片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode276

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「せっかくのところ済みませんが、そろそろお開きに」

 申し訳なさそうに声をかけるメルヴィンに、ハドリーとファニーは頷いた。

「もう夕方だしな。リッキーも病み上がりなんだから、あんま無理するんじゃないぞ」

「うん…」

 もうお別れの時間なのだと、キュッリッキはしょんぼりと俯いた。もっと2人と一緒に居たかった。

「お茶とお菓子美味しかったです。つい全部食べちゃった」

 控えていたメイドのアリサに、えへへっとファニーは笑いかける。

「お口に合って良かったです。まだたくさん余っているので、よかったらお包みしましょうか?」

「え、いいんですか?」

「ええ。お嬢様はあまりお召し上がりになりませんから、余っても勿体ないですし」

「う…」

「やったあ~」

「すぐにお持ちしますね」

「ありがとうございます!」

 さり気なくアリサに嫌味を言われたキュッリッキは、唇を尖らせる。

「行きましょうか」

 笑いを噛み殺しながら、メルヴィンはキュッリッキを腕に抱き上げた。



「仕事だからって、もう無理しちゃダメだからね」

「身体に気をつけてな」

 ゴンドラに乗り込んだ2人に、キュッリッキは寂しそうに笑いかけた。今生の別れというわけじゃないが、また暫く会えなくなるだろう。

 自分たちは傭兵だ。危険と隣り合わせの中で働いている。だからいつ命を落とすか判らないのだ。それを思うと、こうして会って話ができる時間が、とても貴重に感じられた。

「これをどうぞ」

 アリサがファニーに大きな紙袋を手渡す。

「わーい。ありがとうございます」

「たくさん詰めておきましたから、お召し上がりくださいませ」

「すっごく美味しかったから嬉しい~」

「そんなに食べたら太るんだよ…」

 キュッリッキがボソリと呟くと、

「あたしはあんたと違って、身体をいっぱい動かすから、すぐにカロリー消費しちゃうのよ」

「ぶー」

 得意げなファニーに、キュッリッキは口を尖らせた。

「んじゃ、オレちょっと2人を門まで送ってくるよ」

「お願いします」

「またね、リッキー」

「今度飯でも食おうぜ」

「うん、またね!」

 ファニーとハドリー、そしてルーファスを乗せたゴンドラが、静かに滑り出して、ベルトルド邸の前を離れていった。

 ゆるりと遠のいていくゴンドラを、キュッリッキは暫く見つめていた。

「元気になって、また会いに行けばいいですよ」

「そうだね。そうする…」

 穏やかな笑みを浮かべるメルヴィンの顔を見上げながら、キュッリッキは寂しそうに頷いた。
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