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初恋の予感編
episode277
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キュッリッキは目を覚ますと、アルカネットがベッドにも部屋にもいないことに首をかしげた。出仕する時間にはまだ早すぎる。
目を覚ますと、いつも横で優しく微笑みながら、アルカネットが見ている。さすがに最初の頃はびっくりしたが、最近では慣れてしまっていた。なので毎朝の恒例行事がないと、妙な違和感を覚えてしまう。そしてその違和感を感じる自分に、少し憮然となるキュッリッキだった。
暫く考え込み、今日はベルトルドが帰ってくるので、明日は休みをとったと、寝る前に話していたことを思い出す。
キュッリッキはゆっくりと身体を起こして、小さなアクビをした。
「フェンリル」
長椅子で寝ている相棒の名を呼ぶ。フェンリルは目を開けてすぐ起き上がると、ベッドに駆けてキュッリッキの膝に飛び乗った。
フェンリルの背を優しく撫でながら、キュッリッキはくすくすと笑う。
「ベルトルドさん今日帰ってくるんだって。また賑やかになっちゃうね」
やれやれといった顔で、フェンリルは目を細めた。
あの2人の人間は、キュッリッキを巡って何かと五月蝿い。毎日飽きもせず、朝晩取り合い騒ぎ立てる。騒々しさこの上ない日々が、今日には戻ってくるというのか。それを思うと、フェンリルはため息が出る思いだ。
キュッリッキを大切にしてくれているのは、見ていて判る。しかし、どうも度が過ぎる愛情を押し付けているように見えるのは、気のせいだろうか。
そんなフェンリルとは違い、キュッリッキはベルトルドが帰ってくるのが、心の底から嬉しかった。今ではとても、大事な人だから。
「ベルトルドさんが倒れちゃった原因は、アタシのせいなの。毎晩、毎晩、泣き喚いて、騒いで…。そのせいで寝られなくって、お仕事で疲れてるのに無理させちゃってた。だから身体壊しちゃったんだよね」
辛い気持ちや悲しい想いを、全て受け止めてくれた。今まで誰も感じてくれなかった心の声に、耳を傾けてくれた。嫌がらず、いつも優しい笑顔で。愛していると言いながら、慰めてくれた。
アルカネットも同じようにしてくれるが、ベルトルドのほうがもっと熱心だと、キュッリッキは感じていた。ベルトルドの想いの方が、強く心に染み込んでくるからだ。
「ベルトルドさんが帰ってきたらね、どうしてもお礼がしたいの」
フェンリルはキュッリッキを見上げると、どんな? と喉を鳴らす。
「アタシをこんなに幸せな気持ちにしてくれて、贅沢もいっぱいさせてくれて。アタシなんかじゃ大したお礼もできないけど、でもね、一つだけ、喜んで貰えそうなお礼があるの」
キュッリッキは神妙に眉間を寄せると、
「うまくできるか判らないけど、それしか思いつかないから。…頑張るの」
ちょっと困ったように笑う。フェンリルは眉間に縦ジワを刻んで、わからん、といった顔で鼻息をつくと、前脚に顎を載せた。
「早く帰ってこないかなあ」
テーブルに置かれた時計に目を向けると、針は午前7時を指そうとしていた。
目を覚ますと、いつも横で優しく微笑みながら、アルカネットが見ている。さすがに最初の頃はびっくりしたが、最近では慣れてしまっていた。なので毎朝の恒例行事がないと、妙な違和感を覚えてしまう。そしてその違和感を感じる自分に、少し憮然となるキュッリッキだった。
暫く考え込み、今日はベルトルドが帰ってくるので、明日は休みをとったと、寝る前に話していたことを思い出す。
キュッリッキはゆっくりと身体を起こして、小さなアクビをした。
「フェンリル」
長椅子で寝ている相棒の名を呼ぶ。フェンリルは目を開けてすぐ起き上がると、ベッドに駆けてキュッリッキの膝に飛び乗った。
フェンリルの背を優しく撫でながら、キュッリッキはくすくすと笑う。
「ベルトルドさん今日帰ってくるんだって。また賑やかになっちゃうね」
やれやれといった顔で、フェンリルは目を細めた。
あの2人の人間は、キュッリッキを巡って何かと五月蝿い。毎日飽きもせず、朝晩取り合い騒ぎ立てる。騒々しさこの上ない日々が、今日には戻ってくるというのか。それを思うと、フェンリルはため息が出る思いだ。
キュッリッキを大切にしてくれているのは、見ていて判る。しかし、どうも度が過ぎる愛情を押し付けているように見えるのは、気のせいだろうか。
そんなフェンリルとは違い、キュッリッキはベルトルドが帰ってくるのが、心の底から嬉しかった。今ではとても、大事な人だから。
「ベルトルドさんが倒れちゃった原因は、アタシのせいなの。毎晩、毎晩、泣き喚いて、騒いで…。そのせいで寝られなくって、お仕事で疲れてるのに無理させちゃってた。だから身体壊しちゃったんだよね」
辛い気持ちや悲しい想いを、全て受け止めてくれた。今まで誰も感じてくれなかった心の声に、耳を傾けてくれた。嫌がらず、いつも優しい笑顔で。愛していると言いながら、慰めてくれた。
アルカネットも同じようにしてくれるが、ベルトルドのほうがもっと熱心だと、キュッリッキは感じていた。ベルトルドの想いの方が、強く心に染み込んでくるからだ。
「ベルトルドさんが帰ってきたらね、どうしてもお礼がしたいの」
フェンリルはキュッリッキを見上げると、どんな? と喉を鳴らす。
「アタシをこんなに幸せな気持ちにしてくれて、贅沢もいっぱいさせてくれて。アタシなんかじゃ大したお礼もできないけど、でもね、一つだけ、喜んで貰えそうなお礼があるの」
キュッリッキは神妙に眉間を寄せると、
「うまくできるか判らないけど、それしか思いつかないから。…頑張るの」
ちょっと困ったように笑う。フェンリルは眉間に縦ジワを刻んで、わからん、といった顔で鼻息をつくと、前脚に顎を載せた。
「早く帰ってこないかなあ」
テーブルに置かれた時計に目を向けると、針は午前7時を指そうとしていた。
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