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初恋の予感編
episode284
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7月に入った皇都イララクスには、暑い夏の日差しが降り注いでいた。
この地域の湿度は、それほど高くはない。陽の照っている場所ではうだるように暑いが、日陰に入ると途端に涼しく気持ちがいい。
ハーメンリンナは温度管理がされているし、ベルトルド邸の敷地には特別緑が多く生い茂っているので、夏場でも屋敷の中に気持ちのいい風が吹き込んでいる。
窓は全て開け放たれていたが、薄い麻のカーテンで日除けがされて、室内は柔らかな明るさに満ちていた。
「こうしてのんびりするのも悪くないな。病院だとごめんだが、リッキーと一緒だから気分がいい」
頭の下で両手を組んで、ベッドにごろりと寝転がりながら、ベルトルドは気持ちよさそうに言った。その傍らにぺたりと座っているキュッリッキは、冷たいオレンジジュースをストローで啜りながら、小さく肩をすくめた。
昨日退院――半ば逃亡――したベルトルドは、キュッリッキの前でだいじなコレクションが発覚して、大顰蹙を買った。
原因を作ったルーファスにたっぷり制裁を加えたあと、ベルトルドはコメツキバッタのごとく土下座までして、必死にキュッリッキに謝って怒りを解いて今に至る。
キュッリッキの信頼を取り戻すため、ベルトルドは血の涙を流しながら、だいじなコレクションをアルカネットの魔法で、全部焼却処分した。その陰でルーファスも滝のような涙を流したのは、言うまでもない。
「ちょっと見ない間に、変わったかな、リッキー」
「え?」
「雰囲気が少し変わった気がするぞ。それも、いい感じに」
相変わらずベルトルドは優しく微笑んでいるが、キュッリッキはそわそわと落ち着かない気分になった。友達のファニーにもそう言われたのだ。
「誰か、好きな人でも出来たのかな?」
別に責めるような口調ではない。表情はそのままに、穏やかに核心を突いてきた。
キュッリッキは瞬時にメルヴィンの顔を思い出して、頬を紅潮させると、困ったように俯いた。
「そうか、リッキーは恋をしたんだな」
「こ、恋?」
「ああ。とっても気になっている人を思い浮かべると、そんなふうに、顔が真っ赤になって恥ずかしくなってしまう。でも、好きで好きでしょうがないんだ。リッキーにとって、それは初恋だな」
「初恋…」
なら、自分はメルヴィンに、恋をしているんだろうか。
これまで愛というものも知らなかったキュッリッキにとって、恋などというものは無縁だった。
誰かをこんなふうに好きになるなんて、思いもよらなかった。ライオン傭兵団のみんなや、ベルトルドやアルカネットにたいする好きと、メルヴィンにたいする好きは、ちょっと違うということだけは判っていた。
「俺も、恋をしている」
ベルトルドは視線をベッドの天蓋に向けて、これ以上にないほど嬉しそうな顔で笑った。
「この歳になって、やっと恋をしているんだ」
「ベルトルドさんも、初恋……なの?」
やや遠慮がちに聞くと、ベルトルドは再びキュッリッキに視線を戻して頷いた。
「ああ。俺は、リッキーに恋をしている」
あまりにもサラッと告白されて、キュッリッキは反応に困った。
これまで愛しているだの大好きだのと言われてきたが、こうして面と向かって改めて言われると、なんだかとても恥ずかしい。恋というものを、自分でもしているからそう感じるんだろうか。
「俺はガキの頃、好きな人がいたんだが、それは恋には出来なかった」
「え?」
「アルカネットの奴と、同じ相手を好きになったんだ」
この地域の湿度は、それほど高くはない。陽の照っている場所ではうだるように暑いが、日陰に入ると途端に涼しく気持ちがいい。
ハーメンリンナは温度管理がされているし、ベルトルド邸の敷地には特別緑が多く生い茂っているので、夏場でも屋敷の中に気持ちのいい風が吹き込んでいる。
窓は全て開け放たれていたが、薄い麻のカーテンで日除けがされて、室内は柔らかな明るさに満ちていた。
「こうしてのんびりするのも悪くないな。病院だとごめんだが、リッキーと一緒だから気分がいい」
頭の下で両手を組んで、ベッドにごろりと寝転がりながら、ベルトルドは気持ちよさそうに言った。その傍らにぺたりと座っているキュッリッキは、冷たいオレンジジュースをストローで啜りながら、小さく肩をすくめた。
昨日退院――半ば逃亡――したベルトルドは、キュッリッキの前でだいじなコレクションが発覚して、大顰蹙を買った。
原因を作ったルーファスにたっぷり制裁を加えたあと、ベルトルドはコメツキバッタのごとく土下座までして、必死にキュッリッキに謝って怒りを解いて今に至る。
キュッリッキの信頼を取り戻すため、ベルトルドは血の涙を流しながら、だいじなコレクションをアルカネットの魔法で、全部焼却処分した。その陰でルーファスも滝のような涙を流したのは、言うまでもない。
「ちょっと見ない間に、変わったかな、リッキー」
「え?」
「雰囲気が少し変わった気がするぞ。それも、いい感じに」
相変わらずベルトルドは優しく微笑んでいるが、キュッリッキはそわそわと落ち着かない気分になった。友達のファニーにもそう言われたのだ。
「誰か、好きな人でも出来たのかな?」
別に責めるような口調ではない。表情はそのままに、穏やかに核心を突いてきた。
キュッリッキは瞬時にメルヴィンの顔を思い出して、頬を紅潮させると、困ったように俯いた。
「そうか、リッキーは恋をしたんだな」
「こ、恋?」
「ああ。とっても気になっている人を思い浮かべると、そんなふうに、顔が真っ赤になって恥ずかしくなってしまう。でも、好きで好きでしょうがないんだ。リッキーにとって、それは初恋だな」
「初恋…」
なら、自分はメルヴィンに、恋をしているんだろうか。
これまで愛というものも知らなかったキュッリッキにとって、恋などというものは無縁だった。
誰かをこんなふうに好きになるなんて、思いもよらなかった。ライオン傭兵団のみんなや、ベルトルドやアルカネットにたいする好きと、メルヴィンにたいする好きは、ちょっと違うということだけは判っていた。
「俺も、恋をしている」
ベルトルドは視線をベッドの天蓋に向けて、これ以上にないほど嬉しそうな顔で笑った。
「この歳になって、やっと恋をしているんだ」
「ベルトルドさんも、初恋……なの?」
やや遠慮がちに聞くと、ベルトルドは再びキュッリッキに視線を戻して頷いた。
「ああ。俺は、リッキーに恋をしている」
あまりにもサラッと告白されて、キュッリッキは反応に困った。
これまで愛しているだの大好きだのと言われてきたが、こうして面と向かって改めて言われると、なんだかとても恥ずかしい。恋というものを、自分でもしているからそう感じるんだろうか。
「俺はガキの頃、好きな人がいたんだが、それは恋には出来なかった」
「え?」
「アルカネットの奴と、同じ相手を好きになったんだ」
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