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初恋の予感編
episode285
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ベルトルドは記憶を辿るように目を細める。
「俺とアルカネット、そして彼女とは、幼馴染だった」
目を閉じ、昔のことに思いを馳せた。
「隣近所で、何をするのも一緒、俺もアルカネットも彼女が大好きだった。それが恋に発展するのも、アルカネットと同じ時期でな」
キュッリッキは黙って聞いている。
「だがアルカネットの奴が上手(うわて)で、彼女に告白するから、俺には引き下がれと面と向かって宣言されてしまった」
「アルカネットさん………」
「俺は2人が大好きだったから、2人が恋人同士になるのは構わなかった。――だから俺は、恋をしそこねたのさ」
ベルトルドの表情には悔しさも無念さもない。ただの思い出話を懐かしく語るだけの、とても穏やかな顔だった。
「恋は良いもんだな。リッキーがそばにいるだけで幸せだ。キスもしてもらったし」
「あ…あれは、別に恋とかじゃなくって、その、か…感謝のキモチだからねっ!」
思わずムキになって身を乗り出すと、ベルトルドはククッと笑う。
「アルカネットに見せつけてやれたから、なんにせよ大満足だ、俺は」
「もぉ……」
オマケにメルヴィンの前でも見せつけてしまったことを思い出して、キュッリッキはふくれっ面になった。
「今まで色んな女どもと関係をもってきたが、我を忘れるほどのキスは、これまで一度もなかったなあ……」
ハァ…とため息をついて、ベルトルドは記憶に残る女達のことを思い出す。
「顔や見てくれはイイんだがな、欲求不満の解消にはなったが、恋だの愛だのに発展しなかった。若い頃から随分の数の女を相手にしてきたが、恐ろしい程身体の関係だけで終わった」
ちなみに今も若いぞ、と真顔で釘を刺す。
「俺はロリコンだったのか…とも思ったが、リッキーくらいの歳の少女も何人か迫ってきたが、まあ当然追い払ったがな。さすがに欲情はわかなかった」
「ふーん…」
ベルトルドの女性遍歴告白に、どう反応していいのか困って、キュッリッキはわざと気のない返事をするだけだった。
「今はもうリッキーに恋をしているから、俺は満足だ」
無邪気に笑いかけられて、キュッリッキは僅かに頬を赤らめた。
「リッキーが俺以外の誰かに恋をしていても、俺は構わない。リッキーを好きで、愛しているのは俺の意思だしな。もちろんリッキーが、俺に恋をしてくれると、最高に嬉しいんだが」
「ベルトルドさん……」
ベルトルドのことは大好きだ。でもそれは恋愛感情とは違う。父親のようなだいじな存在だ。だからひとりの異性として、意識することは出来なかった。
これまで種族のこと、生い立ちのこと、コンプレックスのことなどが心に障壁を作って、人を好きになることや、愛することとは無縁だった。ファニーやハドリーに友誼を感じるまでには、随分時間を要したくらいだ。
2人と出会うまでは、人を信じることが全く出来なかったのだ。
全ての人間は敵であり、自分を責め苛む存在だった。少しでも心を許せば、隠していたい秘密が暴かれる。信じられるのはフェンリルやアルケラの住人たちだけだ。アルケラの住人たちだけは絶対にキュッリッキを裏切らない。
でも心のどこかでは、温かい家庭、優しい両親、親しく心許せる友達が欲しかった。
時折街で幸せそうな家族や友達同士の他人を見かけると、胸の奥が苦しくなり辛かった。今も辛いと感じるが、昔はさらに酷かった。
ファニーもハドリーも家族のことは一切話さない。3人とも互の境遇には一切触れないし、そのことが2人を受け入れた最大の理由だ。もし2人が家族のことを嬉しそうに話していれば、キュッリッキは心を開かなかっただろう。心を開けたから、少しだけ自分の秘密を話すことができた。
そんな中、ライオン傭兵団に勧誘され入団すると、初めて居心地の良さを感じた。自分にも居場所ができたと思うことができた。そしてベルトルドとアルカネットと出会い、全てを曝け出し、ありのままの自分を出すことができたのだ。
こうして、恋というものが出来るまでになった。
ベルトルドには感謝してもしきれないほどの恩義を感じている。でも、それでも恋愛感情となれば話は別だった。
「俺とアルカネット、そして彼女とは、幼馴染だった」
目を閉じ、昔のことに思いを馳せた。
「隣近所で、何をするのも一緒、俺もアルカネットも彼女が大好きだった。それが恋に発展するのも、アルカネットと同じ時期でな」
キュッリッキは黙って聞いている。
「だがアルカネットの奴が上手(うわて)で、彼女に告白するから、俺には引き下がれと面と向かって宣言されてしまった」
「アルカネットさん………」
「俺は2人が大好きだったから、2人が恋人同士になるのは構わなかった。――だから俺は、恋をしそこねたのさ」
ベルトルドの表情には悔しさも無念さもない。ただの思い出話を懐かしく語るだけの、とても穏やかな顔だった。
「恋は良いもんだな。リッキーがそばにいるだけで幸せだ。キスもしてもらったし」
「あ…あれは、別に恋とかじゃなくって、その、か…感謝のキモチだからねっ!」
思わずムキになって身を乗り出すと、ベルトルドはククッと笑う。
「アルカネットに見せつけてやれたから、なんにせよ大満足だ、俺は」
「もぉ……」
オマケにメルヴィンの前でも見せつけてしまったことを思い出して、キュッリッキはふくれっ面になった。
「今まで色んな女どもと関係をもってきたが、我を忘れるほどのキスは、これまで一度もなかったなあ……」
ハァ…とため息をついて、ベルトルドは記憶に残る女達のことを思い出す。
「顔や見てくれはイイんだがな、欲求不満の解消にはなったが、恋だの愛だのに発展しなかった。若い頃から随分の数の女を相手にしてきたが、恐ろしい程身体の関係だけで終わった」
ちなみに今も若いぞ、と真顔で釘を刺す。
「俺はロリコンだったのか…とも思ったが、リッキーくらいの歳の少女も何人か迫ってきたが、まあ当然追い払ったがな。さすがに欲情はわかなかった」
「ふーん…」
ベルトルドの女性遍歴告白に、どう反応していいのか困って、キュッリッキはわざと気のない返事をするだけだった。
「今はもうリッキーに恋をしているから、俺は満足だ」
無邪気に笑いかけられて、キュッリッキは僅かに頬を赤らめた。
「リッキーが俺以外の誰かに恋をしていても、俺は構わない。リッキーを好きで、愛しているのは俺の意思だしな。もちろんリッキーが、俺に恋をしてくれると、最高に嬉しいんだが」
「ベルトルドさん……」
ベルトルドのことは大好きだ。でもそれは恋愛感情とは違う。父親のようなだいじな存在だ。だからひとりの異性として、意識することは出来なかった。
これまで種族のこと、生い立ちのこと、コンプレックスのことなどが心に障壁を作って、人を好きになることや、愛することとは無縁だった。ファニーやハドリーに友誼を感じるまでには、随分時間を要したくらいだ。
2人と出会うまでは、人を信じることが全く出来なかったのだ。
全ての人間は敵であり、自分を責め苛む存在だった。少しでも心を許せば、隠していたい秘密が暴かれる。信じられるのはフェンリルやアルケラの住人たちだけだ。アルケラの住人たちだけは絶対にキュッリッキを裏切らない。
でも心のどこかでは、温かい家庭、優しい両親、親しく心許せる友達が欲しかった。
時折街で幸せそうな家族や友達同士の他人を見かけると、胸の奥が苦しくなり辛かった。今も辛いと感じるが、昔はさらに酷かった。
ファニーもハドリーも家族のことは一切話さない。3人とも互の境遇には一切触れないし、そのことが2人を受け入れた最大の理由だ。もし2人が家族のことを嬉しそうに話していれば、キュッリッキは心を開かなかっただろう。心を開けたから、少しだけ自分の秘密を話すことができた。
そんな中、ライオン傭兵団に勧誘され入団すると、初めて居心地の良さを感じた。自分にも居場所ができたと思うことができた。そしてベルトルドとアルカネットと出会い、全てを曝け出し、ありのままの自分を出すことができたのだ。
こうして、恋というものが出来るまでになった。
ベルトルドには感謝してもしきれないほどの恩義を感じている。でも、それでも恋愛感情となれば話は別だった。
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