285 / 882
初恋の予感編
episode282
しおりを挟む
ベルトルドは僅かに首をかしげながらも、言われた通りに目を閉じる。
アルカネットたちも、不思議そうに2人を見ていた。
(よ、よし、頑張っちゃうんだからっ)
ドキドキする鼓動を煩わしく思いつつ、キュッリッキは意を決して実行に移した。
(えいっ!)
「ああああああ!!!」
アルカネットとメルヴィンの絶叫がとどろき、ルーファスとヴィヒトリは面白そうに目を見張った。
それは、キスと呼ぶにはあまりにも幼く、唇を押し付けただけの行為にしか見えなかった。しかしキスをすることに慣れていないキュッリッキにとっては、これが精一杯だ。
キュッリッキのこの突拍子もない行動に、アルカネットが悲鳴にも近い声で喚いた。
「リッキーさん一体どうしたんですか! 気でも狂れましたか!」
ベッドに両手をついて身を乗り出してくるアルカネットに、キュッリッキは困ったような笑みを向けた。
「えっとね、ベルトルドさんアタシのせいで入院までしちゃって、ゴメンナサイだし。それに、いつも大事にしてくれるから、なにかお礼がしたいかなって思ってて。ずっとアタシとキスしたがってたから、特別良いかな、なんて」
肩をすぼませ上目遣いに言う。そんなキュッリッキに、アルカネットは激しく首を横に振ると、叱るように見つめた。
「この人が入院したのは自業自得ですよ。リッキーさんのせいじゃないんです! こんな汚らわしいオッサンの口にキスなんかしたりして、ヘンな病気でも感染ったらどうするんですか!」
(酷い言われよう……)
ヴィヒトリは笑いを噛み殺しながら、心の中で呟く。
メルヴィンもなにか言いたそうな顔をしていたが、複雑な色を浮かべたまま無言でいた。
当のベルトルドは、ぽかんとした表情で硬直していた。周りの声は聞こえていないかのようである。
(リッキーが…、リッキーが…、俺にキスを……俺に…)
めくるめくような、甘く甘く、切ないほどの衝動が、全身を包み込み――
「きゃっ」
突然キュッリッキは両腕を掴まれ、ベッドに押し倒された。
一瞬閉じていた目を開くと、ベルトルドが馬乗りになって、鬼気迫る顔で見下ろしていた。
キュッリッキは怯えたように、ベルトルドを見上げた。こんなギラギラした表情は見たことがなかったので、とにかく怖かった。
(むしゃむしゃ食べられちゃいそう)
「いい加減にしろや」
怒りをにじませた低い声と、渾身のゲンコツがベルトルドの後頭部に炸裂する。アルカネットはベルトルドの襟首を掴んで、キュッリッキから引き剥がした。
「自制せい」
「――危なかった、止められなきゃホントに襲っていたぞ」
我に返ったような表情で、ベルトルドは危ない、危ないと繰り返した。意図的にではなく、ほぼ衝動的に襲う寸前だった。
目を閉じたあと、顔になにかが近づく気配がした。やがて唇に柔らかな感触がして、ハッと目を開けると、必死な面持ちのキュッリッキにキスされていた。
驚くまもなく理性が吹っ飛んで、アルカネットが止めなければどうしていたんだろうと内心焦る。それと同時に、キュッリッキからキスをしてきたという事実が、ベルトルドの心を、喜びでジワジワと満たしていった。
アルカネットたちも、不思議そうに2人を見ていた。
(よ、よし、頑張っちゃうんだからっ)
ドキドキする鼓動を煩わしく思いつつ、キュッリッキは意を決して実行に移した。
(えいっ!)
「ああああああ!!!」
アルカネットとメルヴィンの絶叫がとどろき、ルーファスとヴィヒトリは面白そうに目を見張った。
それは、キスと呼ぶにはあまりにも幼く、唇を押し付けただけの行為にしか見えなかった。しかしキスをすることに慣れていないキュッリッキにとっては、これが精一杯だ。
キュッリッキのこの突拍子もない行動に、アルカネットが悲鳴にも近い声で喚いた。
「リッキーさん一体どうしたんですか! 気でも狂れましたか!」
ベッドに両手をついて身を乗り出してくるアルカネットに、キュッリッキは困ったような笑みを向けた。
「えっとね、ベルトルドさんアタシのせいで入院までしちゃって、ゴメンナサイだし。それに、いつも大事にしてくれるから、なにかお礼がしたいかなって思ってて。ずっとアタシとキスしたがってたから、特別良いかな、なんて」
肩をすぼませ上目遣いに言う。そんなキュッリッキに、アルカネットは激しく首を横に振ると、叱るように見つめた。
「この人が入院したのは自業自得ですよ。リッキーさんのせいじゃないんです! こんな汚らわしいオッサンの口にキスなんかしたりして、ヘンな病気でも感染ったらどうするんですか!」
(酷い言われよう……)
ヴィヒトリは笑いを噛み殺しながら、心の中で呟く。
メルヴィンもなにか言いたそうな顔をしていたが、複雑な色を浮かべたまま無言でいた。
当のベルトルドは、ぽかんとした表情で硬直していた。周りの声は聞こえていないかのようである。
(リッキーが…、リッキーが…、俺にキスを……俺に…)
めくるめくような、甘く甘く、切ないほどの衝動が、全身を包み込み――
「きゃっ」
突然キュッリッキは両腕を掴まれ、ベッドに押し倒された。
一瞬閉じていた目を開くと、ベルトルドが馬乗りになって、鬼気迫る顔で見下ろしていた。
キュッリッキは怯えたように、ベルトルドを見上げた。こんなギラギラした表情は見たことがなかったので、とにかく怖かった。
(むしゃむしゃ食べられちゃいそう)
「いい加減にしろや」
怒りをにじませた低い声と、渾身のゲンコツがベルトルドの後頭部に炸裂する。アルカネットはベルトルドの襟首を掴んで、キュッリッキから引き剥がした。
「自制せい」
「――危なかった、止められなきゃホントに襲っていたぞ」
我に返ったような表情で、ベルトルドは危ない、危ないと繰り返した。意図的にではなく、ほぼ衝動的に襲う寸前だった。
目を閉じたあと、顔になにかが近づく気配がした。やがて唇に柔らかな感触がして、ハッと目を開けると、必死な面持ちのキュッリッキにキスされていた。
驚くまもなく理性が吹っ飛んで、アルカネットが止めなければどうしていたんだろうと内心焦る。それと同時に、キュッリッキからキスをしてきたという事実が、ベルトルドの心を、喜びでジワジワと満たしていった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる