片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode282

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 ベルトルドは僅かに首をかしげながらも、言われた通りに目を閉じる。

 アルカネットたちも、不思議そうに2人を見ていた。

(よ、よし、頑張っちゃうんだからっ)

 ドキドキする鼓動を煩わしく思いつつ、キュッリッキは意を決して実行に移した。

(えいっ!)

「ああああああ!!!」

 アルカネットとメルヴィンの絶叫がとどろき、ルーファスとヴィヒトリは面白そうに目を見張った。

 それは、キスと呼ぶにはあまりにも幼く、唇を押し付けただけの行為にしか見えなかった。しかしキスをすることに慣れていないキュッリッキにとっては、これが精一杯だ。

 キュッリッキのこの突拍子もない行動に、アルカネットが悲鳴にも近い声で喚いた。

「リッキーさん一体どうしたんですか! 気でも狂れましたか!」

 ベッドに両手をついて身を乗り出してくるアルカネットに、キュッリッキは困ったような笑みを向けた。

「えっとね、ベルトルドさんアタシのせいで入院までしちゃって、ゴメンナサイだし。それに、いつも大事にしてくれるから、なにかお礼がしたいかなって思ってて。ずっとアタシとキスしたがってたから、特別良いかな、なんて」

 肩をすぼませ上目遣いに言う。そんなキュッリッキに、アルカネットは激しく首を横に振ると、叱るように見つめた。

「この人が入院したのは自業自得ですよ。リッキーさんのせいじゃないんです! こんな汚らわしいオッサンの口にキスなんかしたりして、ヘンな病気でも感染ったらどうするんですか!」

(酷い言われよう……)

 ヴィヒトリは笑いを噛み殺しながら、心の中で呟く。

 メルヴィンもなにか言いたそうな顔をしていたが、複雑な色を浮かべたまま無言でいた。

 当のベルトルドは、ぽかんとした表情で硬直していた。周りの声は聞こえていないかのようである。

(リッキーが…、リッキーが…、俺にキスを……俺に…)

 めくるめくような、甘く甘く、切ないほどの衝動が、全身を包み込み――

「きゃっ」

 突然キュッリッキは両腕を掴まれ、ベッドに押し倒された。

 一瞬閉じていた目を開くと、ベルトルドが馬乗りになって、鬼気迫る顔で見下ろしていた。

 キュッリッキは怯えたように、ベルトルドを見上げた。こんなギラギラした表情は見たことがなかったので、とにかく怖かった。

(むしゃむしゃ食べられちゃいそう)

「いい加減にしろや」

 怒りをにじませた低い声と、渾身のゲンコツがベルトルドの後頭部に炸裂する。アルカネットはベルトルドの襟首を掴んで、キュッリッキから引き剥がした。

「自制せい」

「――危なかった、止められなきゃホントに襲っていたぞ」

 我に返ったような表情で、ベルトルドは危ない、危ないと繰り返した。意図的にではなく、ほぼ衝動的に襲う寸前だった。

 目を閉じたあと、顔になにかが近づく気配がした。やがて唇に柔らかな感触がして、ハッと目を開けると、必死な面持ちのキュッリッキにキスされていた。

 驚くまもなく理性が吹っ飛んで、アルカネットが止めなければどうしていたんだろうと内心焦る。それと同時に、キュッリッキからキスをしてきたという事実が、ベルトルドの心を、喜びでジワジワと満たしていった。
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