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初恋の予感編
episode287
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それは、靄けぶる早朝のことだった。
突然ベルトルドに念話で叩き起され、驚いた拍子に横で寝ていたマーゴットに肘鉄を食らわせてしまった。幸い彼女は唸り声を上げただけで、目は覚まさなかった。
(おはようございます、なんですか……、ムゥ…まだ4時じゃないですかっ!)
カーティスは枕元の小さな置時計を手に取って時間を確かめると、眉間を不愉快そうに寄せた。
昨日ソレル王国に居残っていたザカリー、マリオン、マーゴットの3人が帰ってきて、久しぶりにマーゴットとベッドを共にして、気分良く寝ていたらこれである。
(やることやったあとだから、別にいいだろう)
(………)
いいわけあるか、と念話にではなく小声でぼやく。
(早速だが、今日の昼過ぎに俺の屋敷にこい。マーゴットとブルニタルは留守番、その他全員、1ヶ月ぶんくらいの着替え諸々荷造りしておけ)
(はぁ……?)
(荷造り終わったら、食堂にでも集めておけ。俺のサイ《超能力》で屋敷まで転移させるから)
(はぁ…)
(詳細はこちらで話す。以上だ)
そこで念話はきれて、カーティスはまだ眠気の満ちる頭で何事か考えようとしたが、アレコレ考えてもしょうがないとの結論に達し、再び眠りに就いた。
早朝のことを思い浮かべ、カーティスはベッドの上のベルトルドを軽く睨む。
「これだけの人数を一度に飛ばすと、さすがに堪えるな……」
現在確認されているサイ《超能力》保持者の中で、ベルトルドにしかできないと言われる空間転移。どんなものでも瞬時に空間を移動させられるのだ。
ただ飛ばす量が多いと身体に負担がかかるようで、この場にヴィヒトリがいたら軽く睨まれるところだった。
本当に億劫そうにベルトルドは横になり、シレっとキュッリッキの膝の上に頭を乗せた。
「あああ!! おっさんなにしてるんだ!!」
気づいたザカリーが、指をさして怒鳴る。
「見ればわかるだろう、リッキーに膝枕してもらっている」
横になりながらも腕を組み、さも当然といった体で答える。しかもドヤ顔である。そのふてぶてしい態度が、ザカリーの怒りを煽りまくった。
「何を羨ましいことをヌケヌケと……」
拳を握り締め、悔しさのあまりザカリーは唇を戦慄かせた。足元でハーマンが「よしよし」と同情を滲ませ足を叩く。
キュッリッキは突然のことで事態を飲み込めていなかったが、膝の上に頭をのせたベルトルドのことはどうでもよく、かなりのテンポをずらして「みんな~」と嬉しそうに声をかけた。
「天然入りすぎだぞキューリ」
反応の鈍さに、ギャリーが肩を落としてツッコんだ。
「さて、我々をお呼びになった理由を、お聞かせください」
カーティスが努めて冷静に言うと、ベルトルドはフンッと鼻息をついた。
「今日からお前ら、俺の屋敷で合宿だ」
かなりの間を置いたあと。
「なんだってえええええ!!?」
と、絶叫が屋敷中に轟いた。
「北の棟に部屋を用意してやった。細かいことはセヴェリに一任してあるから、あとで指示を仰げ」
冗談じゃねえ、という空気が憚ることなく露骨に漂う。
「合宿ってどんなことするの?」
この空気の中にあって、ただひとり嬉しそうな声を出すのはキュッリッキだった。合宿という単語に、なにか楽しそうな雰囲気を感じたらしい。ベルトルドはニッコリとキュッリッキに微笑んだ。
「今日からしばらくの間、こいつらも俺の屋敷で寝泊りするんだよ」
「みんなと一緒!」
キュッリッキの顔がみるみる喜びで輝く。
これなら毎日でもみんなと一緒にいられる。それを思うと、キュッリッキは嬉しくて嬉しくて心が弾んだ。
突然ベルトルドに念話で叩き起され、驚いた拍子に横で寝ていたマーゴットに肘鉄を食らわせてしまった。幸い彼女は唸り声を上げただけで、目は覚まさなかった。
(おはようございます、なんですか……、ムゥ…まだ4時じゃないですかっ!)
