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初恋の予感編
episode280
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アルカネットとルーファスの共同作業でベッドに押し込まれたベルトルドは、盛大に口をヘの字に曲げて腕を組んでいた。
「これでは病院に居るのと変わらん!」
「薬品臭や計器の音がしないだけ、はるかにマシじゃないですか。やれ臭いだの煩いだのと、文句たらたらだったでしょう」
「俺はありのままの事実を言ったまでだ。ガキじゃあるまいし、文句たらたらとは心外だ」
「はいはい。とにかく黙っておとなしく、じっと寝ていなさい」
(この2人のやり取りは、本当に見てて一番楽しい……)
ルーファスはそっぽを向いたまま、心の中でしみじみ呟いた。41歳のオッサン同士が、母子のような会話をしているのだ。
やがてノックがして、ヴィヒトリが顔を見せた。
「おはようございまーす、ベルトルド様の診察も、ついでにきました」
「どうもすみません、先生」
気づいてアルカネットが出迎える。
「おや、リッキーさんもいらしてたんですね」
メルヴィンに抱きかかえられ、茹蛸のような真っ赤な顔でキュッリッキは頷いた。
「なに、リッキーがきているだと!」
メルヴィンが室内に入ると、ベッドの上で身を乗り出したベルトルドが、笑顔を向けていた。
「おいで、リッキー」
ベルトルドは両腕をキュッリッキのほうへ伸ばす。すると、メルヴィンの腕の中からふわりと身体が浮いて、ベルトルドに引き寄せられて、伸べられた腕の中にすとんとおさまった。
「リッキー、会いたかったぞ」
サイ《超能力》でメルヴィンから奪い取ったキュッリッキを、ベルトルドはたまらずぎゅっと抱きしめた。ほっそりと柔らかな少女の身体の感触が手に久しい。
1週間も愛でられなかった為、ベルトルドの腕にはつい力がこもってしまい、次第に苦しがるキュッリッキの反応にも気づかず、自分の世界に入り込んでいった。
キュッリッキの方はというと、いきなりのことに目を白黒させた。それに、メルヴィンから引き離されたことに、ムッとした感情が沸く。そこへ力いっぱい抱きしめられ、身体が痛くて苦しくなり、逃れようと身をよじった。
「ベルトルドさまー」
キュッリッキの様子に気づいたルーファスが耳元で叫ぶが、ベルトルドは幸せそうに目を閉じ浸っている。
「どきなさいルーファス、こういうときは、こうするのです!」
アルカネットは重厚なブロンズ製の馬の像を手にし、それを力いっぱいベルトルドの脳天に振り下ろした。
「だっ!」
目から火花が散るほどの衝撃を受けて、ベルトルドは唸り声を上げた。
(あーらら、縫わなきゃダメかなあ……)
片手で頭を押さえて悶絶するベルトルドを見ながら、ヴィヒトリは目を細めて心の中で嫌そうに呟いた。出勤前にどれだけ手間が増えるんだろうかと。
もう片方の手はキュッリッキの身体をしっかりと離さず、目に涙をにじませてアルカネットを睨みつけた。
「お前は俺を殺す気か!!」
「死ねばいいんですよ」
辺りに冷気が立ち込めそうなほど、殺伐とした表情でベルトルドを見下ろす。そんなアルカネットの行動に、ルーファスとメルヴィンは内心一歩退いた。思っていても出来ないことを実行してしまうところが、相変わらず容赦なかった。キュッリッキも驚いて大きく目を見張ったまま硬直している。
「せっかく退院してきたのに、また病院に送られたらどうするんだ! お前の辞書には手加減と労りの文字は書いてないのか!!」
「私の辞書はあたな以外の相手には、適用されるように出来ているんです。その汚らわしい手をどけて、リッキーさんを解放してください。可哀想に、あなたに絞め殺されるところだったんですから」
