しい少女自ら、我慢しなくていいと言っている――
ベルトルドの頭は瞬時に桃源郷にぶっ飛んだ。目の前は桃色に染まり、甘美で狂おしいまでの黄金の波が、心の淵にザッパーンと押し寄せてくる。
(我慢なんてするものか!)
猛り狂う嵐のような咆哮を心で挙げ、脳内は光速で演算を開始した。
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