カーティスは枕元の小さな置時計を手に取って時間を確かめると、眉間を不愉快そうに寄せた。
昨日ソレル王国に居残っていたザカリー、マリオン、マーゴットの3人が帰ってきて、久しぶりにマーゴットとベッドを共にして、気分良く寝ていたらこれである。
(やることやったあとだから、別にいいだろう)
(………)
いいわけあるか、と念話にではなく小声でぼやく。
(早速だが、今日の昼過ぎに俺の屋敷にこい。マーゴットとブルニタルは留守番、その他全員、1ヶ月ぶんくらいの着替え諸々荷造りしておけ)
(はぁ……?)
(荷造り終わったら、食堂にでも集めておけ。俺のサイ《超能力》で屋敷まで転移させるから)
(はぁ…)
(詳細はこちらで話す。以上だ)
そこで念話はきれて、カーティスはまだ眠気の満ちる頭で何事か考えようとしたが、アレコレ考えてもしょうがないとの結論に達し、再び眠りに就いた。
早朝のことを思い浮かべ、カーティスはベッドの上のベルトルドを軽く睨む。
「これだけの人数を一度に飛ばすと、さすがに堪えるな……」
現在確認されているサイ《超能力》保持者の中で、ベルトルドにしかできないと言われる空間転移。どんなものでも瞬時に空間を移動させられるのだ。
ただ飛ばす量が多いと身体に負担がかかるようで、この場にヴィヒトリがいたら軽く睨まれるところだった。
本当に億劫そうにベルトルドは横になり、シレっとキュッリッキの膝の上に頭を乗せた。
「あああ!! おっさんなにしてるんだ!!」
気づいたザカリーが、指をさして怒鳴る。
「見ればわかるだろう、リッキーに膝枕してもらっている」
横になりながらも腕を組み、さも当然といった体で答える。しかもドヤ顔である。そのふてぶてしい態度が、ザカリーの怒りを煽りまくった。
「何を羨ましいことをヌケヌケと……」
拳を握り締め、悔しさのあまりザカリーは唇を戦慄かせた。足元でハーマンが「よしよし」と同情を滲ませ足を叩く。
キュッリッキは突然のことで事態を飲み込めていなかったが、膝の上に頭をのせたベルトルドのことはどうでもよく、かなりのテンポをずらして「みんな~」と嬉しそうに声をかけた。
「天然入りすぎだぞキューリ」
反応の鈍さに、ギャリーが肩を落としてツッコんだ。
「さて、我々をお呼びになった理由を、お聞かせください」
カーティスが努めて冷静に言うと、ベルトルドはフンッと鼻息をついた。
「今日からお前ら、俺の屋敷で合宿だ」
かなりの間を置いたあと。
「なんだってえええええ!!?」
と、絶叫が屋敷中に轟いた。
「北の棟に部屋を用意してやった。細かいことはセヴェリに一任してあるから、あとで指示を仰げ」
冗談じゃねえ、という空気が憚ることなく露骨に漂う。
「合宿ってどんなことするの?」
この空気の中にあって、ただひとり嬉しそうな声を出すのはキュッリッキだった。合宿という単語に、なにか楽しそうな雰囲気を感じたらしい。ベルトルドはニッコリとキュッリッキに微笑んだ。
「今日からしばらくの間、こいつらも俺の屋敷で寝泊りするんだよ」
「みんなと一緒!」
キュッリッキの顔がみるみる喜びで輝く。
これなら毎日でもみんなと一緒にいられる。それを思うと、キュッリッキは嬉しくて嬉しくて心が弾んだ。
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