「ん? ああ……」
膝の上で硬直しているキュッリッキに、ベルトルドは苦笑を滲ませ笑いかけた。
「これでは病院に居るのと変わらん!」
「薬品臭や計器の音がしないだけ、はるかにマシじゃないですか。やれ臭いだの煩いだのと、文句たらたらだったでしょう」
「俺はありのままの事実を言ったまでだ。ガキじゃあるまいし、文句たらたらとは心外だ」
「はいはい。とにかく黙っておとなしく、じっと寝ていなさい」
(この2人のやり取りは、本当に見てて一番楽しい……)
ルーファスはそっぽを向いたまま、心の中でしみじみ呟いた。41歳のオッサン同士が、母子のような会話をしているのだ。
やがてノックがして、ヴィヒトリが顔を見せた。
「おはようございまーす、ベルトルド様の診察も、ついでにきました」
「どうもすみません、先生」
気づいてアルカネットが出迎える。
「おや、リッキーさんもいらしてたんですね」
メルヴィンに抱きかかえられ、茹蛸のような真っ赤な顔でキュッリッキは頷いた。
「なに、リッキーがきているだと!」
メルヴィンが室内に入ると、ベッドの上で身を乗り出したベルトルドが、笑顔を向けていた。
「おいで、リッキー」
ベルトルドは両腕をキュッリッキのほうへ伸ばす。すると、メルヴィンの腕の中からふわりと身体が浮いて、ベルトルドに引き寄せられて、伸べられた腕の中にすとんとおさまった。
「リッキー、会いたかったぞ」
サイ《超能力》でメルヴィンから奪い取ったキュッリッキを、ベルトルドはたまらずぎゅっと抱きしめた。ほっそりと柔らかな少女の身体の感触が手に久しい。
1週間も愛でられなかった為、ベルトルドの腕にはつい力がこもってしまい、次第に苦しがるキュッリッキの反応にも気づかず、自分の世界に入り込んでいった。
キュッリッキの方はというと、いきなりのことに目を白黒させた。それに、メルヴィンから引き離されたことに、ムッとした感情が沸く。そこへ力いっぱい抱きしめられ、身体が痛くて苦しくなり、逃れようと身をよじった。
「ベルトルドさまー」
キュッリッキの様子に気づいたルーファスが耳元で叫ぶが、ベルトルドは幸せそうに目を閉じ浸っている。
「どきなさいルーファス、こういうときは、こうするのです!」
アルカネットは重厚なブロンズ製の馬の像を手にし、それを力いっぱいベルトルドの脳天に振り下ろした。
「だっ!」
目から火花が散るほどの衝撃を受けて、ベルトルドは唸り声を上げた。
(あーらら、縫わなきゃダメかなあ……)
片手で頭を押さえて悶絶するベルトルドを見ながら、ヴィヒトリは目を細めて心の中で嫌そうに呟いた。出勤前にどれだけ手間が増えるんだろうかと。
もう片方の手はキュッリッキの身体をしっかりと離さず、目に涙をにじませてアルカネットを睨みつけた。
「お前は俺を殺す気か!!」
「死ねばいいんですよ」
辺りに冷気が立ち込めそうなほど、殺伐とした表情でベルトルドを見下ろす。そんなアルカネットの行動に、ルーファスとメルヴィンは内心一歩退いた。思っていても出来ないことを実行してしまうところが、相変わらず容赦なかった。キュッリッキも驚いて大きく目を見張ったまま硬直している。
「せっかく退院してきたのに、また病院に送られたらどうするんだ! お前の辞書には手加減と労りの文字は書いてないのか!!」
「私の辞書はあたな以外の相手には、適用されるように出来ているんです。その汚らわしい手をどけて、リッキーさんを解放してください。可哀想に、あなたに絞め殺されるところだったんですから」
「ん? ああ……」
膝の上で硬直しているキュッリッキに、ベルトルドは苦笑を滲ませ笑いかけた。
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