片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
278 / 882
初恋の予感編

episode275

しおりを挟む
「でも副宰相とアルカネット氏は、本気なんだな」

「そうなのかなあ…」

 たぶん本気なんだろうとハドリーは思う。説明された範囲でしか想像は出来ないが、歳の離れた少女にそこまでご執心なのだ。

 イソラの町までキュッリッキを迎えにきた、ベルトルドとアルカネットの姿を思い出し、間違いないと確信した。

 召喚スキル〈才能〉を持っているからキュッリッキを迎えに来たんじゃない、愛する者だから迎えに来たのだと。アルカネットの見せた苛烈な行動を思い起こすと、ゾッとするほどに。

(それにしても、まさかリッキーが恋してるなんてなあ)

 人見知りで、なかなか他人に心を開かないキュッリッキが、ちょっと見ない間に恋をしている。話を聞いている感じだと、恋、というものがよく判っていないかんじが少々不安だが。

 ライオン傭兵団に入ったことで、精神的にとても大きく成長したんだと感じさせた。キュッリッキにとって、抜群に相性がいい場所なんだろう。

(もう、心配いらないな)

 ハーツイーズのアパートに、泣きながら帰ってくることは、もうないだろう。くることがあるとすれば、笑顔で遊びに来るくらいだ。

 ハドリーにとって、キュッリッキは妹のような存在なのだ。初恋が上手く実ればいい、そう率直に思った。そしてファニーも、キュッリッキを妹のように思っている。だから何かと口うるさい。

「いい? 不可抗力のキスの大盤振る舞いはしょうがないとしても、本気のだけは、本当に好きな相手のために、大事に取っておきなさいよ。つまり、メルヴィンさんのためにとっておけってことね」

「うん…」

 キュッリッキは再び顔を赤くして頷いた。メルヴィンの優しく微笑む顔を思い出して、身体の芯から恥ずかしくなる。

「それといい機会だから、髪型も変えちゃいなさいよ~」

「髪型を?」

「うん。だってー、あんた前髪いっつも短くしすぎるし、お子様丸出しなんだもん。相手は年上なんだから、もうちょっと大人っぽくしなさい」

 キュッリッキはだいぶ伸びた前髪をつまんで引っ張る。多少くせっ毛なので、短くすると必要以上に短く縮んでしまうのだ。

「それに、ストレートが取れてきちゃったわね」

「うん。かけ直したほうがいいかなあ?」

「ああ、ダメダメ。せっかくゆるふわに波打っててイイ感じなんだから、ストレートなんかかけちゃ勿体無いわよ」

「そっかあ」

「あんたの場合は、ストレートより波打ってるほうが、似合ってるわよ」

「じゃあ、ストレートかけるのやめる~」

 そんな2人の様子に、ハドリーは肩をすくめて苦笑した。

 ファニーがキュッリッキを相手に、オシャレの話を熱心にしている。キュッリッキは素が申し分ない美少女なので、何を着せても可愛いのだ。それであまりオシャレの話をすることはなかったが、ついにキュッリッキが恋をしたものだから、何故かファニーは張り切っている。アドバイス出来ることが楽しいのだろう。

 キュッリッキの初恋話がひと段落すると、ソレル王国の一件では、ファニーとハドリーは正規の報酬プラス、ベルトルドから特別報酬がたっぷり支払われて、懐具合がぐんと温かいこと。傭兵ギルド間では、キナ臭い仕事がモナルダ大陸方面から大量に舞い込んできて、傭兵たちを喜ばせていることなどを報告し合った。

 3人とも話したいことはもっともっとあるが、空が陰り出した頃、メルヴィンとルーファスが迎えにやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...